朝起きられず学校に行けない子の「起立性調節障害(OD)」とは? よくある誤解と正しい対処法


子どもが朝、起きられない。目覚めても、顔色が悪く、ぼーっとしている。
起き上がろうとすると、フラフラする。
日中はだるさが続くが、夕方あたりからは元気になる。
「もう、大丈夫。すっかり回復した」と言うのに、また翌朝、体調が悪い。
このような状態が繰り返され、結果、遅刻・欠席が増えていく……。

はてなブックマーク - 日本小児心身医学会れは書籍朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から (中公新書ラクレ)の序文からの引用です。

このブログでは以前、朝起きられない深刻な病気として、睡眠相後退症候群(DSPS)を紹介しました。DSPSは、睡眠リズムが発達しきっていない思春期の子どもや若者に発症しやすい、とても厄介な病気です。

しかし、同じく朝起きられない病気として起立性調節障害(OD)を見落とすわけにはいきません。DSPSODは、それぞれ細部は違うとはいえ、子どもの体調不良や不登校と大いに深い関わりがあります。

このエントリでは、起立性調節障害(OD)とはどんな病気か、よくあるどんな誤解があるか、どうやって対処できるかといった点を考えます。

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起立性調節障害(OD)とは?

起立性調節障害(OD)とは、思春期によく見られる自律神経機能の障害です。The autonomic function and child chronic fatigue syndromeによると欧米では起立不耐性(orthostatic intolerance:OI)と呼ばれています。

発症メカニズムははっきりわかっていませんが、循環器系や内分泌系が急激に変化する思春期に、体や心に強いストレスを受けることが原因と考えられています。

起立性調節障害(OD)は心理的ストレスによって悪化する病気ですが、こころの病気ではありません。たとえば専門医の田中英高先生は以下の説明の中で、「起立性調節障害は身体疾患ですから、まず身体面での治療を進めます」とはっきり書いておられます。

(1)起立性調節障害│日本小児心身医学会

2016年3月に改定された慢性疲労症候群(CFS)の診断基準では、ODは強い疲労を伴う身体疾患である、慢性疲労症候群によく併存する症状のひとつとみなされています。

起立性調節障害(OD)の症状

ODは自律神経機能が破綻する病気ですが、自律神経機能は体のさまざまな働きを調節しています。具体的には、以下のような影響が及びます。

◆起き上がったときの言いようのない苦しさ
健康な人では、立ち上がったときに重力によって血液が足にたまらないよう、自律神経が働いて下半身の血管を収縮させ血圧を維持します。

しかし起立性調節障害(OD)ではこのシステムが働かないので、全身に十分な血液が行きわたりません。そのため、起き上がったときに、失神に近い立ちくらみやめまいに襲われ、その後長時間にわたって、重だるさ、頭痛、吐き気などが生じます。

朝起きられない子の意外な病気 にはこの症状について「あの、体調の悪さは、うまく説明できないくらいつらい」とか「ふらふらしながら歩いていたら、バタンと倒れちゃってさ」という子どもたちのコメントが寄せられています。(p44,176)

わたしも軽度ながらODの当事者ですが、悪い条件が重なりあって、最もひどい症状に襲われたときには、その場に倒れこんでしまい、これは大変なことになった、と文字通り血の気が引きました。

単に立ち上がるのが難しい、のではなく、いま立ち上がるなら必ず失神する、もしかしたら死ぬのではないか、と感じるほど異常な感覚なのです。

立ち上がる、というのはだれもが無意識のうちに行っていることですが、自律神経の奇跡的なメカニズムと信じられないほど複雑な働きがあるからこそ、たやすく立ち上がることができるのだ、ということを覚えていてほしいと思います。

◆血流の悪化
血液によって酸素や栄養素が十分運ばれないので、疲労が回復せず、慢性疲労状態になります。脳血流も低下し、思考が思うように働かなくなります。からだが血流を回復しようとして、動悸や息切れが生じることもあります。(p45)

雨や低気圧の日にだるさや頭痛(低気圧頭痛)がひどくなることがあります。(p189,203)

起立性調節障害の症状は体内の水分が減り、血圧が低下しやすい夏場に強く、寒さで血管が収縮する冬場は和らぐという特徴があります。しかし血流が悪いせいで、冬場は冷えに悩まされる子もいます。

 ◆生活リズムのずれ込み
健康な人は早朝になると交感神経が働いて起きる準備を整え、夜には副交感神経が働いて寝る準備を整えます。(p45)

しかし起立性調節障害では、午前中に交感神経働かず、5〜6時間以上も後ろにずれ込んで起きることができません。いっぽう、深夜になっても副交感神経が働かないので、夜は元気そうになります。

このように宵っ張りの朝寝坊のように見える点は、睡眠相後退症候群(DSPS)と共通しています。しかし、どちらの病気も生体リズムがずれているのであって、本人の夜更かしのせいで睡眠リズムが乱れているわけではありません。

朝起きられずに苦しんでいる娘に - 花のない花屋 - 朝日新聞デジタルには次のような経験談が寄せられています。

今も、朝は自力で起きることができません。さまざまな不快症状のために、体調がよくても登校は3限目くらいから。週4日ほどしか学校へ行けません。

勉強にもついていけず、ついに部活も辞めざるを得なくなりました。それでも娘は笑顔を絶やさず、「今を楽しんでいるよ、学校も楽しいよ」と言います。

 娘は昔から感情を表に出すことはめったにありません。端から見ると、調子のいいときは元気なので、ついつい「本当は学校に行きたくないだけじゃないの」と言って傷つけてしまったこともあります。一番つらいのは娘自身なのに……。

決して怠けや自己管理の甘さのために朝起きられないわけではないのです。

夜眠れず朝起きられない「睡眠相後退症候群(DSPS)」にどう対処するか(1)DSPSとは
朝どうしても起きられない、夜なかなか寝つけない、一度眠ると10時間以上目が覚めない…そうした悩みは症状は睡眠相後退症候群(DSPS)の症状の可能性があります。一連のエントリの最初で

これらのODの症状は、なんとか登校できる軽症から、身動きが取れない重症まで、子どもによって程度はさまざまです。

よくある誤解

起立性調節障害(OD)は一昔前に比べるとよく知られるようになって来ました。文部科学省が発行する「教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応」にも明記されています。

しかし、起立性調節障害(OD)という名前は聞いたことはあっても、その症状について正確な知識がなく、ODの子どもを誤解している医師、教師、親は少なくありません。

ここでは、おもに朝起きられない子の意外な病気 - 「起立性調節障害」患者家族の体験から (中公新書ラクレ)に基づいて、よくある誤解と正しい理解を列挙してみましょう。

誤解:正常な子どもの発達途上にみられる一時的な生理現象だろう。
正しい理解:正常な子どもは検査で異常は出ません。

誤解:夜は元気そうじゃないか。ただ学校をサボりたいだけだろう? (p154)
正しい理解:夜元気そうなのは、生体リズムがずれ込んでいるためです。ODの子どもたちは学校嫌いではありません。治療が進めば、朝起きられないとしても、定時制や通信制の学校に移って勉強することができます。(p38)

誤解:一日じゅうゴロゴロしている。単なる怠けでは? (p45)
正しい理解:寝転がると全身への血流が回復するので楽になります。(p41)

誤解:朝起きられないのは根性が足りないからだ。(p7)
正しい理解:ODの子どもたちは自律神経の生体リズムがずれているので、頭では起きたいと思っても、身体は深い眠りについているようなものです。立ち上がったまま眠ることができないように、体が眠ったまま立ち上がることはできません。

誤解:そんな病気、本当にあるのか? どうせ仮病だろう。(p169)
正しい理解:厚生労働省小児心身症対策の推進に関する研究班によって研究されたこともあるれっきとした病気です。研究が積極的になされていないように思えるかもしれませんが、それは「死なない」病気だからにすぎません。p64()

親が病気の存在を疑う場合、一緒に診察を受けてもらい『患者自身の血圧記録を示して説明すると説得力がある』と子どもの心身症ガイドブックに書かれています。

誤解:軽いうつ病や心の問題ではないか? 学校で嫌なことでもあったんだろう。(p7)
正しい理解:
知識を十分持ち合わせていない医師から「うつ病」「うつ状態」と言われることがあります。しかし起立性調節障害の子どもは、午前中は抑うつ状態になっても、夕方から夜にかけて明るい表情に戻ります。

たとえうつが見られるとしても、うつ病そのものなのか、体の症状が辛くてうつ状態になっているのかを見分ける必要があります。突然ひどい体調不良に悩まされ、学校に行けなくなった場合、落ち込んだとしても当然ではないでしょうか。

また、ODの子どもは抗うつ薬や抗不安薬を服用すると副作用で症状が悪化することがあります。NHKで取り上げられたように、子どもを簡単にうつ病と診断したり、抗精神薬を平気で処方したりする医師には注意深くあるべきです。(p47,51,95)

“薬漬け”になりたくない - NHK クローズアップ現代

誤解:遠足などイベントのときは元気に参加するので、病気には見えない
正しい理解:自律神経はアクセルの役割を担う「交感神経」とブレーキの役割を担う副交感神経からなっています。わくわくするようなイベントのときは興奮して交感神経が強く働き、症状が和らぐかもしれません。

これは、どんな子どもにも生じる当たり前のことです。健康な子どもは、普段は問題なく生活できて、イベントのときに普通以上に張り切ってはしゃぎます。

一方、ODの子どもは、普段はかなり体調が悪く、イベントで興奮したときだけ、やっと普通の子どもに少し近づけるというだけです。

イベントを楽しみにしてやる気が出る、というのは、病気であるどころか、うつ病のような深刻な問題を抱えていないことの証拠です。うつ病を発症していると、何にも興味を持てなくなり、いつもふさぎ込んでしまうからです。

健康な子どもは、イベントではしゃいだ後になって疲れが出ることでしょう。ODの子もまた、イベントのときは人並みに楽しめても、決してODが治ったわけではないので、イベント後にその疲れが響いて寝込んでしまうかもしれません。

そんなとき、親から見れば、「遊ぶことばかり一生懸命で、大事なことはやろうとしない」と思えてしまうかもしれません。

しかし、ODの専門医の田中大介先生は、やさしくわかる子どもの起立性調節障害のなかで次のような見方をするよう勧めています。

医師の立場からいうと、備蓄エネルギーを一気に使い果たしてしまうのは、よくないことというべきかもしれません。

しかし、たとえ翌日に響いたとしても、イベントを楽しめたということは本人にとっても喜ばしい経験ですし、気持ちもはずんだはずです。

またこれが、一つの成功体験として次につながる可能性も秘めています。(p121)

ふだん、体調が悪い毎日を過ごしている子どもにとって、学校生活は辛いものです。それでも、同級生と一緒に少しでも楽しむ機会が持てたなら、大人になってから、学生時代は悪いことばかりではなく、良い思い出もあったと振り返ることができるでしょう。

ですから、イベントのときは楽しめるからといって、子どもを責めたり、体調不良を疑ったりするのではなく、子どもらしい時間を過ごせたことを一緒に喜んであげてください。

起立性調節障害(OD)を診断する3ステップ

以上のような、いくつかの誤解や批判が広がった理由については、書籍起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応のp22以降に詳しい経緯が書かれています。

簡単に言えば、かつては起立直後の血圧を測る検査がなく、何の異常も見つからないとされていたのです。異常がないなら、意欲のなさや怠けといった心の問題だ、という短絡的な結論になりがちです。

しかし、近年は、検査によって、ODの子どもは、確かに自律神経が不安定で苦しんでいるのだ、ということが客観的な検査ではっきりわかるようになってきました。

起立性調節障害(OD)の診断は小児心身医学会ガイドライン集に掲載されている小児起立性調節障害診断・治療ガイドラインに基づき、次の3ステップで行われます。

1.よく似た疾患の除外

まず他のよく似た疾患を除外します。

田中大介先生のやさしくわかる子どもの起立性調節障害には、ODとの鑑別を要する病気として、うつ病、鉄欠乏性貧血、子どもの脳脊髄液減少症、甲状腺機能低下症・亢進症、小児慢性疲労症候群などが挙げられています。(p22,92-94)

もし子どもの脳脊髄液減少症の場合は、通常の医療機関では鑑別できないので注意する必要があります。

ODと脳脊髄液減少症は、思春期に発症した場合、症状が見分けにくいことだけでなく、併発することもあるので、両者の特徴をよく知って、注意深く判断することが必要です。

起立性調節障害(OD)と診断されたのに実は脳脊髄液減少症だったという例については高橋浩一先生がブログに掲載してくださっています。

小児の脳脊髄液減少症 - Dr.高橋浩一のブログ

両者の違いは、簡単に言えば、ODは徐々に発症し、日内変動や季節変動があるのに対し、髄液漏出は突然の発症が多く、絶え間ない頭痛が続き、頭痛以外の聴力や視力の症状も出ることが多いことだとされています。

詳しくは以下の記事や、そこで参考にしている小児・若年者の起立性頭痛と脳脊髄液減少症という本をご覧ください。

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