わかっているのにやめられない強迫性障害―不安や心配で疲れ果てる病気の原因と治療法


■完璧にやりとげないと気が済まない
■だれかを傷つけてしまわないか心配でたまらない
■ミスが怖くて何度メールやレポートを確認しても安心できない
■後悔することが怖くて、将来を心配するあまり動けない
■ばい菌や化学物質、放射性物質が怖くて生活できない
■自分でも変だと思っているのに、やめたいのにやめられない

のような不安・心配・恐怖のため疲れ果ててしまって、日常生活が成り立たなくなることがありますか? それはもしかすると強迫性障害(OCD)かもしれません。

OCDは、従来、几帳面すぎる性格や心の問題だと考えられていましたが、実際には、性格とはあまり関係がない脳の病気だとわかってきました。

OCDの特徴の中には、他の病気と間違えやすい部分もあり、たとえば慢性疲労症候群の一部には強迫性障害と似たメカニズムで病気が悪化している人がいるようですし、統合失調症化学物質過敏症などとの区別も必要です。

そうした他の病気との関わりも含め、このエントリでは、OCDの原因や治療法について、強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)や、そのほかの専門的な本を参考にまとめてみました。

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これはどんな本?

強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)は、全ページに挿入されている二色刷りの図解が分かりやすい、講談社のこころライブラリーイラスト版の一冊です。

発行は2013年2月と、つい先日です。OCDの会顧問を務める、なごやメンタルクリニック院長原井宏明先生が著しておられます。

原井宏明 医師,【強迫性障害、パニック障害、社交不安障害、うつ病、薬物依存症 】,『パニック障害』,なごやメンタルクリニック-心療内科、精神科(はらいひろあき,) | ドクターズガイド

この記事で特に出典を書かずにページ数を示しているものはこの本からに基いています。また図解やさしくわかる強迫性障害、および、よくわかる 強迫性障害―小さなことが気になって、やめられないあなたへも参考にしています。

強迫性障害(OCD)とは どんな病気?

強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)は「不安とこだわりの病」です。

自分でもコントロールできない、頭に勝手に浮かんでくるイメージに悩まされ、それを振り払おうとして、さまざまな強迫行為(儀式)を繰り返し行うようになり、生活から自由な時間がなくなってしまう、不安障害の一種とされています。

このような勝手に湧き上がるイメージは「強迫観念」と呼ばれます。

■万が一の不安や心配
■不吉な考えや映像
■失敗への恐怖
■不潔な言葉や空想

など、内容はさまざまです。

OCDの人は、自分でもおかしい、無意味だ、やめたい、と思いながら、強迫行為をやめることができず、むしろどんどん悪化し、時間も体力も奪われるようになっていきます。

また家族にも強迫行為の儀式を手伝ってもらうなど「巻き込み」が生じ、やがて家族全体が病気を作り上げる「共依存」の状態になってしまうことも少なくありません。

OCDは、10代から20代に多く、男女比は同数だそうです。100人に2-3人が抱え、そのうち3割程度がうつ病を併発します。(p34,48)

有名人の中にも強迫性障害の人がおり、たとえばサッカー選手のデビッド・ベッカムは、2006年に自分がOCDで、整然とした並びにこだわってしまう不完全恐怖を抱えていることを告白しています。

また女優のキャメロン・ディアスも、細菌恐怖の強迫性障害に悩まされ、ひたすら掃除に明け暮れた時期があったそうです。

強迫性障害(OCD)の8つのタイプ

OCDは、人によってさまざまな症状が現れ、とても多彩ですが、不安・心配・こだわりなどを特色とする点は共通しています。具体的には、次のようなタイプがあります。

これらさまざまなOCDは、どれか一つのタイプだけを発症するのではなく、たいていは複数のものが重ね合わさっています。

1.不潔恐怖・洗浄強迫

日本人に特に多いOCDは「不潔恐怖・洗浄強迫」です。

汚れを過度に怖がる潔癖症がエスカレートし、いつまでも手を洗い続けたり、入浴を繰り返したりしてしまいます。水道代がとんでもなくかさんでしまうこともあります。

またドアノブやつり革に触れられず、ティッシュで覆ってからつかむこともあります。

「汚れ」には、排泄物、汗、ばい菌、放射性物質、化学物質などが含まれ、人によってさまざまです。(p12-13,16,65)

不潔恐怖の人は、多くの場合、自分の部屋や子どもなどを、汚してはいけない「聖域」と定め、そこへ汚染物質を持ち込まないよう、尋常でない注意を払います。(p36)

1994年のアメリカ映画「恋愛小説家」の主人公は、手を洗うたびに新しい石鹸を使ったり、レストランに使い捨て食器を持って行ったりする不潔恐怖でした。

2004年の映画「アビエイター」でも、不潔恐怖に苦しんだアメリカの富豪、ハワード・ヒューズの半生が描かれています。ハワードは最終的に自室を聖域とし、そこから出られなくなるほどに悪化しました。

2.加害恐怖

日本人に多いタイプとして、ほかに「加害恐怖」もあります。

これは、知らないうちに人を傷つけたかもしれない、だれかを轢いたかもしれない、といった恐怖や不安にさいなまれるタイプです。(p14-15,22-23)

だれかを傷つけてしまうイメージが溢れだして止められず、他の人に「そんなことにはならない」と言ってもらうとすると安心しますが、より想像が過激になり、エスカレートしていきます。

車で人を轢いたかもしれないと考えて何度も車を停めてあたりを確認するなど、確認強迫を合併していることも少なくありません。

不潔恐怖の人の中には、自分が汚れの感染源になり、だれかを病気にしてしまうという加害恐怖を抱いている人もいます。この場合は「疫病恐怖」とも呼ばれます。

3.確認強迫

戸締まり、火の元、忘れ物など、自分のミスによって事故や災害が生じてしまうことを心配する「確認強迫」も日本人に多いと言われています。

ガスの元栓、戸締まりなどを繰り返し確認しますが、何度確認しても心配が尽きず、ヘトヘトにになります。また確認の手順を決め、儀式化することにより、膨大な時間がとられるようになります。(p18-19,40)

過失による災害そのものではなく、過失が引き起こした災害で自分や家族の評判が損なわれることを心配している場合もあります。

たとえば、自分のミスで恥ずかしい思いをすることを恐れて、何度もメールや報告書を見直す確認強迫はその一例です。

確認強迫の場合、家族や友人に、戸締まりの確認などを頼むことが多く、まわりを巻き込んでいきやすいのも特徴の一つです。

4.不道徳強迫

危険なことをしたい、相手が嫌がるようなことを言いたい、犯罪的なことをやりたいという空想や衝動を止めることができず、行為がエスカレートしていくタイプは「不道徳強迫」と呼ばれます。

不道徳強迫は、重大な犯罪や事故につながることもあり、とても危険なタイプです。

中には、神を冒涜するような言葉や行いのイメージが浮かんで、神罰を恐れるようになる「宗教強迫」、性的倒錯行為のイメージが浮かんで振り払えない「性的不道徳強迫」などもあります。

こうしたタイプは強迫観念が浮かんだり、衝動的なことをしたりしたあと、懺悔することを繰り返し、謝ったり告白したりすることで安心感を得ますが、再び同じ行為を繰り返します。

悪いことをだれかに告白して許され、慰められる、という安心感や心地よさがやみつきになるあまり、かえってそれがエスカレートしてしまうのです。

5.縁起強迫

縁起をかつぎ、バチが当たらないよう細心の注意を払う迷信深いタイプは「縁起強迫」と呼ばれます。(p24)

何か不吉な予感がすると、縁起をかつぐための儀式をしないと気が収まらず、自分で決めた手順通りに道を選んだり、縁起のいい時間を待ったり、縁起をかつぐ言葉を繰り返したりします。

縁起強迫の人は、縁起をかつがなければ、神や天といったものからバチがあたる、呪われると考えるので、他のタイプよりも突拍子もない悪い結果を想像しやすく、恐怖の度合いがより強いといわれています。

また、迷信とは関係なくても、ふだんの生活の中で、嫌な人や場所の顔が浮かぶと、それを不吉なこととみなして、打ち消しのために儀式に励む、といった、より日常に溶け込んだ形で表れることもあります。

6.収集癖

いつか使うかもしれない、捨てたらきっと後悔する、二度とめぐりあえないと考えて、すべてをとっておき、捨てられない「収集癖」もOCDの一つです。

物を集めるだけでなく、あらゆるファイルをダウンロードする、記憶のような形のないものも捨てられない。という症状を示すこともあります。(p26)

「機会」を捨てられない、見逃せないタイプの強迫観念もあり、何かを得損なうのでは、と心配するあまり、イベントや誘いにすべて参加しないと気が済まない人もいます。

7.不完全恐怖

数や位置がすべてそろっていないと嫌な感じがして完璧な整然さを求めてしまうタイプは「不完全恐怖」と呼ばれます。前述のデビッド・ベッカムもこの不完全恐怖にあたるでしょう。

完璧を求めて何度も同じことをやりなおしたり、いつまでも気になることにこだわり続けたりして、100%でないと満足できません。

インターネットを調べるとき、気になることや関連することを何から何まで調べないと気が済まない「Q&A強迫」もあります。

他のタイプに合併すると、儀式化した決められた手順の途中で邪魔が入ったと思ったら、最初からやり直すことにもつながります。(p20-21)

OCDの人はどのタイプでも、中途半端を嫌い、完璧を求める不完全恐怖を併せ持っている傾向があります。

8.強迫性緩慢

こうしたさまざまなタイプの不安や恐怖、心配でがんじがらめになり、いろいろ想像しすぎて、行動できない、もたもたして、何もできないまま疲れ果てる状態は「強迫性緩慢」と呼ばれます。(p25)

将来のさまざまな「万が一」のリスクが頭の中に激しく湧き上がってくるため、次の行動や決断に移るのに、ものすごい労力を要します。

決定や選択が遅いため見た目は動作がフリーズしているように見えますが、頭の中では、さまざまなリスクをシミュレーションしていて大混乱しています。

後悔することを恐れるあまり、完璧な結果を求めて、徹底的に様々な可能性を予測して悩みぬくため、非常に疲れて体力を消耗します。

強迫性障害の原因は?

OCDは突然発症する病気ではありません。最初はふと何かが気になった程度だったのが、じわじわと強迫行為が増え、さまざまな症状を連鎖的に抱え込み、重症化していくことが多いそうです。(p27,38-39)

脳は奇跡を起こすによると、脳科学的な原因として脳の3つの部位が関係しているとされています。

脳スキャンによって、強迫観念には脳の三つの部位が関係することがわかっている。

まちがいに気づくのは、前頭葉の一部である眼窩前頭皮質だ。…脳スキャンを見ると、強迫観念が強い人ほど、眼窩前頭皮質が活発なのがわかる。

ここが「まちがったという感情」を発火すると、つぎに帯状回に信号を送る。…「この過ちを正さないと、なにか悪いことが起こるぞ」という不安を生じさせ、心臓や内蔵に信号を送る。

…そして「自動的なギアチェンジ」は、尾状核で起こる。…尾状核が自動的にギアチェンジをしないために、眼窩前頭皮質と帯状回がずっと信号を発しつづけ、まちがったという感情と不安がどんどん強くなってしまう。(p200)

つまり、(1)眼窩(がんか)前頭皮質が「まちがった!」と感じる→(2)帯状回が「やばい!」と反応する→(3)本当はブレーキをかけるべき尾状核がギアチェンジをしてくれない。

という三段階で、強迫性障害(OCDの症状が起こるようです。特に尾状核がブレーキをかけず、スイッチをオフにしてくれない、という部分から、強迫性障害の専門家のジェフリー・シュウォーツは、これを「脳ロック状態」と呼んでいます。

それではなぜ、この回路がうまく働かず、ロックされるようになるのでしょうか。理由には遺伝と環境のさまざまな要素がからんでおり、犯人探しは得策ではないとされています。

強迫性障害の人は、自分の症状の原因が何なのか探すことがありますが、原因探しは、実は強迫性障害の症状を加速させていることが少なくありません。

「原因探し」が原因のことも

たとえば、不潔恐怖の人は、自分の不安の原因はばい菌にあると考えるあまり、より手洗いなどを長時間行うようになり、強迫性障害が悪化します。

はじめは、ちょっとした不安や心配だったのが、「原因探し」をして、それをやっきになって生活から取り除こうとした結果、強迫行為が発生し、負のスパイラルに陥って強迫性障害が完成します。

図解やさしくわかる強迫性障害にはこうあります。

本来、強迫観念、強迫行為には合理的な意図・理由はありません。「ない」から「OCD」と診断するのです。

理由探しや無理矢理なこじつけは病気を正当化することになり、悪化を招きます。

病気の原因を探るタイプのカウンセリングがOCDを悪化させるのはそのためです。(p86)

遺伝よりも環境

OCDには確かに遺伝も関係していて、強迫のタイプも遺伝するとされています。

OCDの人の脳の断層撮影では前頭葉や大脳基底核などの過剰な活動が報告されることもあり、その人が生まれもった、脳の神経伝達物質セロトニンのバランスが関係しているようです。

しかしOCDになりやすい特有の性格はなく、さまざまなストレスをきっかけに負のスパイラルが始まって強迫性障害になってしまうことが多いようです。(p56)

こうした負のスパイラルが生じるメカニズムは十分にわかっていませんが、中には自己免疫システムの過剰反応説を唱える研究者もいるそうです。

いずれにしても、遺伝要因だけで発症することはなく、環境要因の影響が大きいため、環境を変えることで治療することも可能です。

強迫性障害(OCD)に合併しやすい病気

OCDに合併しやすい病気としては、以下のようなものがあります。

■自閉スペクトラム症(ASD)
OCDの原因はおもに環境にあるとはいえ、遺伝的に、こだわりや身体感覚の過敏性を伴う、自閉スペクトラム症(ASD)[アスペルガー症候群]の傾向を持っている人はOCDになるリスクが高いと考えられています。

最近の診断基準であるDSM-5には、強迫性障害に属する溜め込み症(Hoarding Disorder)という疾患カテゴリが設けられていますが、杉山登志郎先生による臨床家のためのDSM-5 虎の巻では、こう解説されています。

かつてドイツ精神医学において、収集癖(Krankhafye Sammelsucht)という概念があった。つまらない物に価値を置き溜め込む習癖で、知的障害、認知症、躁病、妄想性障害、強迫性障害などに関連して生じると考えられていた。

溜め込み症はこの収集癖とは起源を異にする。要は大量消費社会の中で、物を捨てることができずに、不用な物が溜って生活を脅かすまでに深刻化した状態である。

…現在のところ、典型的な病理をAD/HD×虐待的育ち×強迫性と説明されているが、われわれの経験では圧倒的にAD/HD(片付けられない)より、ASD(捨てられない)のほうが目立つのであるが。

自閉症スペクトラムの親が、虐待の既往と強迫性を抱えているときにしばしば溜め込み症の併存があるのである。(p55-56)

自閉スペクトラム症(ASD)は「捨てられない」こだわりの強さと強く関係していることがわかります。

自閉スペクトラム症について詳しくはこちらをご覧ください。

大人の発達障害「自閉スペクトラム症/アスペルガー症候群」の5つの特徴と役立つリンク集
最近、大人の発達障害を疑って医療機関を受診する人が増えているといいます。その多くは、子どものときから困難を抱えながらも、なんとか学生生活には適応してきました。しかし社会人になると、

■不安障害
強迫性障害は「不安障害」の一つですが、不安障害にはそのほかにパニック発作を繰り返すパニック障害、人前や公共の場に出ていけない社交不安障害(SAD)、理由のはっきりしない不安を抱える全般性不安障害(GAD)などが含まれます。

■強迫性スペクトラム障害
強迫性障害の周辺疾患には、チック症、心気症、抜毛症、摂食障害、外見へのコンプレックス(身体醜形性障害)などがあり、これらは強迫スペクトラム障害と呼ばれています。スペクトラムとは連続性を意味する言葉です。

愛着障害
強迫性障害の少なくとも一部には、幼いころの養育環境による愛着障害が関わっているようです。愛着障害が、強迫性スペクトラム障害や不安障害のおおもとの実態である場合もあります。

見捨てられ不安にとらわれる「不安型愛着スタイル」―完璧主義,強迫行為,パニックなどの背後にあるもの
岡田尊司先生と咲セリさんの「絆の病」を参考に、「不安型」「とらわれ型」の愛着スタイルを持つ人の感情や葛藤の原因についてまとめました。

強迫性障害(OCD)と他の病気の違い

OCDは症状がよく似ている他の病気と間違われることがあります。しかしよく症状を見れば、OCDなのかそうでないのかがわかるようです。この項の情報の一部は図解やさしくわかる強迫性障害などに基づいています。(p18,48-49,56)

■心気症との違い
心気症とは、身体的な病気がなにもないのに、漠然と自分は病気かもしれないと考えてドクターショッピングを繰り返すことをいいます。

OCDの「疫病恐怖」は、心気症とある程度連続性のあるものですが、もっと具体的で、自分が何かの危険な細菌やウイルスに感染しているのではないか、そして自分の病気を他の人に移してしまうのではないか、という恐怖を抱きます。

もちろん、心気症とみなされている人の中にも、現代の検査技術で異常が見つからないだけで、実際には重篤な症状を抱えている人がいることにも注意が必要です。

■潔癖症との違い
単に清潔さを強く求める潔癖症と異なり、OCDには「儀式」が伴います。たとえば、強迫観念を鎮めるために繰り返し行う尋常でない手洗いや確認行為などです。

■恐怖症との違い
強迫性障害は、さまざまなものに恐怖を抱きますが、単なる恐怖症とは違います。

恐怖症は、高所恐怖症、クモ恐怖症のように、目の前のものに恐怖を抱いて立ちすくんでしまうものです。しかし、強迫性障害の場合は、強迫観念、つまり「万が一、将来起こるかもしれないイメージ」に対して恐怖や心配を抱きます。

「もしも汚れで自分が重大な病気に感染してしまったら」「もしも自分の不注意で家が焼けてしまったら」「もしも刃物で人を傷つけてしまったら」といった、普通は起こりえないことを「万が一」と考えて心配してしまうのが強迫性障害なのです。

■完璧主義(強迫性パーソナリティ)との違い
いわゆる完璧主義は、「強迫性パーソナリティ」として知られています。

強迫性パーソナリティとは、生まれ育ちなどの影響で、厳しい道徳的価値観などを持っている人のことで、完璧さにこだわる細かく厳しい性格のことをいいます。

自分にも相手にも完璧さを求めるため融通が利かず、気難しい人とみなされやすいですが、OCDと併存している人は1割にも満たないといわれています。

完璧主義の人には、もしもの事態に不安を抱く強迫観念や、それを鎮めるための儀式はなく、単に自分のルールに厳しいだけです。

■統合失調症との違い
強迫性障害の強迫観念は、統合失調症の妄想と似ています。OCDの約3割が、統合失調症の前駆症状などと誤診されているそうです。

しかし統合失調症の患者が、自分の妄想が妄想だとわからず確信しているのに対し、強迫性障害の人は、自分でもおかしいと思いながら「わかっているのにやめられない」状態にあります。

また統合失調症の幻聴や妄想には抗精神病薬がよく効きますが、強迫性障害の強迫観念には効きません。

■慢性疲労症候群(CFS)との違い
OCDは疲れ果てる病気であり、慢性的な疲労感を抱えることもしばしばです。強迫性緩慢になると、寝たきりや引きこもりに近くなって身動きがとれない人もいます。

慢性疲労を訴える人の中には、強迫性障害(OCD)と似たメカニズムで症状が悪化している人もいると考えられます。

たとえば、運動すると体調が悪化するという恐怖のため、引きこもりがちになり、筋力の低下(廃用性筋萎縮)が生じて、体調が悪化する場合などです。これは強迫性障害の負のスパイラルの仕組みとよく似ています。

しかし慢性疲労症候群(CFS)にもさまざまなタイプがあり、単に強迫観念から活動を避けて疲れているわけではなく、エネルギー生産の障害など、実際の身体的な疾患を抱えている場合もあるので、原因を見分けることが大切です。

強迫観念が関係しているタイプの慢性疲労症候群とその治療法については、こちらの記事をご覧ください。

慢性疲労症候群(CFS)の段階的運動療法―恐怖回避の解消が重要
CFSの段階的運動療法と認知行動療法について書かれています。

■化学物質過敏症との違い
強迫性障害は、化学物質や放射能、電磁波に対する恐怖や心配としても表れることがあります。

その場合、そうしたものを極端に避けたり、生活から排除したりするようになるので、化学物質過敏症(MCS)などと見分けがつきにくくなる可能性があります。

しかし強迫性障害の場合は、化学物質そのものによる体調不良ではなく、化学物質を恐れるあまり、不安や心配が体の症状を引き起こしていると考えられます。

化学物質過敏症やシックハウス症候群は、アレルギーのような、化学物質に対する身体的な過敏性による病気であり、強迫性障害のような強迫観念や手の込んだ儀式はありません。

どうやって治療するの?

OCDの治療には、自分の努力と家族の協力が不可欠です。しかしどちらも、正しい知識がないとうまくいきません。

専門家を受診する

OCDはまだ詳しい医師が少ないため、統合失調症などの、他の疾患と誤診されることが多くあります。

インターネットや患者会などから情報を得て、しっかりOCDについて調べ、専門医を受診することが必要です。

薬物療法

専門医が使う薬物療法は、パキシル、ルボックスなど(SSRI)やアナフラニール(三環系抗うつ薬)が主体です。効果が出るまで数週間から数ヶ月かかります。

抗不安薬はパニック障害には効くもののOCDには無効だそうです。

薬物療法は、いったん効いても薬を中止して数ヶ月すると再発するといわれています。行動療法と組み合わせて初めて回復しやすくなるので、できれば両方とも実践している医療機関が望ましいといえます。

脳は奇跡を起こすによると、アナフラニールやSSRIのような薬物療法は、あくまでもセラピーが効果を上げる程度に不安を和らげるために使うもので、「自転車の補助輪のような役目」だと表現されています。(p205)

SSRIが利かない強迫性障害には別の手段が試されることもあるようです。

強迫性障害に使われるレーザー治療の可能性 | ライフハッカー[日本版] はてなブックマーク - 強迫性障害に使われるレーザー治療の可能性 | ライフハッカー[日本版]

 

認知行動療法(ERP:暴露反応妨害)

OCDの治療法はいろいろありますが、そのうち最も期待できるのは、1980年代に開発された認知行動療法のERP(Exposure & Ritual Prevention エクスポージャーと儀式妨害/暴露反応妨害)だそうです。(p62)

エクスポージャーとは、不安や不快、嫌悪感そのものを避けず、積極的に体験することです。悪いことは起こらない、ということを理屈ではなく体感で納得するために訓練です。

儀式妨害とは、強迫観念が生まれてきても、強迫行為や確認儀式を行わずに過ごし、恐怖に耐えることをいいます。タイプによってさまざまな方法があります。

具体例
■聖域とされている部屋があっても、手も洗わず汚れた状態のまま過ごす。(「水抜き」と呼ばれる)
■ばい菌だらけと感じる公衆トイレの便座に触り恐怖に耐える。
■誰かを轢いたと思う場合、あえて最悪の事態を想像し、確認しないで恐怖にひたる。
■不安な強迫観念が浮かんだら、消し去ろうとせずに、もっと怖いイメージを思い浮かべる。
■不吉に思うことをより具体的にイメージし、口に出して繰り返し言ってみる。
■運動すると体調が悪くなる恐怖がある場合、段階的に運動してみる。(恐怖回避が関係する慢性疲労症候群の場合)

ERPはOCDの8割ほどに効果があるとされています。薬が効かない例にも効果があることが、先日のニュースで報告されていました。

薬が効かない強迫性障害に、行動療法「EX/RP」の効果は? - MEDLEYニュース はてなブックマーク - 薬が効かない強迫性障害に、行動療法「EX/RP」の効果は? - MEDLEYニュース

非常に大切なポイントとして、ERPは、自分で決意して取り組むことが必要であり、医師や家族に言われてなんとなく始めるとかえって悪化することが多いそうです。

動機づけ

強迫行為をやめたいとは思わない、強迫行為をやめようとしてもどうせ無駄だ、自分はやりたいからこの儀式をやっているんだ、と考えて開き直ってしまっている場合、ERPは逆効果です。

そのような人は、「治りたい」という気持ちを持たないかぎり、治療することはできません。

そのためには…

■強迫性障害の本を読む
■自分がどれほどの時間を無駄にしているのかタイマーで計測する
■使用している水道代などの費用を自分で払う
■問題点をリストに書き出す

などの方法で、深刻な問題に気づくよう助けることが必要です。

強迫行為を別の行動で置き換える

脳は奇跡を起こすによると、先ほど強迫性障害は「脳ロック状態」であるとしていたカリフォルニア大学ロサンゼルス校のジェフリー・シュウォーツ教授は、自分で尾状核のギアチェンジを「マニュアル操作で」シフトする治療法を勧めています。

まず、最初のステップは、いま起きていることに「ラベルを貼りなおす」ことです。

つまり、いま体験しているのは、細菌のせいでも縁起の悪さでも自分の失敗でもなく、OCDの症状だと自分に言い聞かせます。そして、症状がすぐに消えないのは、脳の三箇所がロック状態にあるせいだ、という事実を思い起こします。

次に、あらかじめ自分が楽しんで熱中できる何かを用意しておき、強迫症状が出たら、無理にでも、楽しいことのほうを行うよう努力します。好きなCDを聞くとか、趣味に打ち込むなどです。

これは、簡単なことではありませんが、強迫症状が出たときに、強迫行為ではなく、別の楽しいことを行うことで、脳の中の関連付けが徐々に弱まっていきます。強迫行為をやめるのではなく、別の行動で置き換えるのです。

この治療法では、結果はすぐにはでない。神経可塑性の変化が起こるには時間がかかるのだ。

だが、脳を新しいやり方で訓練することによって、変化の土台を作っていく。

最初のうちは、強迫行為をやりたいという衝動も感じるだろうし、それをおさえることで緊張も不安も感じるだろう。

目標は、OCDの症状がでたら、15分から30分のあいだ、新しい行為に「チャンネルを変えること」だ

(そんなに長い時間がむりでも、抵抗するだけでも効果がある。たった1分でもいい。その努力が、新しい回路を築くのである)。(p204)

ポイントは、強迫行為をやめようとするのではなく、別の行動に置き換えることです。やめようとすればするほど、強迫行為は強くなってしまいますが、別の行動に置き換えてスイッチを切り替えれば、脳のパターンが変わっていきます。

詳しくはシュウォーツ教授の著書新装版 不安でたまらない人たちへ: やっかいで病的な癖を治すをご覧ください。

マインドフルネス

強迫性障害にはマインドフルネス瞑想のように、五感を研ぎ澄ませて自分の感覚を観察し、今この瞬間の状態をありのままに受け入れようとすることも、治療に役立つようです。

脳科学は人格を変えられるか?にはこう書かれています。

シュウォーツが人々に訓練したのは、ストーブを消したかどうかチェックしたいという衝動と闘うことではない。

そうした症状を、〈憂慮すべき何か〉として認識するのをやめ、脳内回路の失調のあらわれとしてとらえ直すことを彼は患者に教えたのだ。

…療法によって、強迫行為への衝動が弱まったのに加え、脳のエラー探知システムが活動過多でなくなったおかげで、被験者はなんとかふつうに生活を送っていけるようになった。

…標準的な認知行動療法は強迫性障害にはほとんど効果をもたないものだが、マインドフルネス瞑想法を組み合わせたことで、大きな成果が得られたのだ。(p272-273)

マインドフルネスのポイントは、今この瞬間に自分が経験していることをありのままに感じ、受け止めることです。音・匂い・感情・思いなどを判断したり反応したりせず、自由に心に感じます。

強迫性障害の場合でいえば、強迫観念が浮かんでも、それを振り払おうとしたり、あれこれ考えたりせず、ありのままの不安や心配を感じるに任せます。

すでに触れた、愛着障害が関係している慢性的な不安によって引き起こされる強迫性障害の場合も、マインドフルネスは役立つことでしょう。

患者会で仲間を得る

ERPはたいへん勇気と決意が求められるので、「バンジージャンプ」のようなものだと形容されることがあります。

また、不潔恐怖などのERPはわかりやすいですが、複雑なタイプのOCDとなると、どのようなERPを組み立てればよいのかわからない場合も少なくありません。

そうした場合に、OCDの会のようなグループに参加し、ERPの情報を交換し、ゲームのように集団で行うことで、ハードルが低くなるそうです。(p92)

現在OCDの会名古屋OCDの会東京OCDの会静岡OCDの会があり、会報誌「とらわれからの自由」には体験談が載せられているそうです。(p76)

家族にできること

OCDの原因は環境要因が大きいことをすでに述べましたが、OCDの中には個人の問題ではなく、家族の病理となっているものも少なくありません。

「巻き込み」から「共依存」が生じると、家族全体がOCDの人の病気を維持し、悪化させることになるので、OCDの人が回復するには、家族の協力も不可欠です。

OCDの人の家族は、次のような点に注意して、本人と接することが大切です。

■言ってはいけないこと
次のような言葉は、OCDの人を傷つけます。(p50)

「性格じゃない?」
「なぜそんなことをしているの?」
「まだよくならないの?」
「そんなことやめればいいのに」
「なに意味のないことやってるの?」
「ばい菌なんかうつらないよ」

■協力するのは逆効果
OCDの人に手助けや協力を求められると、家族はかわいそうに感じ、協力してしまいがちですが、それはさらなる悪化を招くといいます。

協力を求められたなら、家族は心を鬼にして3つの返事の基本に従うことが大切です。

1.本人が一番怖がっていることを言い放つ
2.本人が動揺しても、同じ調子、同じ言葉を繰り返す
3.対応しきれないとき(暴力をふるうなど)は無言で立ち去る

具体例

本人「悪い病気はうつってないよね?」
家族「もううつってしまった」
本人「そんなこと言うなんて、わたしが死んでもいいの?」
家族「もううつってしまった」

本人「答えてくれないし、しかたないか」
家族「よくそう言えたね」

または…

本人「いいかげんにして!」
家族(無言で立ち去る)

再発を防ぐには変化のある生活を

OCDが一度治っても、暇な時間をもてあましたり、変化にとぼしい生活を送っていたりすると、再発しやすくなります。

形を変えて再発することもあり、気づかないうちに生じ始めている新たな心配が、実は別のタイプのOCDということもあります。

また、「これはOCDの再発ではないか」、と気にしすぎるなら、それ自体が「強迫観念恐怖症」というOCDを心配するOCDになってしまうこともあります。

こうした危険を避けるには、毎日を忙しく過ごし、不安や心配が入り込まない充実した生活を送ることが一番です。

自分の時間を取り戻す!

OCDを克服すれば、生活がどのように変わるのでしょうか。

図解やさしくわかる強迫性障害にはこんな経験談が書かれています。

行動療法を終えてしばらくして、母があれほど手放すことを恐れていた腕時計を身につけなくなり、メモもしなくなりました。母にとって大きな変化です。

また、病気によって制約されていた部分があったと思いますが、基本的に冗談を言わなかった母が冗談を言うようにもなりました。

母の病気が発症して20数年。「母ってこんな人だったんだ」と新たな発見をしています。(p80)

OCDが回復すると、こんなに時間があったのか、と本人も家族も胸をなでおろすそうです。今まで確認や強迫行為に追われていた時間が自由になるからです。(p86)

その結果、OCDの儀式によって覆い隠されていた、その人の本当の性格が表に出てくることもあります。

OCDを知った人は「こういう病気があると、初めて知った」と言うそうですが、わたしも同じ思いでした。病気だと思うこと自体が少ないそうですが、性格として片づけてしまっている人がいるかもしれません。(p58)

わたしは数年前、病院の待合室で、ある親子と知り合いました。息子さんは見るからにふさぎこんでいて、尋ねると強迫性障害(OCD)で家から出るのも難しいということでした。

そのときは、強迫性障害について、潔癖症と似たようなものという知識しかなく、その深刻さが十分理解できませんでした。今思えば、何より理解していなかったのは、巻き込まれる家族の大変さだったと思います。

そのときのことがずっと思いに残っていて、今回、この本を読もうと思いました。

強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)はOCDを知り、OCDの人に感情移入するのにとてもわかりやすい本です。この本にかぎらず、講談社のイラスト版は理解しやすいので、これからも活用していきたいと思います。

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ASD(自閉スペクトラム症) / その他の病気・障害