統合失調症と解離性障害の6つの違い―幻聴だけで誤診されがち


一般人のイメージでは、声の幻聴は統合失調症とほぼ同義語である―声が聞こえる人の大半は統合失調症ではないので、これは大きな誤解だ。(p76)

れは、有名な脳神経科医、オリヴァー・サックス先生の見てしまう人びと:幻覚の脳科学という本からの引用です。

日本でもアメリカでも、精神科医の中には、今だに、患者に幻聴があると知ると、安易に統合失調症と診断してしまう人が少なくないようです。

しかしオリヴァー・サックス先生の言葉が示すように、幻聴がある人の大半は統合失調症ではありません。

幻聴を伴い、統合失調症と間違われやすいものの代表例は、解離性障害とアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)だと言われています。

この記事では、特に、統合失調症と解離性障害の違いについて、解離の専門家の本を参考にまとめてみました。アスペルガー症候群との違いについても少しだけ取り上げています。

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これはどんな本?

今回おもに参考にした本は、解離の専門家、岡野憲一郎先生の わかりやすい「解離性障害」入門、そして柴山雅俊先生の解離の病理―自己・世界・時代解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)などです。

いずれの本でも、統合失調症と解離性障害の鑑別に多くのページが割かれているので、この二つの病状を鑑別するのは、専門家にとっても重要なポイントであることがうかがえます。

とてもよく似ているので見分けにくい

統合失調症と解離性障害が混同されることの背景には、医師でさえなかなか見分けるのに苦労するという事情があるようです。

今では解離性障害の専門家として知られる岡野憲一郎先生も、解離性障害について本格的に学び始めた時期のことについて、続解離性障害の中でこう振り返っています。

メニンガーで初めて解離の患者の症例検討会に出席したときには、私自身も「どうしてこれが統合失調症でないのか?」という感じでした。(p204)

解離性障害と統合失調症は確かによく似ていて、いくつもの共通点があります。たとえば次のような類似点を挙げることができます。

統合失調症と解離性障害の共通点

■幻聴などの幻覚症状
■さまざまな身体症状や知覚過敏
■体の中に異物があるように感じる体感異常(セネストパチー)
■だれかに操られているような感覚(自我境界の障害)
■子どものころから「いい子」だった

冒頭で引用したサックス先生の言葉通り、わかりやすい「解離性障害」入門によると、特に昨今の精神科領域では、幻聴があると聞くと、すぐに統合失調症と診断する傾向が見られています。

特にもう何年も前に資格を得た大部分の精神科医にとっては、「幻聴といえば統合失調症」という観念が染みついているのです。

すると患者さんが「誰もいないのに声が聞こえます」と言っただけで、精神科医が「この人は統合失調症だ」と判断してしまい、その後はその路線に従った治療や薬の処方がされてしまうというわけです。(p129)

しかし、このようにして安易に統合失調症と診断されている人の中には、相当数の解離性障害やアスペルガー症候群の患者が紛れていると考えられます。

特に、聴覚が過敏になったり、誰もいないのに自分の名前を呼ぶ声が聞こえたり、音楽が勝手に聞こえたりする幻聴は、以前は初期統合失調症とみなされていましたが、実際には解離性障害である可能性が高いと言われるようになりました。(p71)

もちろん、解離の病理―自己・世界・時代によると、統合失調症とも解離性障害とも区別しがたい中間病態もあり、両者に詳しい専門家でも迷うケースもあるといいます。(p188)

しかし、たいていの場合は鑑別可能であり、そのことは治療にとっても重要だとされています。正しい診断に至らなければ、良かれと思って受ける治療によって悪化することさえあるのです。

解離性障害と統合失調症の6つの違い

それではこれから、解離性障害と統合失調症の6つの違いを見ていきましょう。

もちろん、すべての場合にはっきりと違いが明らかなわけではなく、解離性障害といえども統合失調症のような特徴を持っていたり、その逆の場合もあったりするかもしれません。

しかし全体的な傾向として判断すれば、どちらのほうが近いか、ということは判別できるのではないかと思います。

1.幻聴

まず最初に取り上げるのは、すでに述べたように解離性障害が統合失調症と誤診される一番の原因となっている幻聴です。

確かに、統合失調症と解離性障害とでは、どちらも幻聴が見られるという点は共通しています。しかし、それぞれ特徴が異なっているそうです。

岡野憲一郎先生はこちらの記事の中でこう書いています。

 解離性障害の場合は、幻聴を日常生活の一部として受け入れていることも少なくない。

物心ついた時からすでに幻聴が聞こえている場合には特にその傾向が強い。

他方統合失調症の方は、発症の数ヶ月前から徐々に幻聴が聞こえ始めたり、場合によってはある日突然声が聞こえ始めたりすることが普通であり、またその声により日常生活もままならないほど苦痛や怯えを感じていることが多い。

解離性障害の幻聴は、幼少期から当たり前のように存在していることも多く、自我異和的な内なる声のように認識されています。

解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論にはこうあります。

解離性の幻聴で多いのは単に自分の考えが誰かの声として聴こえてくるという形式である。

そこには知られるはずのない自分の思考内容がどういうわけか他者の声として聴こえるという唐突な不意打ちはない。

解離において他者はあたかも自己であるかのようであり、その他者にこだわるということは少ない。

統合失調症では他者と自己は明確に区別されており、その上で自己は他者に圧倒され、先行されているという矛盾的構造がある。(p185)

統合失調症の幻聴は、頭の中と外とがつながって筒抜けであるという感覚を伴い、はっきりと自分の考えを読まれていると感じるのに対し、解離性障害ではあくまでいろいろな人(交代人格や空想の友人)のさまざまな声が聞こえるという感じなのでしょう。

統合失調症の幻聴

■自分の思っていること、感じていることをずばり言われるので驚く
■幻聴の内容は不明瞭ながらおおむね敵対的
■幻聴は頭の外から聞こえる場合も中から聞こえる場合もある
■周りの人に思考がもれて筒抜けになっていると感じる
■声の主はだれかわからない。あるいは神や悪魔の超越的存在の啓示とみなすことも

解離性障害の幻聴

■幻聴の内容はさまざま
■幻聴は頭の中から聞こえることが多いが、ぬいぐるみや人形などに投影されることも
■ザワザワと人の声がしたり、気配を感じたりすることもある
■交代人格が関係している場合、誰の声かわかる。かつての加害者の声のことも
■物心ついたときからずっと聞こえていることもある

(解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)p75、わかりやすい「解離性障害」入門 p71-72、130、離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合p124などに基づく)

2.幻視

次に取り上げるのは幻視です。幻視も幻聴と同じく幻覚の一種ですが、統合失調症と解離性障害とでは大きな違いがあるそうです。

解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合にはこう書かれています。

他方の幻視はどうか。統合失調症においては少ないとされる幻視は解離性障害では比較的多く聞かれる。

また統合失調症の幻視が奇怪な内容であるのに対し、解離性障害の幻視の内容はおおむね現実的で、過去のトラウマのフラッシュバックという色彩を持つ (Bremner,2009)。

しかし他方では、幽霊を見るケースも報告されている。(Hornstein,et al.,1992)(p125)

幻視は、統合失調症ではあまりなく、解離性障害に多い症状といえます。もちろん幻視をともなう病気は他にも色々あるので鑑別は大事です。

ちなみに、意識と無意識のあいだ 「ぼんやり」したとき脳で起きていること (ブルーバックス)には、幻覚について、次のような記述がありました。

患者たちは左右いずれかの側頭葉の手術に臨んだが、左右の割合はほぼ同じで、電気的に幻覚を誘発できたのは520人中わずか40人だった。

その40人のうち25人で、てんかんが始まる焦点は脳に非優位半球(たいていの場合は右半球)にあった。

このことは右半球が幻覚を起こすというジェインズの考えをいくらか裏づけるように思われるが、右半球に起きがちな幻覚は視覚性であり、聴覚性の幻覚は左右の別なく起きる。(p163)

解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合によれば、解離とは「一種の右脳の機能不全」であり、「右の前帯状回こそが解離の病理の座であるという説もある」ので、視覚性の幻覚が解離性障害に多いことと関連性がありそうです。(p19-20)

統合失調症の幻視

■幻視はほとんどない
■幻視がある場合は奇怪な内容が多い

解離性障害の幻視

■豊かな幻視があり、人の影やはっきりしたイメージが見える
■おおむね現実的な内容で、過去のトラウマのフラッシュバックのこともある。
■天使・幽霊・小人・動物などが見えることもある
■空想の友達の幻視など、対話できる場合もある。

(わかりやすい「解離性障害」入門p72-73、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)p75、解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合p125などに基づく)

3.対人関係

三番目に取り上げるのは、統合失調症の人と解離性障害の人の、他人に対する接し方の違いです。

解離の病理―自己・世界・時代にはこう書かれています。

解離性障害の患者は、治療者や周囲に対して、不信感や攻撃性をそれほど露わにしない。むしろ、陽性転移が治療関係を覆っており、治療者に依存的である。

彼らは周囲に対する同調性のために、一般的に対立を回避しようとする傾向がある。

それに対して統合失調症の場合は、どこか医療側の治療方針や説得を受け付けないところがみられる。服薬なども拒否しがちである。

微妙に拒否が漂っているが、それが単なる拒否ではなく、了解しがたいところを含んだ拒否であるならば、いっそう統合失調症が疑われる。(p189)

一般的に、統合失調症の人は他人から自分を守ろうとして防衛的になるのに対し、解離性障害の人は、他人に同調する傾向があるようです。

統合失調症の対人関係

■他人との間に壁を作って自分を守ろうとする
■他の人を拒絶して自己に固執する
■治療者に対して拒否的で、治療方針や説得、服薬指導を受けつけないことがある

解離性障害の対人関係

■体調が改善すると気軽に仕事に就き、接客業・サービス業などを選びやすい。
■他者を助けることが好きで、入院中でもまわりを和ませる
■虐待する親をさえ世間からかばうこともある
■治療者に依存的で対立を回避する
■不信感や攻撃性をそれほどあらわにしない

(解離の病理―自己・世界・時代p23、p189などに基づく)。

解離性障害の人の強い同調性についてはこちらの記事に詳しく書いています。

空気を読みすぎて疲れ果てる人たち「過剰同調性」とは何か
空気を読みすぎる、気を遣いすぎる、周囲に自分を合わせすぎる、そのような「過剰同調性」のため疲れ果ててしまう人がいます。「よい子」の生活は慢性疲労症候群や線維筋痛症の素因にもなると言

4.妄想的な思考 

四番目は、妄想的な思考についてです。統合失調症というと、思い込み・確信などの妄想がよく知られていますが、解離性障害ではその点が大きく異なるといいます。

HSP(感受性の強い人)や解離に詳しい長沼睦雄先生は子どもの敏感さに困ったら読む本: 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方の中で、統合失調症と解離をこう区別しています。

統合失調症がある人は自分が病気だという意識がないので、「それは変でしょ?」とこちらが聞いても、「いや、変じゃない。あなたがわからないだけです」と言います。

解離の人たちは「それ、変でしょ?」と聞くと、「そうですよね、変だと自分でも思うんですけど、そう感じるんですよ」とか「変ですよね、でも聞こえるんです」と言います。(p158)

統合失調症が妄想的な思考を持ちやすく、他の人から見た自分のおかしさを意識できないのに対しろ、解離では客観的、理性的な思考が保たれています。

同様の点について、解離の病理―自己・世界・時代にもこう書かれています。

解離性障害の場合、過去のさまざまな体験について夢のように捉え、現実であるのか夢なのか区別が曖昧であることも多い。そのため概して患者は確信性や自己主張が乏しい。

妄想的な要素が見られた場合は統合失調症か否かを慎重に判断する必要がある。

ちなみに解離性障害では一級症状に類似した症候を呈するが、妄想知覚のみは例外であり、解離では決して見られない。(p189)

統合失調症の人は、妄想的な信念・思い込みを持っていて、考えを容易に変えないのに対し、解離性障害の人は、自分の記憶にさえ確信が持てず、周囲の人の言葉に影響されやすいことがわかります。

柴山雅俊先生の解離の舞台―症状構造と治療によると、解離性障害の人たちの性格特性は、妄想的であるどころかむしろその逆で、妄想を抑制する傾向にあるといいます。

過剰同調性に見られるように、解離の患者は他者に過剰に気を遣い、周囲の他者に合わせる傾向が顕著である。

他を変形するのではなく、自を変形することによって直面する状況を乗り越えようとする。そのため自己と他者の対立的関係は成立しがたい。

こうした「我の弱さ」は解離性障害の妄想形成に対して抑制的に働く要因のひとつになっている。(p235)

それに対して妄想形成は、ある種の自他の対立的性格、現実世界に密着した我の強さと関連しているように思われる。(p236)

解離性障害の夢のようなあやふやな世界は、統合失調症の確信のこもった妄想的な世界とは対極に位置しています。

統合失調症の思考

■自分の考えがだれかに盗まれている、読まれていると思い込む(思考伝播)
■だれかの考えを吹きこまれている、だれかに操られていると思い込む
■幻聴について、頭の中にだれかが小さな機械を埋め込んだと信じている場合などがある
■過去の虐待などがある場合、妙に確信を抱いている

解離性障害の思考

■他人の考えが頭に入ってくると感じることもあるが、そう感じるだけで確信はしていない
■だれかに監視されている、見られているという気配を感じることもあるが、あくまで不安を感じるだけ
■過去の虐待経験などは夢のようにとらえ、現実だったのかどうかあいまいに感じている

(解離の病理―自己・世界・時代p189 解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)p74-75、わかりやすい「解離性障害」入門p72などに基づく)

5.幼少時からの特徴

五番目に考えるのは、それぞれの幼少時からの主観的体験です。統合失調症の人も、解離性障害の人も、発症前の子ども時代から手のかからない「いい子」だったと言われることがよくあります。

そのような「いい子」であろうとして自分を抑圧していたストレスが両者の発症に結びついていることは確かですが、特に解離性障害の場合は、そのほかにも独特な幼少時からの体験世界があるといいます。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)にはこう書かれています。

解離の患者は小児期にさまざまな不思議な体験をしている。

彼らはそのような体験が誰にでもある普通のことと思っていたり、それを言ったために人に違和感をもたれたり、あるいはそのような体験について人に言わないよう釘を刺されたりしていることが多い。

…米国の心理学者ウィルソンとバーバーは催眠感受性の研究で偶然に「空想傾向(fantasy-proneness)」を見つけ、高度に催眠に陥りやすい郡は空想に広く、そして深く没入する傾向があることを観察した。(p120-121)

統合失調症が、発症を契機にさまざまな症状が出てくるのに対し、解離性障害の場合は、子どものころから解離しやすい傾向を持っており、いろいろと不思議な経験をしていることがあるのです。

統合失調症の幼少時の特徴

■子どものころに幻聴や不思議な体験は特にない
■子どものころはおとなしく目立たない子だった場合が多い
■統合失調症が発症する数カ月前ごろから前兆として幻聴が聞こえ出すので、恐れや苦痛が強い

解離性障害の幼少時の特徴

■子どものころから独特な夢の体験がみられる
■子どものころから空想に没入する傾向がみられる
■子どものころからイマジナリーコンパニオン(空想の友達)の声として幻聴が聞こえていることも多いので、日常的で当たり前のことと感じている
■とても豊かで詳細な空想世界を築いていることも多い

(解離の病理―自己・世界・時代p188、わかりやすい「解離性障害」入門p130-131などに基づく)

この点については以下の記事も参考にしてください。

宮沢賢治の創造性の源? 「解離性障害―『うしろに誰かいる』の精神病理」
「後ろに誰かいる」「現実感がない」「いつも空想している」。こうした心の働きは「解離」と呼ばれています。『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 』という本にもとづいて、解離と創
解離しやすい人の変な夢ー夢の中で夢を見る,リアルな夢,金縛り,体外離脱,悪夢の治療法など
「解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病」など、さまざまな本を参考に、解離しやすい人が見る変な夢についてまとめました。夢の中で夢を見る、夢の中に自分がいる、リアルな夢

6.させられ体験・自動症

最後に、統合失調症と解離性障害には、どちらの場合も、だれかが自分を操っているように感じる「させられ体験」がみられるといいます。

1889年、フランスのピエール・ジャネは、このような体験について「自動症」と呼び、解離やトラウマと関連づけたといいます。

この「させられ体験」も、統合失調症と解離性障害では、それぞれ異なる特徴があると言われています。

解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)にはこうあります。

解離ではまず自明な自があって、そこに他が入ってくるのをどこかで感じている。自はその他の力に身を任せ、他になりきってふるまうことさえもある。

あくまで「なりきる」のであり、統合失調症の作為体験のように「させられる」ことはない。

「自に他を取り入れている」のであって、「自が他によって取り入れられている」のではない。(p150)

統合失調症のさせられ体験は、だれかに思考を先取りされている、自分のコントロールを奪われているといった妄想と関連しているようです。

一方、解離性障害のさせられ体験は、解離されていて意識していないトラウマ記憶による「再演」なのでしょう。

つまり、潜在的な感覚記憶(手続き記憶)として保存されているトラウマの記憶が、過去のトラウマ経験を思い出させるような状況に直面したときに無意識のうちに活性化し、そのときの感情や行動を勝手に再現してしまう、ということです。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法では、解離の「自動症」について、具体的にこう説明されています。

イレーヌは母親の死の記憶を失っていたのに加え、別の症状も示した。週に何度か、彼女は我を忘れて空のベッドを見つめ、周囲で何が起こっていようとかまわずに、いもしない人物の世話を始めるのだった。

…イレーヌは母親の死の意識的な記憶をいっさい持っていなかった。つまり、彼女は何が起こったかを語れなかった。

だが、その一方で、母親が死んだときの出来事を、体を使って表現せずにはいられなかった。

ジャネの言う「自動症」は、意図されずに無意識のうちにとられるという、彼女の行動の性質をうまく捉えている。(p295-296)

この「自動症」には、多重人格(解離性同一性障害)や催眠とも共通する要素が含まれていると考えられます。トラウマ記憶を抱え持った人格へ、無意識のうちに交代(スイッチング)してしまうということだからです。

解離性障害のさせられ体験とは、

統合失調症のさせられ体験

■自分の行動や意思、感情をだれかに先取りされ操られていると信じている(他者の先行性)

解離性障害のさせられ体験

■だれかが自分に憑依するような感覚がある
■だれかが乗り移っているときは、自分は背後からそれを傍観している
■自分の手が勝手に文章を書く(自動書記)
■自分の手が勝手にリストカットしてしまう

(わかりやすい「解離性障害」入門p67-70、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)p75などに基づく)。

付録 : 統合失調症とアスペルガー症候群の違い

今回は詳しく取り上げませんが、すでに述べたように、解離性障害と同様、統合失調症と誤診されやすいものとしてアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)があります。

統合失調症とアスペルガー症候群の違いについては、杉山登志郎先生の発達障害のいま (講談社現代新書)のp202以降で詳しく解説されています。

いくつか簡単に違いを挙げると…

統合失調症とアスペルガー症候群の違い

■アスペルガー症候群の幻聴・幻視は、じつは過去の体験のフラッシュバック
■アスペルガー症候群の場合は、しばしば解離性障害に似た特徴(人格のスイッチングなど)もある
■アスペルガー症候群の場合は、親族にも発達障害の人が多い
■アスペルガー症候群の場合は双極性障害に似た気分の上下を伴いやすい
■統合失調症の人が会話のほうが楽なのに対し、アスペルガー症候群では筆記のほうが楽

などの点が挙げられています。

この中にも挙げられていますが、単なる統合失調症ではなく、統合失調症+双極性障害の合併のような症状がある場合、実際にはアスペルガー症候群+愛着障害の合併という可能性があるのではないかと思います。

もちろん、統合失調症であるか、アスペルガー症候群であるかを見分けるには、発達障害や解離に詳しい専門家の判断が必要でしょう。

また、アスペルガー症候群と解離性障害もよく似ているとされていて、その類似点や相違点はこちらにまとめてあります。

アスペルガーの解離と一般的な解離性障害の7つの違い―定型発達とは治療も異なる
一般にアスペルガー症候群などの自閉スペクトラム症(ASD)は解離しやすいと言われていますが、定型発達者の解離性障害とは異なる特徴が見られるようです。その点について、解離の専門家たち
「解離型自閉症スペクトラム障害」の7つの特徴―究極の少数派としての居場所のなさ
解離症状が強く出る解離型自閉症スペクトラム障害(解離型ASD)の人たちの7つの症状と、社会の少数派として生きることから来る安心できる居場所のなさという原因について書いています。

統合失調症と解離性障害では治療法も違う

統合失調症と解離性障害がまったく別の病気であるのか、それとも中間病態も存在する連続する病態なのか、という点は、今も専門家の間でさまざまな意見があります。

しかし、今のところ、多くの症例において、統合失調症と解離性障害を区別することは可能であり、そうするのは大切だと言われています。

なぜなら、どちらと診断されるかによって、どのような治療法がふさわしいか、という点もそれぞれ変わってくるからです。

薬物治療が違う

たとえば、わかりやすい「解離性障害」入門によると、解離性障害の場合、精神科の薬は、幻聴そのものにはあまり効果がないそうです。

しかし統合失調症の場合は比較的効果があり、場合によっては劇的におさまることもあります。(p131)

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)によると、薬物療法については、そもそも用いられる薬の分量が異なるとも書かれています。

解離性障害でも抗精神病薬を用いるが、処方される量は少ない。

統合失調症では大量に用いられてしまうことも(p74)

統合失調症は薬物治療が中心ですが、解離性障害はカウンセリングが中心で、長期間・大量の薬物治療が施されると、かえって悪化する危険があるそうです。(p89)

具体的な薬物治療については発達障害の薬物療法-ASD・ADHD・複雑性PTSDへの少量処方という本のp84からを参考にしてください。

この本には解離やPTSDに対する少量処方の意義について書かれています。薬物療法は、大量処方のときと少量処方のときとで効果が違ってくるという説明はとても興味深く思います。

精神科の薬の大量処方・薬漬けで悪化しないために知っておきたい誤診例&少量処方の大切さ
杉山登志郎先生の「発達障害の薬物療法」に基づき、統合失調症・うつ病・双極性障害と誤診されやすい発達障害とトラウマ関連障害の治療と少量処方の意義についてまとめています。

回復しやすさも違う

統合失調症と解離性障害とでは回復しやすさも異なるそうです。

統合失調症は、重症の場合には日常生活が破綻し、しかも復帰が非常に難しい病気です。

それに対し、解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)という本によると、解離性障害は「統合失調症のようにみえても実際はそうではなく、じゅうぶん回復可能な病態」であると書かれています。(p199)

その理由について、解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)では、解離性障害は統合失調症のような脳の病気ではなく、健康な人にも存在するありふれた症状が強く出ている状態にすぎないからだとされています。(p56)

解離の病理―自己・世界・時代によると、元日本精神病理・精神療法学会理事長の松本雅彦先生もこう書いています。

それでも解離性障害は、そこから脱出する可能性を多く秘めている病気である。

その経過は波状性、周期性の症状を特徴とするが、社会で何らかの居場所を築いてゆくにつれ解離症状出現の頻度が少なくなって行く患者が存在することは否定できない。

少なくとも統合失調症にみられる人格の硬化・崩壊がみられることはきわめて稀である。(p21)

解離新時代―脳科学,愛着,精神分析との融合において、岡野憲一郎先生も、それと同様の点をこう述べています。

1911年にブロイラーBluelerがschizophrenia(一昔前の「精神分裂病」、現在の「統合失調症」)の概念を生み出して以来、それと解離性障害との異同がさまざまに論じられてきているが、そのこと自体が両者を区別して論じるべき必要があることを示している。

端的に言えば、精神病の代表ともいえる統合失調症は、一般的に時と共に人格の崩壊に向かい、予後も決してよくない。

他方、解離性障害は社会適応の余地を十分に残し、また年を重ねるにつれて症状が軽減する傾向にある。

両者は全く別物であるというのは、この予後の観点から特に言えることなのだ。(p123)

統合失調症の治療法については、詳しく説明されているサイトが山ほどあるので、そちらに譲ります。

解離性障害の治療法については、今回紹介した色々な本で詳しく説明されています。このブログのこちらの記事でも、簡単にまとめてあります。

多重人格の原因がよくわかる8つのたとえ話と治療法―解離性同一性障害(DID)とは何か
解離性同一性障害(DID)、つまり多重人格について、さまざまな専門家の本から、原因やメカニズムについて理解が深まる8つのたとえ話と治療法についてまとめました。

解離性障害と統合失調症の双方に詳しい柴山先生は、解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論でこう述べています。

おおかたの臨床では、解離性障害と統合失調症は鑑別が可能であるが、中にはどちらにも判断できない症例も存在する。

安易にどちらかに診断するのではなく、全体像を把握しながら経過を追い、偏りがない柔軟な対応が不可欠であろう。(p174)

残念ながら、今はまだ精神科医の中にも、解離性障害についての知識を持っている人は少なく、一度統合失調症と誤診されると容易には覆りません。

一方で、統合失調症には、自分の妄想を妄想だと気づけない、という問題があるので、この記事を読んで、自分は妄想がないから統合失調症ではなく解離性障害である、と自己診断したとしても、専門知識のある第三者の判断を仰がない限り、本当のことはわかりません。

患者や家族は、自分で調査するとともに、病態についてしっかり知識を得て、適切な病院を選び、信頼できる専門家による治療を求める必要があるでしょう。

そのために、今回紹介した解離性障害についての本の数々はおすすめです。

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