鏡の中に見える反転した自分の姿に向かって、わたしは嘆願しました。
(おぼえていてね、あなたが体験していることをぜんぶ、どうか、おぼえていてね!
こののうそっちゅうで、認知力がこわれていくことで、まったくあたらしい発見ができるように―) (p48)
もしも、刻一刻と壊れていく自分をリアルタイムで体験することになったら、あなたはどう感じるでしょうか。
一分一秒と時経つうちに、ひとつ、またひとつと能力が失われていき、体を動かす力も、言葉を話す能力も、見たものを把握する理解力も、次々に削がれ失われていくのを、ただ見ているしかない状況に置かれたとしたら。
科学者のジル・ボルト・テイラー博士が置かれたのはまさにそのような状況でした。37歳のある朝、彼女は朝起きると脳卒中になっていて、わずか数時間のうちに自分の能力が失われていくのを見つめることになったのです。
普通の人ならば、わけもわからずただパニックになるような異常な事態ですが、冷静な科学者たる彼女は違いました。
これまでの知識を総動員して、自分に何が起きているのか把握しました。そして働かない体と思考を駆使してなんとか助けを求め、壊れゆく思考の中で、冒頭の言葉を思いに刻みました。
「こののうそっちゅうで、認知力がこわれていくことで、まったくあたらしい発見ができるように―」。
この記事では、博士の劇的な体験記奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)をもとに興味深く思った点をまとめ、右脳と左脳の機能の違いや、自閉スペクトラム症(ASD)における右脳の役割などを考察してみました。



