自閉症は脳の過成長、ADHDは脳の成熟の遅れー脳画像研究による発達の違い


閉症とADHDそれぞれの脳の発達の傾向に関する研究が報道されていました。

以前から言われていたことですが、自閉症は早期に生じる脳の過成長が、一方ADHDは脳の発達の遅れが関係しているようです。

Nature ハイライト:早期脳過成長から自閉症スペクトラム障害を予測できる | Nature | Nature Research

ADHD、脳の大きさにわずかな差 大規模研究で確認 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News 

自閉症で脳のサイズが大きくなるのは、「シナプスの刈り込み」という脳の機能の最適化が十分に行われないことが一因だと考えられています。これは変化に柔軟に適応していくことの苦手さと関係している可能性があります。

またADHDでサイズが小さいことが確認された部位には、PTSDなどトラウマへの脆弱性と関係している部位が含まれていて、ストレス耐性の低さないしは過敏さを示唆しているのかもしれません。

この記事では、それぞれのニュースをもとに、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)の脳の特徴について考察してみたいと思います。

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自閉症は脳が早期に過剰に大きくなる

自閉症の脳については、かねてから脳の容量が大きく、過成長していることが指摘されていました。

2011年のニュースでは、米ユタ大学のジャネット・ラインハート(Janet E Lainhart)らが、不慮の事故などで死亡した自閉症の子どもの脳を調べたところ、同じ年齢の自閉症でない子どもの脳よりニューロン(神経細胞)が多く、脳がより重いことがわかったと報告されていました。

Increased neuron number and head size in autism. - PubMed - NCBI

自閉症児の脳は過度に発達、出生前に起因か 米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

米国の研究者らは、2歳から16歳までの自閉症の少年7人の遺体の脳を調べた。死因は大半が溺死だが、8歳児1人は筋肉のがんで死亡し、16歳少年1人の死因は不明だ。

 事故で死亡した自閉症ではない少年6人(対照群)の脳と同じ年齢で比較してみると、自閉症の少年の脳は前頭前皮質にあるニューロンの数が対照群の脳より67%多く、脳の重さも各年代の平均より18%近く重かった。

そして、昨日Natureに載せられていた研究によると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のヘザー・コーディ・ハズレット(Heather Cody Hazlett)らは、ASDの遺伝的リスクが高い子ども102人と、そうでない子ども42人を対象に調べた結果、ASDのリスクが高い子どもの81%に、出生後6-12ヶ月の時点で、脳の皮質成長率の増大がすでに認められたそうです。

Early brain development in infants at high risk or autism spectrum disorder : Nature : Nature Research

Nature ハイライト:早期脳過成長から自閉症スペクトラム障害を予測できる | Nature | Nature Research

自閉スペクトラム症(ASD)を乳児期の脳スキャンで高い確率で予測することが可能に - GIGAZINE

今回、H Hazlettたちは、家族性ASDに高いリスクを持つ幼児を対象に神経画像化による長期的研究を行い、24か月齢時点でASDの診断を受けた高リスク児は、6~12か月齢の時点で皮質成長率の増大を示していたことが分かった。

この結果、生後1年目という早い段階の脳画像検査で、脳の過成長に注目することで、ASDの傾向を予測することができるのではないか、と言われています。

自閉症はシナプス刈り込みによる最適化が難しい

自閉症とADHDは、脳の発達傾向においては異なる特徴を有していますが、どちらの場合にも、脳の発達に関わる「シナプスの刈り込み(剪定)現象」という機能の異常があると考えられているようです。

小脳のシナプス刈り込みの仕組み解明 | 東京大学

生後間もない動物の脳には過剰な神経結合(シナプス)が存在するが、生後の発達過程において、必要な結合だけが強められ、不要な結合は除去されて、成熟した機能的な神経回路が完成する。

この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれており、生後発達期の神経回路に見られる普遍的な現象であると考えられている。

自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)などの発達障害において、発達期のシナプス刈り込みの異常が関係すると考えられている。

人間の脳は胎児期にニューロン(神経細胞)が作られ、2歳ごろまでにシナプス(ニューロンのつながり)が劇的に形成されていきます。

それから、不要なシナプスを刈り込んで、脳の機能を最適化していく「シナプスの刈り込み現象」が、生後1年目から思春期、ひいては若年成人のころまで続き、社会に適応する脳が作られていきます。

しかし、自閉症では、初期にニューロンが過剰に作られるとともに、この「シナプスの刈り込み」という最適化がうまく行われていないようです。

薬剤でシナプスの「刈り込み」回復、自閉症治療に可能性 米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

だが自閉症ではない19歳の若者は、シナプスの数が幼児より約41%減少していたが、19歳の自閉症患者の脳内にはシナプスがはるかに多く残存しており、幼児の脳と比べて約16%程しか刈り込みされていなかった。

赤ちゃんの脳に最初にシナプスが大量につくられるのは、さまざまな環境に適応する可能性を作るためであり、その後の生活環境に応じて、必要なものを残し、不要なものを刈り取ることで、環境に適応した脳が作られます。

悲しいことに、この時期に虐待など不適切な養育にさらされると、過酷な世界に適応するための脳へと刈り込まれてしまう、ということも知られています。

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どんな環境で生きるにしても、シナプスの刈り込みが生じるおかげで、わたしたちは成長とともに、自分が生まれ育った環境に適応していけるわけですが、自閉症では、この刈り込みが十分に行われません。

そうすると、成長とともに、社会に適応した脳が作られないので、社会に馴染めず、独特の性質を持つ脳に発達していくのではないか、と思われます。

しばしば自閉スペクトラム症との類似点が指摘される統合失調症では、思春期のシナプスの刈り込みが逆に過剰になっていて、必要なシナプスまで刈り込んでしまうという異常がみられるようです。

プレスリリース詳細 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

統合失調症では、この記憶や感情に関わる24野と14r野のシナプスが思春期以降も減少し続けることが分かっています。

今回の研究から、通常では一定量に維持されている記憶や感情に関わるシナプス数の減少が統合失調症の発症に関与していることが想定されます。

つまり、一見似た症状があっても統合失調症とアスペルガー症候群は別のものであり、治療薬などの対処も異なっていることがうかがえます。

統合失調症の予後が一般的にあまりよくないと言われるのに対し、解離性障害や解離型の自閉スペクトラム症の場合は、一時的に幻聴などの症状が強く出るとしても、適切な対応によって回復していくことが可能だと言われているのは、こうした脳機能の違いが関係しているのかもしれません。

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なぜ脳が早期に過成長するのか

自閉症の脳で過成長が起こる原因については諸説ありますが、以前に読んだ失われてゆく、我々の内なる細菌では、ひとつの可能性として、慢性炎症との関わりが示唆されています。

寄生虫なき病によると、ウィスコンシン大学のクリス・コー(Christopher L. Coe)らのアカゲザルを用いた研究では、妊娠中の急性ウイルス感染が統合失調症のリスクを高めるのに対し、持続的な軽度の慢性炎症は、脳に絶えず刺激を与えて過成長を促し、自閉症のリスクを高めることが示されました。

コーは図らずも、クールシェンヌが自閉症児の脳で観察したのと(広い意味で)同じ特性を持った脳(育ちすぎた脳)を作り出していたのである。

育ちすぎを促進したのは急性の炎症ではなかった。それを引き起こしたのは、慢性的な軽度の炎症だった。

「逆説的だが」とコーは言う。「慢性的な軽度の炎症は、ほとんど刺激のように作用していた」。

ここから慢性的な軽度の炎症は自閉症のリスクを高め、急性の激しい炎症(感染症に伴って起きるような)は統合失調症のリスクを高める」という推測が浮かび上がってくる。(p332-333)

こうしたタイプの慢性炎症は、世界各地で、抗生物質の使用や衛生改革で急性感染症が減少したのと反比例するかのように増加しているようです。

腸内細菌(マイクロバイオーム)の研究者たちは、人間にとって有用な細菌の生態系をも破壊してしまった結果、現代人に免疫異常が蔓延したと考えています。

現代に増加しているアレルギー、自己免疫疾患、ひいては慢性炎症と関わる自閉症やメタボリック症候群、慢性疲労症候群などの脳の炎症を特色とする病気の増加は、すべて人体を取り巻く細菌の生態系バランスの崩壊とつながっているのではないかということです。

脳の慢性炎症の原因はひとつではなく複数でしょうが、その中の一因としてマイクロバイオームの問題が絡んでいる可能性は十分にありそうです。

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独自の個性や能力を伸ばしていく

自閉症の脳のシナプス刈り込みの弱さは、独特の脳機能の発達と深く関係しているようです。

発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ (ブルーバックス)にはこう書かれていました。

8ヶ月まで神経細胞同士の結合が大量に増加するのに対し、その後は不要な結合を減らし、より能率的な結びつきになるように、神経細胞の活動の頻度や細胞同士の連携の頻度の多さなどから状態を変化させていく。

結果、より遠くの神経細胞同士の連携も進み、トップダウンな思考(全体を見わたる能力)の獲得を可能にしていく。

…この刈り込みに問題があるとされるのが、自閉症児だ。自閉症児は刈り込みが少なく、多くのシナプスをもち続けるのではないかといわれている。

脳の構造を調べた研究によれば、2歳の時点で、自閉症児の脳の容量が大きいというデータもある。それは前頭葉や側頭葉に顕著だという。(p32)

先にも説明したように、脳の発達とともに神経細胞の接合部分であるシナプスの「刈り込み」が行われる。

未成熟で生まれた脳が、発達初期の学習によって休息に成長し、次のステップとして、この大量の結合の中から、不要な結合を刈り込むと同時に、遠くの神経細胞同士の結合を可能にする。

この結合が、意識を支えるトップダウン処理とかかわりがあるというのだ。(p79)

自閉症の人たちが、さまざまな感覚の未分化を経験し、一種の感覚過敏や共感覚を持っていることが多いのは、不要なシナプスが十分に刈り込まれなかったせいなのかもしれません。

また定型発達の人たちが大量の感覚を効率よくさばくトップダウン処理で思考するのに対し、自閉症の人たちは、大量の感覚をそのまま処理するボトムアップ処理で思考するのもまた、シナプスの刈り込みが不十分なことと関係しているようです。

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もっとも、定型発達の人たちが、社会に適応していくためには「不要」とみなして刈り込んでしまうシナプスが、自閉スペクトラム症の人には残っているということは、ユニークな個性にもつながります。よき理解者に恵まれた場合は、能力や才能として伸ばしていくことができるかもしれません。

トップダウン処理は、全体のおおまかな情報を効率よく抽出するのは得意ですが、細部にわたる正確さはボトムアップ処理のほうが勝るのです。

こうした自閉症の脳の機能に関する傾向からわかるのは、自閉スペクトラム症の人たちは、シナプスの刈り込みによる最適化が弱いために、新しい環境に適応していくのが難しいということです。

自閉スペクトラム症の子ども、大人は、変化の少ない繰り返し作業や慣れ親しんだルーチンワークを好みます。

周りの人たちは、自閉スペクトラム症の人が、通常よりも環境の変化に適応しにくい脳の傾向を持っているということを理解して、無理な変化を強制したりせず、その人の得意なことを伸ばしていけるよう支えるのがよいということでしょう。

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ADHDは脳がわずかに小さく、成熟が遅れている

一方で、別のニュースでは、ADHDの子ども・大人を対象にした、大規模な脳画像研究が報道されていました。

オランダ・ラドバウド大学のマーティン・ホーグマン(Martine Hoogman)らの研究では、4歳から63歳までのADHDと診断された1713人と、そうでない1529人の脳をスキャンしたところ、ADHDの人のほうがわずかに脳が小さいことがわかりました。

Subcortical brain volume differences in participants with attention deficit hyperactivity disorder in children and adults: a cross-sectional mega-analysis - The Lancet Psychiatry

ADHD、脳の大きさにわずかな差 大規模研究で確認 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News 

ADHDは脳障害で患者の幼少期の脳体積は健常者よりも小さくなることが判明 - GIGAZINE

 今回の研究では、4歳から63歳までの被験者らにMRIスキャンを受けてもらい、その結果を分析。脳スキャンの画像から、脳全体の体積とともに障害に関連すると考えられている7つの領域の大きさが測定された。

その結果、ADHDと診断された人の脳では、全体の体積および5つの領域がより小さいことが確認された。

 研究結果についてHoogman氏は「その差は極めて小さく、数%の範囲内だった。これらの差を見極めるうえで、研究が前例のない規模であったことが大いに役立った」と述べている。

脳の小ささが確認された5つの領域は、側坐核、扁桃体、尾状核、海馬、被殻で、頭蓋内全体の容積も少ないことがわかりました。一方で、淡蒼球、視床の大きさには違いがありませんでした。

また、ADHDの薬の服用は、脳の大きさには関連性が見られず、併存する精神障害もありませんでした。つまり薬は良くも悪くも脳の構造を変えたりせず、対処療法にすぎないということなのでしょう。

ADHDの脳の成長の遅れはやがて追いつく

この研究は、幅広い年齢層を対象にしていますが、参加者の年齢の中央値は14歳で、子どものADHDが大部分を占めていることがわかります。

子どもと大人の脳を年齢別に比較すると、脳の成熟の遅れ( a delay of maturation and a delay of degeneration)が示唆されているとも書かれていました。

同様の点は、2007年11月、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の小児精神部門フィリップ・ショー(Philip Shaw)らの446人の参加者(うちADHD223人)を対象にした研究でも報告されていました。

NIMH » Brain Matures a Few Years Late in ADHD, But Follows Normal Pattern

この研究では、ADHDの子どもは脳の成熟が同年代の子どもと比較すると遅れていて、特に行動のコントロールに関わる前頭前皮質には最大5年の遅れが見られたそうです。

しかしADHDの若者に見られるこうした脳の成熟の遅れは、多くの場合、成長していく中で最終的には追いつくともされています。

これは、自閉症のような通常の年齢より早く脳の体積がピークを迎えるパターンとは対照的だとも解説されていました。

They also noted that the delayed pattern of maturation observed in ADHD is the opposite of that seen in other developmental brain disorders like autism, in which the volume of brain structures peak at a much earlier-than-normal age.

彼らはまたADHDで観察された成熟の遅延パターンは、自閉症のような他の脳の発達障害に見られる、脳構造の容量が通常の年齢よりずっと早くピークを迎えるパターンとは対照的だと指摘している。

ADHDの人たちは、脳の成長が遅れるために、同年齢の子どもに比べて、子どもっぽいとか、社会的に未熟だと思われやすいかもしれません。

しかし、研究でも示されているように、若年者で脳の発達の遅れが目立っていても、脳は20代後半まで緩やかに成長していくので、次第に発達が追いついていくと言われています。

大人になると、多動性や衝動性といった子どもっぽさが和らぎ、落ち着きのなさが改善していくADHDの人が多いのは、次第に行動のコントロールに関わる前頭前皮質の発達がキャッチアップするからなのでしょう。

それでも、ADHDの人は、どこかしら成長の遅れの名残りが残っていて、子ども心を残したまま大人になったような雰囲気が見られやすいようにも思います。

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ストレスに過敏に影響されやすい

ところで、ADHDの大規模研究についてのニュースでは、「ADHDは身体的な疾患であり、単なる行動の問題ではない」ということが強調されています。

ホーグマンは研究結果についてこう述べていました。

「研究を通じて構造の違いが確認され、ADHDが脳の疾患であることが示された」

「この研究結果が、ADHDを『単なる難しい子ども』や『親の教育の問題』とするレッテル貼りをなくす一助になることを願う」

ADHDの子どもを持つ親は、ときに「しつけがなっていない」とか「子どもを甘やかしている」と非難されますが、それは不当なもので、子どもの遺伝的な脳の性質の影響が大きいことは確かです。

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ADHDの当事者であり、支援活動に取り組むNPO法人「えじそんくらぶ」(埼玉県)の高山恵子代表は

「育て方が原因ではないと分かることで、虐待防止につながる。

不登校や自尊感情の低下といった2次障害を防ぐには、投薬治療だけではないトータルな支援が必要だ」と話した。

とはいえ、気にかかるのは、今回の研究結果で、ADHDの子どもの脳の小ささが見出された部位が側坐核、扁桃体、尾状核、海馬、被殻の5つだということです。

側坐核被殻は、報酬系と関係している部分で、やる気や意欲に関係する部分です。

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尾状核は学習や記憶と関係していますが、脳のモードを切り替えるスイッチのような役割を果たしていて、たとえばバイリンガルの人が言語のフレームを切り替えるときに尾状核が働いているのがわかっています。

脳は奇跡を起こすによると、強迫性障害の人が強迫行為から抜け出せないのは、このスイッチが切り替わらない脳ロック状態になっているからではないかとも言われています。(p200)

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意欲の低下や慢性的な疲労感を特色とする小児慢性疲労症候群(CCFS)でも、尾状核や被殻などの報酬系に関わる領域がうまく働いていないことが報告されています。

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こうした側坐核、尾状核、被殻などは大脳基底核と呼ばれる領域の一部ですが、この部分はドーパミンによる時間感覚の制御と関係している可能性があります。

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また、扁桃体は、危険を察知するアラームのような機能を果たしていて、海馬は記憶などの学習に関係しています。

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ストレスホルモンのコルチゾールによって海馬が萎縮することはよく知られていますが、逆に海馬や扁桃体の領域が小さいことが、トラウマ経験の際にPTSDを抱えやすいリスクになるのではないかとも言われています。

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睡眠不足の子どもでは海馬サイズが小さいことがわかっており、もしかすると、ADHDの子どもでは、乳幼児期から睡眠障害を抱えやすいことが、海馬を含む脳の発達の遅れにつながっているのかもしれません。

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研究チームは2008年からの4年間で、健康な5~18歳の290人の平日の睡眠時間と、それぞれの海馬の体積を調べた。その結果、睡眠が10時間以上の子どもは6時間の子どもより、海馬の体積が1割程度大きいことが判明したという。

ADHDの脳の小ささが確認される部位は「その差は極めて小さく、数%の範囲内」だとされているので、環境に恵まれた場合、それほど大きな問題を生じないまま、成長とともに症状が和らいでいくADHDの子どもも多いのでしょう。

しかし、扁桃体や海馬が小さめであることから、普通の子どもよりストレスに敏感で、影響を受けやすい可能性がありそうです。報酬系が弱いことから、学業に集中しにくい傾向もあるでしょう。

そのため、学校生活で問題を抱えた場合に、普通の子どもよりも、概日リズム睡眠障害や慢性疲労症候群などによる不登校に陥ったり、機能不全家庭や犯罪被害にさらされた場合には、PTSDなどに発展したりするリスクがいくらか高いのかもしれません。

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愛着障害を研究している友田先生は、通常 ADHDの子どもは大人になるにつれて脳の発達が追いつくものの、それを妨げる要因としてトラウマなどの環境要素が足を引っ張ることがあるとも指摘していました。

つまり、大人になっても非常に強いADHD症状が残っている人の場合、生来の遺伝以外の、何かしらの環境要因の影響を考慮に入れる必要がありそうです。

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なお、ASDとADHDは、脳の発達においては、それぞれ異なる特徴を持っているとはいえ、厳密な意味で対称関係にあるわけではないことには注意が必要です。

寄生虫なき病に載せられているクールシェンヌの研究によれば、ASDは早期に脳が過成長して早くピークが訪れる反面、その後成長が鈍くなり、ウサギとカメでいえば、ウサギのような傾向を見せ、発達が追い抜かれるとも言われていました。

マラソンにたとえるなら、自閉症児の脳は最初は飛ばしていたが、途中で倒れてしまったということになる。(p320)

現に、ASDとADHDが合併する例があることは、両者が対称関係にあるわけではないことをはっきり示しています。つまり、早期に脳の過成長が生じることと、その後何かしらの要因で脳の発達が遅れることとは、重なり合う可能性があります。

ASD症状とADHD症状を両方持っている人の中には、遺伝的な傾向として、純粋な意味でASDとADHDを合併している人ももちろんいるのでしょう。

しかし、中には、ASDまたはADHDの片方と不安定型愛着を合併した結果、あるいは生まれつきの発達障害がないにもかかわらず、劣悪な環境要因によって発達が妨げられた結果として、両方の特徴を持っているように見える場合があることにも留意しておくべきです。

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ちなみに、ADHDで特に異常がみられなかったとされていた淡蒼球は、統合失調症で大きいことがわかっています。

阪大など、統合失調症患者の脳で左右の体積がアンバランスな部位を発見 | マイナビニュース

淡蒼球は大脳皮質下領域にある大脳基底核の1つで、運動機能や、動機付け、意欲、欲求が満たされる感覚に関与するとされる。

統合失調症患者では健常者に比べて体積が大きいことが知られていた。

やはりADHDや自閉症などの発達障害と統合失調症は、ひとまずのところ区別して考えたほうがよさそうです。

一人ひとり脳の構造が違う

これらの研究からはっきりわかるのは、自閉スペクトラム症、ADHDいずれにしても、環境への適応が難しかったり、ストレスに過敏に反応したりしてしまうのは、本人の心の弱さや気にしすぎのようなものではなく、れっきとした脳の構造の違いによるものだ、ということです。

そして、脳の発達や構造が違う、ということは、定型的な発達をした人に比べて、うまくできない短所がある一方で、非定型な発達をしたからこその長所があることも物語っています。

それぞれの脳の傾向が違うことを認めた上で、その人の良い特徴が出るような環境を整えていくことが、発達障害を「障害」ではなく「個性」へと変えていく第一歩だと感じます。

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