目標を定めるーCFSのもとでも生き生きと過ごすために

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130104目標「目指す港を知らぬ者にとっては、いかなる風も順風になりえない」。

そう述べたのはローマの哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカです。

年の始めのこの時期になると、「一年の計は元旦にあり」の言葉通り、各所で、目標を持とう!という主旨の記事が更新されます。必ずしも年の始めにこだわらなくても良いはずですが、やはり分かりやすい区切りの時期であることは確かです。

しかしながら、慢性疲労症候群をはじめ、重い病気を抱える人にとっては、目標を持つことは難しく思えるかもしれません。時間と体力を割いて目標を定めておくことには本当に価値があるでしょうか。少し考えてみました。

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なぜ目標を定めるのが難しい

困難な病気を抱える人にとって、目標を持つのが難しく思える理由はたくさんあります。

例えば、一日一日、生き抜くだけでも重労働なので、先のことなど考えられないように思えるかもしれません。また、元気なころの自分や、周りの同世代の友人と比べてしまって、できることがあまりにも少なくて気落ちしてしまうかもしれません。

特に、慢性疲労症候群(CFS)の症状は、しばしば老化と比較されます。書籍脳と疲労 ―慢性疲労とそのメカニズム には「慢性疲労症候群でよく見られる症状は加齢現象と大部分が重複しています」と書かれています。

年齢を重ねて、生活のペースを落とさざるを得なくなった人にとって、過去を振り返らず未来に目を向けるのは容易ではありません。同じように、CFSのもとで目標を定めて生き生きと生活するのは簡単ではありません。それでも目標を持つことには意味があるのでしょうか。

CFSのもとでも目標を持つべきか

CFSを患う方の中には病気になって、今まで抱いていた目標をあきらめざるを得なくなった、と感じる人もいることでしょう。だれでも、山のような障害に直面すると、圧倒されて悲観的になってしまうものです。しかし、有名なマイケル・ジョーダンはこう言いました。

「壁にぶち当たっても止まる必要は無い。振り向かず、あきらめるな。その壁を登る方法を考えるか、潜り抜けるか、迂回する方法を探し出せ」。

障害があるならそれを分析し、工夫して乗り越えればいいという考えです。

たとえば、突然の雪で路面が凍結したとき、それまでどおり走り続けるのは危険です。けれども目的地へ進むのをあきらめる必要はありません。タイヤをスタッドレスに交換したり、ほかのルートを探したりして工夫すれば、なお目的地へと進み続けることができます。

同じように、わたしは、CFSになったからといって目標をあきらめる必要はないと思っています。

それに、もし目標を控えめに制限するなら、思わぬ害が生じてしまうかもしれません。社会心理学でいうところの、自己成就予言となってしまう可能性があります。

自己成就予言とは、例えば、40を過ぎたらもう脳は衰えていくばかりだ、という思い込みが、頭脳活動を敬遠する行動につながり、実際に脳が衰えていくというような現象です。しかし本当は脳は死ぬまで5-10%しか衰えないのだそうです。

慢性疲労症候群(CFS)だから自分にはできない、と決め込んでしまうと、それが自己成就予言となり、実際に自分の可能性の幅を狭めてしまうかもしれません。ですから、目標を持つことは、病気に対処するためにも、病気を悪化させないためにも大切だと言えます。

CFSのもとでも目標を達成できるのか

それにしても、目標を立てたところで、CFSのもとでもそれを達成できるのでしょうか。工夫すればよいとは言っても、現実的に考えるなら、とても達成できない、と思えるかもしれません。

しかし、興味深いことに、人間を含め、自然界の生きものには、自分で考える以上の適応能力が備わっていることが知られています。

例えば最近、国際宇宙ステーション(ISS)に送られたシロイヌナズナについて興味深いニュースがありました。これまで植物の根の成長には重力が不可欠だと思われていましたが、シロイヌナズナは宇宙空間でも問題なく成長したそうです。

ニュース - 科学&宇宙 - 無重力下の植物、根の成長は地上と同じ(記事全文) - ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト(ナショジオ)

フロリダ大学の植物遺伝学者アンナ・リサ・ポールは「要するに、植物は自分が新規な環境に置かれたことを“知って”いても、問題なく成長できるということだ」と述べています。

もちろん人間の場合も例外ではありません。NASAの教育者であり、宇宙飛行士でもあるドッティー・メトカーフ-リンデンバーグに関連してこのように書かれています。

宇宙環境に対する身体・脳の順応 NASA | レスポンス

人は初めて宇宙空間に身を置いた時、体の軽さを感じると共に、体の中の水分が頭に向かって移動するのを感じる。これは勿論、普通の地上生活で感じることはできない現象である。

…しかし1日もすると、脳が新しい環境を受け入れ始め、普段の感覚に戻るという驚くべき順応力を発揮する。

宇宙に行くというのは、もっとも普通でない環境、日常にありえないような過酷な環境に置かれるということです。それでも、自然界の生物は、常識を覆す適応能力を発揮できるのです。

それにしてもなぜ人間はそれほどの適応力を発揮できるのでしょうか。神経科学史における偉業のひとつは、人間の脳には生涯を通して成長しつづける能力、つまり可塑性があると分かったことです。

心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界の著者であるコロンビア大学の神経学者オリヴァー・サックスは脳の可塑性についてこう述べました。

視力を失うと触覚や聴覚が発達する不思議――自身も右目を失明したオリヴァー・サックス医師が語る、人間の脳の驚くべき能力|World Voiceプレミアム|ダイヤモンド・オンライン

「まず、再構成する能力があるということです。今あなたが目隠しをされると、90分以内に触感が向上します。解剖学的には何の変化もありませんが、生理学的には変化しているのです。それを続けていると、ニューロンが回線を変えるのです。かなり高度なレベルまで回線を変えます」。

何らかの障害を負っても、脳にはそれを補い、問題なく成長するだけの柔軟性があることがわかります。たとえば、目や耳が損なわれた人は、脳の別の領域がその機能を代替するそうです。

慢性疲労症候群も脳機能の障害と言われていますが、その障害は可逆のもので、回復しうるとされています。慢性疲労症候群(CFS)に効果があるとされる認知行動療法(CBT)は脳の可塑性を引き出す手段のひとつです。

英国の教育者トニー・ブザンが言うには、脳は目標を立てると、無意識の内にも、実現へと向かって働き続けるそうです。時間はかかるかもしれませんが、CFSのような重い病気でも目標を達成することは可能だ、という希望がもてます。慢性疲労症候群(CFS)だからといって目標をあきらめる必要はないのです。

もちろん、目標を立てるにしても、どんな目標でも良いというわけではありません。自分の能力や置かれた状況を分析し、現実的な目標を立てる必要があります。

たとえ慢性疲労症候群(CFS)のような重い病気があるとしても、目標を立てることには大きな意義があります。その理由としてたとえば、目標を制限するなら否定的な自己成就予言となってしまうこと、目標を定めるなら脳は無意識のうちにも働き、可塑性が引き出されることを挙げました。

では、具体的にどのような目標を定めれば良いのでしょうか。目標を定める具体的な方法については、年末から年始にかけて、さまざまなブロガーの方たちが書いておられるので、いくつか紹介したいと思います。

どのように目標を定めるか

紹介するポイントは、以下の4つです。

1.他者に依存しない目標を持つ
2.目標を小さく細分化する
3.目標を徐々に調整するのを恐れない
4.他人ではなく自分の目標を持つ

それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.他者に依存しない目標を持つ

頑張ったのに評価されない…そんな人のための目標設定方法 « 純コミックス

jun(@jun0424)が書いておられのは、「他者に依存しない目標を持つ」ことの大切さです。たとえば、上司の評価を得たい、顧客の満足を得たいというような目標ではなく、自分が頑張りさえすれば達成できる目標を持つとよいということです。

具体的には、病気を治す、正規の仕事に復帰する、といった目標は他者に依存する目標といえるでしょう。しかし、病気についてよく知るために何冊か本を読む、学んだ治療法のひとつを実践する、といった目標なら、達成しやすくなります。

2.目標を小さく細分化する

目標を立てたところで、達成の見込みがないなら、それは夢でしかありません。たとえば、高い丘に登るという大きな目標を立てた場合、それを実現させるのは、丘へ通じる階段の一段一段という小さなステップの積み重ねです。

目標を達成しやすい現実的なレベルに落としこむためには、Jmatsuzakiさん(@jmatsuzaki)が書いておられた細分化のためのポイントが参考になると思いました。

現実的で夢もある「今年の目標」をたてるときに私が気をつけている3つのこと | jMatsuzaki

たとえば、大きな目標を細分化するとき、「~月までに」と期限を切ったり、「~冊読む」というように具体的な数値を示したりするなら、達成しやすくなるということが分かります。また毎日できる一日一日の習慣という形に落としこむこともできます。

重い病気の人の場合、たとえば毎日外の空気を吸うとか、手のかからない観葉植物を育てるとか、一日に3回、意識して笑う時間をもつといった小さなことでも、回復への一段一段に相当する立派なステップだと思います。

3.目標を徐々に調整するのを恐れない

目標についての最近のいろいろなエントリのうち、最も考えさせられたのはライフハック心理学の佐々木正悟さん(@nokiba)の記事です。

ライフハック心理学 » 「14時37分の佐々木正悟」はそんなに偉いのか?

この記事では、『「貯金を宣告した私」が14時37分にそうしたなら、以後残る全ての私達は14時37分の私の決定に従わなければならない』のだろうかということに疑問が差し挟まれています。そして『「私達の言い分」を全部記録に残していって(Evernote)、その言い分の「合議」に達するところを探して回るというやり方』と比較されています。

言い換えると、過去に定めた目標を絶対視して融通をきかせないなら、いわば過去の自分に縛られる独裁主義に陥ってしまうということです。そうするより、今日の自分、明日の自分の意見も取り入れて目標を調整していったほうが受け入れやすいでしょう。

佐々木さんは、人体は民主的ではないと書いておられますが、最近読んだ本によると、脳にはリーダーシップをとる部分はなく、自律分散的に制御されているそうです。ですから、人体の場合もやはりトップにあたる独裁者はいないのではないかと思います。

そうであればなおさら、過去の目標に縛られるというのは、人間の生理に反していることになります。目標を定めることは方向づけとしては大切ですが、調整が必要だと分かったなら、2013年1月1日の目標に縛られる必要はないのです。

4.他人ではなく自分の目標を持つ

最後に、個人的な経験からなのですが、慢性疲労症候群(CFS)の人にとって特に大切なのは、他人ではなく自分の目標を持つことだと思います。

慢性疲労症候群(CFS)という病気になると、弥が上にも、さまざまな人から良かれと思ってアドバイスされたり、だれかと比べられたりすることが多くなります。

しかし、だれかに強制されて決めた目標や、だれかの期待に応えようと思って定めた目標はあまり長続きしないのではないかと思います。自分が本当になやりたいことでなければ、徐々に苦しくなり、重荷になってしまうでしょう。

自分が本当に望んでいることを探す方法について、ひとつ上のGTD ストレスフリーの整理術 実践編 の著者デビッド・アレンはこう述べています。

左のページにあるのは、私が1990年の11月に数日間かけて描いてみた絵である。

…20年経った今、そこに描かれていることの大半は実現している。細かいところで違っているものもあるが、少なくとも本質的な部分は達成されている。

描いた当時は、これらのほとんどが単なる想像で、どのように実現していけばいいかはまったく見えていなかった。

だが絵を描くことで自分の心の奥にあったものが明確に認識され、目の前に現れたチャンスに気づいて行動していけるようになったのだと思う。(p274-275)

自分に正直になり、本当にやりたいことを見極めるために、マインドマップや絵をかいてみるのはよいかもしれません。わたしは年末年始はいつも一年の総括や目標のためのマインドマップをかいています。

ストレスフリーのノート術「マインドマップ」―5つのメリットとかき方のステップ
トニー・ブザン氏が開発した効果的なノート術、「マインドマップ」について紹介しています。マインドマップのなりたち、5つのメリットやかき方のステップについて書いています。

一年の終わりにマインドマップを見返してみると、特に意識していたつもりではないのに、ほとんどの目標を達成できたことに気づいていつも驚きます。確かに、目標を立てるなら、脳は無意識のうちに実現へと向けて働き続けるのです。

わたしの大きな目標は、このブログに書ける範囲では、自己紹介マインドマップにあるように、体調を現実的なレベルまで改善することや、仲間の患者の励みになる点で成長すること、手話の分野や海外で活動すること、そしてできれば闘病記を書くことなどです。

これらを、今回紹介したようなアドバイスにのっとって、自分で達成できるような内容に変換したり、細分化したりしています。まだ具体性には欠けますが、デビッド・アレンでさえ「20年間」だったわけですから、あきらめず追い続けたいと思います。

、CFSのもとでも生き生きと過ごすために

冒頭に引用したセネカの言葉は、目標を立てる意義について、示唆に富むヒントを与えています。目標は、将来目的地に到達するために必要なのではなく、、順風なる航海を楽しむために必要だ、ということです。

目標を立てるのは、必ずしも未来を豊かにするためではありません。未来は、あくまでもどうなるかわからない、不確実なものでしかありません。目標を立てたからといって、確実に未来が変わるわけではありません。

しかし目標を立てるなら、確実に変わるものがあります。それは、今の自分の生き方です。目標を立てるのは、今を充実させ、慢性疲労症候群(CFS)のもとでも生き生きと人生を楽しむためなのです。

結びに書籍増補 コドモであり続けるためのスキル (よりみちパン! セ)から、すてきな言葉を引用して締めくくりたいと思います。

「今」は未来のためにあるんじゃない。
「今」のために未来の夢があるんだ。

どうぞ今年一年もよろしくお願いいたします。

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