心の中に創られる別人格の8つの特徴―解離性同一性障害とイマジナリーコンパニオン


「あの人は二重人格だ」

身近な人の、意外な、あまり好ましくない一面を知ってしまうと、そうつぶやく人がいます。

普段は優しい人が家庭では横暴だったり、人前では謙虚な人が二人きりになると高圧的だったりすると、あたかも「二重人格」や「多重人格」のように思えるかもしれません。

しかし、専門的にいえば、裏表があったり、時と場合によって色々な建前を使い分けるような人は「多重人格」ではありません。一人の人間の性格に多面性が見られるのは、ごく普通のことです。

「多重人格」の別人格や人格交代は、もっと特殊なものです。各々の人格は、まったく独自のプロフィールや個性を持ち、自分の考えて行動し、別々の人間であるかのように振る舞います。

この記事では、多重人格者 あの人の二面性は病気か、ただの性格か (こころライブラリーイラスト版) などの本にもとづいて、一人の人間の心の中に、複数の別人が存在する場合、どんな特徴が見られるのかを考えたいと思います。

一般に「多重人格」として知られる解離性同一性障害(DID)の別人格に加えて、ある程度の関連性があると思われる空想の友だち(イマジナリーコンパニオン:IC)の別人格も考えましょう。

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これはどんな本?

今回主に参考にした 多重人格者 あの人の二面性は病気か、ただの性格か (こころライブラリーイラスト版)は、解離の専門家である岡野憲一郎先生が、解離性同一性障害(DID)についてイラスト入りで解説しているわかりやすい本です。

普通の人に見られる多面性と、多重人格という特殊な状態との区別が、易しい言葉や表現で説明されています。

この記事の中で、出典を明記せずページ数のみを書いている引用はこの本からのものです。

解離による別人格の8つの特徴

まずは解離性同一性障害やイマジナリーコンパニオンに見られる別人格について、単なる二面性や裏表以上の独特な特徴を持っている、ということを8つの点から考えてみましょう。

1.だれもが持っている多面性との違い

人は誰しも、多面性をもっているもの。いつも優しい人が、別の場面で冷たい顔をみせるのは、そう珍しいことではありません。

その一般的な多面性と、多重人格者のみせる多面性・多重性し、性質が異なります。(p6)

冒頭で触れたように、わたしたちは、身近な人の二面性や裏表に気づいて、ショックを受けることがあります。

その一方で、会社では、とても厳格な上司が、家庭では優しいお父さんになることもあります。

多くの人が、こうした性格の多面性を、時と場合によって使い分けるのは、病的なことでも、異常なことでもなく、ごく普通の脳の働きによるものです。

近年の研究によると、人間の脳はカラクリ仕掛けの機械のようなものではなく、脳全体が状況に応じて柔軟に対応を変化させているというマルチネットワークモデルが注目されています。(p76,80)

その場の空気を読んだり、相手の状況を察したりして、どのような対応をするべきか、この場ではどんな発言や振る舞いがふさわしいか、その都度用いる脳のネットワークを切り替えて対処しているのです。

ですから、会社では規律正しく厳格に対応している人が、家庭では優しい一面を見せたり、お客さんの前ではひたすら奉仕に努めている人が、休みの日には自己中心的に振る舞ったりすることができます。

2.自分でスイッチのコントロールができない

多重人格を発症している人は、自己を場面や相手に応じて切りかえることができない。

スイッチが勝手に動いている状態で、なおかつ個々のスイッチにそれぞれ人格が生じてしまっている。(p80)

わたしたちは、普段、多面的な心をうまくコントロールし、仕事中には素を出さないようにしていたり、家族の前では自由に振る舞ったりしているものです。

しかし多重人格、つまり解離性同一性障害(DID)の人は、そのような切り替えがうまくいきません。

自分でスイッチをコントロールできないばかりか、意図しない場所で、まったく意識していなかった一面が表に現れたりします。

別の人格が突然、不適切なタイミングで現れ、それを制御できないために、生活に支障をきたすこともあります。

これから考えていきますが、健康な人と、DIDの人には連続性があり、健康か病気か単純に二分できる問題ではありません。スイッチのコントロール能力は、人によってさまざまな程度があるのです。

3.それぞれが独自のプロフィールを持つ

断絶したネットワークは、やがて主たる人格から離れて自律性をもち、別人格を形成していきます。

彼らは独自のアイデンティティ、趣味、性格をもっています。(p85)

身近な人が二面性や裏表を発揮する場合と、DIDの別人格の明確な違いの一つは、DIDの別人格は、それぞれが別個の個性とプロフィールを有するということです。

職場では厳しい上司が、家では子煩悩だとしても、その人は決して別人になるわけではありません。

どちらの状況においても「あなたは誰ですか?」と尋ねると、当然、同じ名前を名乗るでしょう。生育歴について聞くと、同じ内容を話すでしょう。

それはあたかも、一つのサイコロに幾つもの面があるのと似ています。それぞれの表面には、違う数字が書かれていますが、どの面が上になっているとしても、それは同じサイコロです。

それに対し、DIDの別人格は、根本的に別人になります。身体的な見た目は同じかもしれませんが、表情、性別、性格、年齢、名前、行動までが変わってしまいます。

人格が交代しているときに名前を尋ねると、たいていは別の名前を名乗りますし、話し言葉も変わっていて、趣味や経歴の記憶まで変わっているのです。

ここまで変化すると、周囲の人は、嘘をついて演技をしているのではないかと疑いますが、決してそうではありません。

人格同士が「解離」、つまり分裂してつながりをなくしてしまっているので、まったくの別人になってしまっています。これが解離性同一性障害(DID)なのです。

4.別人格は自分とは思えない

多重人格を発症している場合、別人格も自分の一部といえる。

別人格が正反対な自分や、理想の自分などの現れになっている場合も

(ただし本人はそれを自分と思えないという特徴がある)(p79)

もちろん、まったく異なるプロフィールや記憶を持つ複数の別人の人格が出てくるとしても、その人の脳は一つだけです。ですから、別人格も、その人の一部であることに変わりありません。

しかしそれでも、DIDの人たちは、自分の別人格について知ったとき、あまりに本来の自分とかけ離れているように感じられ、とても自分の一面だとは思えないことが少なくありません。

たとえば、人格交代しているときの様子について家族や友だちから聞かされたり、そのときの様子をビデオやレコーダーで記録したのを見せてもらったりすると、非常に驚きます。

かつて「多重人格」と呼ばれていたこの病気が、「解離性同一性障害」(DID)と呼ばれるようになったのはそのためです。これは、単なる裏表のようなものではなく、自分が分裂してしまう、自己同一性(アイデンティティ)の障害なのです。

分裂した人格が有するプロフィールは実に様々です。解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論という本には、DIDの別人格の類型についてこう書かれています。

パトナムPutnum,F.Wは多くの交代人格の類型をあげている。

主(ホスト)人格、子ども人格、迫害者人格、自殺者人格、保護者人格、内的自己救済者(internal self helpers,ISH)、記録人格、異性人格、性的放縦人格、管理者人格、 強迫的人格、薬物乱用者、自閉的人格、身体障害のある人格、特殊な才能や技術を持った人格、無感覚的人格、模倣者人格、詐欺師、悪霊、聖霊など多彩である。(p72)

DIDで現われる人格には、もともとの人格とは年齢がまったく違う子どもの人格や、性別が違う異性の人格、そもそもの頭の働き方が違う自閉的人格、振る舞いが極端になり性格も変わる放縦な人格なども含まれています。

また、以前の記事で取り上げたように、本人を慰めたり、支えたりする、「内的自己救済者」と呼ばれる、保護者や助け手のような人格が現われることもあります。

特殊な才能や技術を持った人格の例としては、<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)には、普段の本人にはまったくない絵の才能を持った別人格を有する男性のことが書かれていました。

これほど多彩で異なるプロフィールを有するわけですから、DIDの人が、自分の別人格について、自分とは思えないと感じるのも無理のないことです。

4.別人格は変化し成長する

解離症状は、創造性をもつもの。個々の人格がそれぞれ好みや特技をもち、独自の生活史を有する。(p43)

別人格が形成され、独特の言動がとられるときには、孤立したネットワークに症状特有の創造性が発揮されている。人格も言動も、日々変化・成長をとげる。(p85)

DIDの人が別人格について自分とは異なる別の人間であるかのように感じてしまう別の理由は、おのおのの人格が、独自に変化し、成長していくからです。

DIDで形作られる別人格は、常に同じ考え、同じ役割に固定しているわけではありません。現実の人間と同じように、それぞれが日々変化し、経験や知識、他の人との関わりを通して、成長していきます。

このような、独特な創造性は、解離性同一性障害(DID)の別人格と、統合失調症の妄想とを区別する重要な手がかりになるそうです。

DIDと統合失調症は、どちらも幻聴などを伴うことがあり、突拍子もないことを言うので混同されがちです。

しかし統合失調症の妄想では、「ある程度、決まった内容が繰り返し生じる」のに対し、解離では「声が人格をもち、創造的に広がっていく。内容が変化する」という大きな違いがあります。(p27,30)

6.話しかける声が聞こえることも

誰もいないところで人の声や気配、物音などを感じるのは、統合失調症に典型的な症状です。

多重人格によって、別人格の声が聞こえる状態とは異なります。(p27)

医師に幻聴を訴えると、たいていの場合「統合失調症」という診断が下ります。

しかし幻聴は、統合失調症だけでなく、DIDなどの解離性障害でも生じますし、さらには健康な人でさえ幻聴を耳にすることがあります。

統合失調症の幻聴と異なり、DIDの幻聴は、別人格の声であることが多いと言われています。

統合失調症の場合は声の主が誰かはわかりませんが、DIDの場合は、だれが、つまりどの別人格が話しているのか本人がわかることもあります。

また統合失調症の幻聴と異なり、DIDの人は子どものころから、日常的に別人格の声を聞いていることもあります。

統合失調症と解離性障害の違いについては、以下の記事も参考にしてください。

統合失調症と解離性障害の6つの違い―幻聴だけで誤診されがち
精神科医の中には「幻聴=統合失調症」と考えている人が多いと言われます。しかし実際には解離性障害やアスペルガー症候群が統合失調症と誤診されている例が多いといいます。この記事では解離の

7.記憶のつながりがあるかどうか

DIDの人格交代の大きな特徴の一つは、記憶のつながりが失われる場合があることです。

健康な人の場合、仕事中に厳格に振るまい、家族の前では優しい一面を見せるとしても、記憶の連続性は保たれていて、そのときのことを思い出せないということはありません。

しかしDIDの場合は、それぞれの場面で別の人格が活動しているため、記憶のつながりがなく、思い出せないことがあります。

たとえば、いつの間にか買った覚えのない物の請求書が届いたり、日記に別人の筆跡で書き込まれていたり、メールに記憶にない送信履歴があったりします。

いずれの場合も、別人格に交代している間に、自分の意思とは無関係に行われたことなので、記憶にないのです。

しかし、DIDだからといって、必ず各人格同士の記憶のつながりが途切れているかというとそうではありません。

人格同士で記憶のやりとりがある場合、心の中で人格同士が対話や相談をすることがある。

相談の結果をどちらかの人格が公言する場合も。(p45)

人格同士に記憶のやりとりがあり、まるで友人のようにコミュニケーションできる場合もあれば、ある人格が一方的に他の自分のことを知っていて、自分のほうではまったく存在にさえ気づいていない場合などもあり、記憶のつながりは様々です。

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)によると、人格の交代が軽度の段階では、記憶のつながりが保たれていますが、重度になると、記憶が途切れ、同一性が保てなくなるそうです。(p48)

8.空想の友だち(イマジナリーコンパニオン)との関係

最後に、考えておく必要があるのは、空想の友だち(イマジナリーコンパニオン:ICまたはイマジナリーフレンド:IF)と呼ばれる現象との関係です。

一般に、イマジナリーコンパニオンは、幼児にみられる現象で、目に見えない空想の友だちをありありと想像し、一緒に遊んだり会話したりするという特徴があります。

一見、病的に思えるかもしれませんが、統計によると、少なくとも20-30%の子どもが経験する、ごくありふれた現象だと言われています。基本的にいって、子どものイマジナリーコンパニオンが精神疾患につながることはありません。

しかし、解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)によると、解離性同一性障害(DID)では、一般人の倍の60%の割合で、イマジナリーコンパニオンがみられたとされていて、何かしらの関連性はあるようです。

解離性障害に関わるイマジナリーコンパニオンは、通常の1、2人より人数が多く、平均6人程度であり、幼児期だけでなく、思春期、青年期まで持続するという特徴があるとされています。(p128-129)

おさなごころを科学する: 進化する幼児観によると、イマジナリーコンパニオンを持つ定型発達の子どもと解離性障害の子どもを比較した結果、前者は空想の友だちが実在しているとは思っていないのに対し、後者は実在していると信じていた、という研究が紹介されています。(p241)

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)にも、解離性障害になりやすい人の素因の一つに、次のような傾向が挙げられています。

空想傾向が強い

想像上の友だちと遊ぶ。その友だちは実在するかのように、目で見て、声を聞くことができる。

空想上の物語があり、長期間にわたって物語が展開しつづけ、映像を映画のように見ている。人物設定やストーリーは具体的かつ詳細。(p60)

現実との区別がつかないほど、空想に深くのめり込む「空想傾向」や、空想の世界が物語のように発展していく「持続的空想」は、解離性障害の素因の一部です。

さきほど、DIDの別人格が、さまざまなプロフィールや役割を持つという点を取り上げましたが、イマジナリーコンパニオンの別人格もまた、さまざまな類型を持っています。

想像の遊び友達一その多様性と現実性ーの中で、麻生武先生は、幼児期から青年期のイマジナリーコンパニオンを、4つないしは8つのタイプに分類しています。

「秘密の友達」「もう一人の私」タイプ…相談相手、良き理解者、忠告者。一番多い。本人と瓜二つであったり、同一の名前を持っていたりすることも。

「白昼夢・ドラマ」「メルヘン・妖精」タイプ…人物を取り巻く物語が生み出され、本人がドラマの世界にいるかのような状態。空想と現実の区別がつかないほどのめりこむ。ファンタジーな内容のことも。

「神様・保護者」「妖精・怪人」タイプ…神、守護霊、天使などのスピリチュアルな存在。

「実在の人物」「亡き人」タイプ…あこがれの人や、亡くなった家族など。

これらのタイプのうち、特に白昼夢が関わるタイプは、すでに考えた「空想傾向」や「持続的空想」と重なり合っているように思えます。

解離性障害や解離性同一性障害(DID)は、健康か病気かで二分される明白な脳の異常ではありません。

健康な人と、DIDの人の間には連続性があり、その間には、さまざまな程度の解離症状を示す人が分布しています。

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)にはこう書かれています。

解離性障害は脳になんらかのトラブルが起こることによる病気ではありません。

また病気と健常との境目もはっきりしていません。過敏や離隔に似た症状は、解離のない人にもある、ごくありふれた症状です。ただ、それが強く出ているのが解離性障害なのです。(p56)

健康な人でも、時間を忘れて趣味に没頭したり、一時期の記憶が飛んでしまったりすることがよくあります。これは健康な範囲の一過性の解離症状です。

解離傾向が強くなってくると、普通の人にない不思議な体験が生じることがあります。だれかの気配を感じたり、イマジナリーコンパニオンが現れたり、体外離脱を経験したりします。それでも日常生活に支障がないかぎり、病気ではありません。

しかし、さらに解離症状が強くなると、「自分」がいくつかに分かれた状態になります。記憶が途切れたり、体の感覚がまひしたり、現実感がなくなったりして、生活に支障をきたします。すると「解離性障害」と診断されます。

そしてさらに解離症状が極端になり、分かれた「自分」が、それぞれ人格をもち、バラバラにふるまう状態になり、「解離性同一性障害」(DID)と診断されるのです。

別人格はどこから生まれるのか

ここまで、解離性同一性障害の別人格の特徴について8つの点を考えました。

DIDの別人格は特殊な性質を持っていますが、広い視野でみれば、健康な人が持つ性格の多面性と地続きになっている現象だといえます。

しかし、本来なら、自分の多面性の一部であり、時と場合に合わせてコントロールできるはずの性格の一面が、別の人格として独立し、自律性を獲得してしまうのはどうしてでしょうか。

幼少期に創られる

DIDの別人格の流れをたどると、行き着く源は幼少期の経験です。

心に別人格の芽となる部分が発生するのは多くの場合、幼児期や児童期と考えられています。

幼い頃にストレスを受けて人格が分裂し、のちに家庭外での人間関係のなかで表面化します。

成人後のストレスで本格的な分裂がはじまる例は、ほとんどみられません。(p39)

DIDは思春期以降に発症することが多いので、家族や周囲の人たちは戸惑いがちです。

しかし、別人格が誕生するのは、大人になってからではなく、そのずっと前、幼児期や児童期であると考えられています。どうして、子どものころに人格がわかれてしまうのでしょうか。

人格の分裂がはじまるのは、幼児期・児童期だと考えられています。

幼いうちから、本心の表現をおさえ続けていると、心の一部がじょじょに隔離され、解離して、別人格を形成するのです。(p50)

幼いころに別人格が造られる要因は、幼少期のさまざまなストレスです。ストレスの内容はさまざまですが、慢性的に抑圧され、本心をさらけ出せない環境のもとで育つと、心が解離して、複数の人格のネットワークが脳に形成されます。

DIDは、思春期以降の人間関係のストレスや、外傷体験によって表面化する場合が少なくありませんが、別人格はそれよりはるか前から存在しているのです。

多重人格は、思春期以降に突然、別人格という非現実的な姿で表面化することが多いため、周囲を驚かせます。

突然の出来事のようにみえるかもしれませんが、本人の心には幼児期・児童期から苦痛やストレスが蓄積しています。発端は、たえまなく苦痛を感じていた過去の生活にあります。(p35)

別人格が、DIDを発症するよりも前に形作られていた、という点を考えるなら、いくつかの疑問の説明がつきます。

たとえば、すでに考えた通り、解離性障害の人は、統合失調症とは異なり、子どものころから幻聴を日常的に聞いていることがありますが、それは、その当時から別人格が存在していて、その声が聞こえていたのかもしれません。

また、衝撃的な外傷体験に直面しても、解離性障害や解離性同一性障害にならず、PTSDや他の心の病になる人がいますが、そのような人は、素因としての解離傾向がなく、幼い頃に別人格が造られるということもなかったのでしょう。

幼いころに形作られる別人格というと、やはり、先ほど考えた空想の友だち、イマジナリーコンパニオンとの共通性も感じられます。

解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)にもには、解離性障害の人が、子どものころからリアルな存在感を伴うイマジナリーコンパニオンを持っている場合があることが書かれていました。

昔からずっといっしょにいた

子どもの頃からずっといっしょにいる空想上の友だちの姿を見ることも多い。

本人のことをよく知っており、孤独や不安を癒やし、遊び相手や話し相手になってくれる。(p25)

子どものころは、脳の可塑性が強く、変化しやすい時期です。別人格の形成という脳の根底に関わるような変化は、その時期に特有のものなのかもしれません。

外傷体験・トラウマ・虐待があるとは限らない

多重人格というと、虐待や性被害と関連づけられることが少なくありませんが、そうした目立ったトラウマが別人格が創られる原因になっているとは限りません。

目立った外傷体験がなくても、いじめ、人間関係のストレス、家庭内の緊張、自己や災害、そのほかの様々な慢性的なストレスによって、解離性障害や解離性同一性障害を発症することがあります。

また、本人の性格傾向などの素因も、重要なリスクファクターです。解離性障害の人には、次のような性格の人が多いといわれています。

■引っ込み思案で緊張しやすい
■自己主張が苦手
■優しくて繊細。いつもまわりを気遣う
■素直で逆らわない
■周囲の期待や失望に敏感

こうした性格傾向を持つ人は、不満や怒りを感じても、それを表現するのをためらって、自分の感情を心のうちにしまい込み、抑圧しがちです。

他の人と関わるとき、傷つけたり、傷つけられたりすることを恐れるあまり、本心を押し殺して、相手の望むとおりにふるまってしまいます。

建前ばかりを強要される生活や、ストレスを外に発散することのできない環境が慢性的に続くと、人前で振る舞う人格と、本音を言う人格とが解離してしまい、別の人格として振る舞い始めることがあります。

緊張した家庭で育ったため、本心を押し殺して生活せざるを得ず、心が解離していく人も少なくありません。

親との間に距離やズレがある、手のかからない子だと親が思い込んでいる、病気のきょうだいの世話に忙しく手が回らない、親の性格と子どものニーズが大きく異なるなど、一概に親が悪いとはいえないケースもしばしばです。

解離性障害や解離性同一性障害には、外傷体験だけでなく、さまざまな素因も関係しているので、専門家でも原因を特定できないことが多いそうです。(p54)

素因としての性格特性についてはこちらの記事もご覧ください。

空気を読みすぎて疲れ果てる人たち「過剰同調性」とは何か
空気を読みすぎる、気を遣いすぎる、周囲に自分を合わせすぎる、そのような「過剰同調性」のため疲れ果ててしまう人がいます。「よい子」の生活は慢性疲労症候群や線維筋痛症の素因にもなると言

記憶や知識を元にして生み出される

さまざま素因やストレスが重なりあったとき、どのようにして別人格が造られるのでしょうか。

別人格は、無から生じるわけではありません。

脳の中に蓄積されていた記憶や知識、特定の人物のプロフィールなどをとり入れる形で生まれます。

しかしそのつくられ方は恣意的で、本人にも正確には由来がわからないことも多いものです。(p43)

別人格は何もないところから脈絡なく創造されるわけではありません。どんな別人格であっても、それはその人の一部であり、脳に蓄えられた知識や経験をもとにして生み出されます。

多くの場合、実在の人物やアニメのキャラクターなどのプロフィールの一部をもとにしていたり、自分の理想やコンプレックスが反映されていたりします。

またトラウマ経験が関わる場合は、隔離されたストレスや外傷体験の記憶、虐待者のプロフィールが取り込まれることがあります。(p43)

DIDの別人格だけでなく、空想の友だち(イマジナリーコンパニオン)の場合も、アニメなどのキャラクターや、自分の理想像などが影響する場合があるようです。

しかし、いずれの場合も引用した文中にあるとおり、「そのつくられ方は恣意的で、本人にも正確には由来がわからない」ことが多いようです。

DIDが表面化する2つのパターン

続解離性障害によると、別人格が表に現れ、DIDが発症する状況には、2つの典型的なパターンが見られるといいます。

一つ目は、外傷体験が明らかな場合です。

まずは明白な外傷の存在が明らかな場合である。ある患者は親からの虐待を受けた際に、その苦痛と恐怖のために「内側に急いで入り、ふたを閉めてしまった」と表現した。

そしてその際に、「ほかの誰か」が外の状況を処理する必要が生じ、新たな人格が形成されたという。(p80)

虐待や外傷体験、犯罪被害など、衝撃的な体験に直面した場合、その危機的状況から逃れるために、突然激しい解離症状が生じるかもしれません。

ふたつ目は、もっと緩やかで、はっきりとしたトラウマ体験などが見られない場合です。

そしてもうひとつは外傷がより不明瞭な場合である。こちらは親との関係で常に自分が理解されず、あるいは無視されていると感じ続けるといった状況をひとつの典型とする。

その場合患者はその深刻な孤独感を体験した際に、自分の心に生まれた新たな人格との対話によりその苦しみを軽減するという経路が考えられる。(p80)

家庭内の緊張など、日常的に慢性的なストレスにさらされていると、どこにも安心できる居場所がなく、徐々に別人格が表面化していくかもしれません。

多重人格者 あの人の二面性は病気か、ただの性格か (こころライブラリーイラスト版)には、そのようなパターンの一例として、10代後半のCさんのことが書かれていました。

Cさんは、暴力や虐待を受けたことはないものの、教育に厳しい母親に叱責されながら育った女性です。

母親にも、父親にも意思が伝わらず、Cさんはストレスを一人で抱えこんでしまいました。さびしくて、つらくて、心がはりさけそうです。

そんなある日、Cさんが自室で泣いていると、心の中に男性の人格が現れ、Cさんをなぐさめてくれました。別人格が生じはじめました。(p33)

この例のように、寂しさや居場所の無さのため、相談相手として別人格が現れるケースは、やはりすでに考えた空想の友だち(イマジナリーコンパニオン)との共通性がうかがえます。

いずれの場合にしても、幼少期に何らかの理由で別人格が形成されること、そして思春期以降に衝撃的あるいは慢性的なストレスによって、それらの別人格が表面化することがDIDの発症に関わっていると思われます。

幼少期のストレスで人格が分裂していても、その後の人生が平穏であればDIDにはならないでしょうし、逆に幼少期に人格が分裂しておらず、大人になってからトラウマ経験に直面した場合もDIDにはなりにくいといえそうです。

別人格は最終的にどうなるのか

こうして誕生し、表面化した別人格は、その後どうなるのでしょうか。

一般に、複数の人格が存在するような状態は異常で治療しなければならないと思われがちですが、近年の治療者の見解はそうではないようです。

過去にはいくつもの人格が統合され、ひとつになることが多重人格の治療だといわれました。

しかし現在は、人格が分裂していても、各人格や役割分担をおこない、生活に支障がなければ、ひとまずの回復とする考え方が一般的です。(p49)

すでに見てきたとおり、解離性障害は、脳の明らかな異常というよりは、だれにでもある脳の「解離」という機能が強く働きすぎている状態だと考えられます。

また、外傷やトラウマ体験の直接的な結果として、ちょうど骨が折れるかのように、人格が分かれてしまったわけではなく、別人格そのものは、子どものころから存在しているようです。

過去の記事で取り上げたように、解離という防衛機制をストレス対処に頻繁に用いてきた人の場合、人格の統合を目指すと、かえってストレスがうまく処理できなくなり、別の精神疾患を抱える可能性もあります。

多重人格やイマジナリーフレンドは必ず人格を統合し、治療する必要があるのか
解離性同一性障害(DID)や、大人になっても残るイマジナリーフレンドは、治療によって人格を統合すべきなのでしょうか。岡野憲一郎先生の「解離性障害―多重人格の理解と治療」という本から

別人格が、あまりに自律的で、独自のプロフィールと生活史を有するため、本人も、別人格自身も、消滅することを恐れ、統合を望まない場合もあります。

解離性同一性障害(DID)の尊厳と人権―別人格はそれぞれ一個の人間として扱われるべきか
解離性同一性障害(DID)やイマジナリーコンパニオン(IC)の別人格は、一人の人間として尊厳をもって扱われるべきなのか、という難問について、幾つかの書籍から考えた論考です。

それで、近年の治療では、人格の統合よりも生活の安定を目指し、不適切で唐突な人格交代や、記憶の断絶、攻撃的な幻聴や自傷行為がなくなれば、ひとまずのゴールだとみなされているようです。

解離性同一性障害(DID)を発症する前の状態、つまり幼少期に形成された別人格やイマジナリーコンパニオンが心の中に存在しているとしても、病的な解離症状は生じていない状態に戻ることができれば、もはや病気ではないと考えることができるでしょう。

解離性同一性障害(DID)のそのほかの情報や、治療に役立つポイントなどは、以下の記事も参考にしてください。

多重人格の原因がよくわかる8つのたとえ話と治療法―解離性同一性障害(DID)とは何か
解離性同一性障害(DID)、つまり多重人格について、さまざまな専門家の本から、原因やメカニズムについて理解が深まる8つのたとえ話と治療法についてまとめました。

別人格の存在のために生活に何らかの支障を来たしている場合や、家族など身近な人の解離症状を理解したいと思っている場合は、この記事だけではなく、ぜひここで紹介した専門家による幾つかの本に直接目を通してみてください。

こうした専門家の本は、独特な性質を持つ解離の別人格についての理解を深め、より良い対策やサポートの方針を見つける助けになるに違いありません。

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空想の友だち研究 / 解離性障害