■だれかを傷つけてしまわないか心配でたまらない
■ミスが怖くて何度メールやレポートを確認しても安心できない
■後悔することが怖くて、将来を心配するあまり動けない
■ばい菌や化学物質、放射性物質が怖くて生活できない
■自分でも変だと思っているのに、やめたいのにやめられない
このような不安・心配・恐怖のため疲れ果ててしまって、日常生活が成り立たなくなることがありますか? それはもしかすると強迫性障害(OCD)かもしれません。
OCDは、従来、几帳面すぎる性格や心の問題だと考えられていましたが、実際には、性格とはあまり関係がない脳の病気だとわかってきました。
OCDの特徴の中には、他の病気と間違えやすい部分もあり、たとえば慢性疲労症候群の一部には強迫性障害と似たメカニズムで病気が悪化している人がいるようですし、統合失調症や化学物質過敏症などとの区別も必要です。
そうした他の病気との関わりも含め、このエントリでは、OCDの原因や治療法について、強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)や、そのほかの専門的な本を参考にまとめてみました。
目次 (お好きなところから読めます)
これはどんな本?
強迫性障害に悩む人の気持ちがわかる本 (こころライブラリーイラスト版)は、全ページに挿入されている二色刷りの図解が分かりやすい、講談社のこころライブラリーイラスト版の一冊です。
発行は2013年2月と、つい先日です。OCDの会顧問を務める、なごやメンタルクリニック院長の原井宏明先生が著しておられます。
原井宏明 医師,【強迫性障害、パニック障害、社交不安障害、うつ病、薬物依存症 】,『パニック障害』,なごやメンタルクリニック-心療内科、精神科(はらいひろあき,) | ドクターズガイド
この記事で特に出典を書かずにページ数を示しているものはこの本からに基いています。また図解やさしくわかる強迫性障害、および、よくわかる 強迫性障害―小さなことが気になって、やめられないあなたへも参考にしています。
強迫性障害(OCD)とは どんな病気?
強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)は「不安とこだわりの病」です。
自分でもコントロールできない、頭に勝手に浮かんでくるイメージに悩まされ、それを振り払おうとして、さまざまな強迫行為(儀式)を繰り返し行うようになり、生活から自由な時間がなくなってしまう、不安障害の一種とされています。
このような勝手に湧き上がるイメージは「強迫観念」と呼ばれます。
■不吉な考えや映像
■失敗への恐怖
■不潔な言葉や空想
など、内容はさまざまです。
OCDの人は、自分でもおかしい、無意味だ、やめたい、と思いながら、強迫行為をやめることができず、むしろどんどん悪化し、時間も体力も奪われるようになっていきます。
また家族にも強迫行為の儀式を手伝ってもらうなど「巻き込み」が生じ、やがて家族全体が病気を作り上げる「共依存」の状態になってしまうことも少なくありません。
OCDは、10代から20代に多く、男女比は同数だそうです。100人に2-3人が抱え、そのうち3割程度がうつ病を併発します。(p34,48)
有名人の中にも強迫性障害の人がおり、たとえばサッカー選手のデビッド・ベッカムは、2006年に自分がOCDで、整然とした並びにこだわってしまう不完全恐怖を抱えていることを告白しています。
また女優のキャメロン・ディアスも、細菌恐怖の強迫性障害に悩まされ、ひたすら掃除に明け暮れた時期があったそうです。
強迫性障害(OCD)の8つのタイプ
OCDは、人によってさまざまな症状が現れ、とても多彩ですが、不安・心配・こだわりなどを特色とする点は共通しています。具体的には、次のようなタイプがあります。
これらさまざまなOCDは、どれか一つのタイプだけを発症するのではなく、たいていは複数のものが重ね合わさっています。
1.不潔恐怖・洗浄強迫
日本人に特に多いOCDは「不潔恐怖・洗浄強迫」です。
汚れを過度に怖がる潔癖症がエスカレートし、いつまでも手を洗い続けたり、入浴を繰り返したりしてしまいます。水道代がとんでもなくかさんでしまうこともあります。
またドアノブやつり革に触れられず、ティッシュで覆ってからつかむこともあります。
「汚れ」には、排泄物、汗、ばい菌、放射性物質、化学物質などが含まれ、人によってさまざまです。(p12-13,16,65)
不潔恐怖の人は、多くの場合、自分の部屋や子どもなどを、汚してはいけない「聖域」と定め、そこへ汚染物質を持ち込まないよう、尋常でない注意を払います。(p36)
1994年のアメリカ映画「恋愛小説家」の主人公は、手を洗うたびに新しい石鹸を使ったり、レストランに使い捨て食器を持って行ったりする不潔恐怖でした。
2004年の映画「アビエイター」でも、不潔恐怖に苦しんだアメリカの富豪、ハワード・ヒューズの半生が描かれています。ハワードは最終的に自室を聖域とし、そこから出られなくなるほどに悪化しました。
2.加害恐怖
日本人に多いタイプとして、ほかに「加害恐怖」もあります。
これは、知らないうちに人を傷つけたかもしれない、だれかを轢いたかもしれない、といった恐怖や不安にさいなまれるタイプです。(p14-15,22-23)
だれかを傷つけてしまうイメージが溢れだして止められず、他の人に「そんなことにはならない」と言ってもらうとすると安心しますが、より想像が過激になり、エスカレートしていきます。
車で人を轢いたかもしれないと考えて何度も車を停めてあたりを確認するなど、確認強迫を合併していることも少なくありません。
不潔恐怖の人の中には、自分が汚れの感染源になり、だれかを病気にしてしまうという加害恐怖を抱いている人もいます。この場合は「疫病恐怖」とも呼ばれます。
3.確認強迫
戸締まり、火の元、忘れ物など、自分のミスによって事故や災害が生じてしまうことを心配する「確認強迫」も日本人に多いと言われています。
ガスの元栓、戸締まりなどを繰り返し確認しますが、何度確認しても心配が尽きず、ヘトヘトにになります。また確認の手順を決め、儀式化することにより、膨大な時間がとられるようになります。(p18-19,40)
過失による災害そのものではなく、過失が引き起こした災害で自分や家族の評判が損なわれることを心配している場合もあります。
たとえば、自分のミスで恥ずかしい思いをすることを恐れて、何度もメールや報告書を見直す確認強迫はその一例です。
確認強迫の場合、家族や友人に、戸締まりの確認などを頼むことが多く、まわりを巻き込んでいきやすいのも特徴の一つです。
4.不道徳強迫
危険なことをしたい、相手が嫌がるようなことを言いたい、犯罪的なことをやりたいという空想や衝動を止めることができず、行為がエスカレートしていくタイプは「不道徳強迫」と呼ばれます。
不道徳強迫は、重大な犯罪や事故につながることもあり、とても危険なタイプです。
中には、神を冒涜するような言葉や行いのイメージが浮かんで、神罰を恐れるようになる「宗教強迫」、性的倒錯行為のイメージが浮かんで振り払えない「性的不道徳強迫」などもあります。
こうしたタイプは強迫観念が浮かんだり、衝動的なことをしたりしたあと、懺悔することを繰り返し、謝ったり告白したりすることで安心感を得ますが、再び同じ行為を繰り返します。
悪いことをだれかに告白して許され、慰められる、という安心感や心地よさがやみつきになるあまり、かえってそれがエスカレートしてしまうのです。
5.縁起強迫
縁起をかつぎ、バチが当たらないよう細心の注意を払う迷信深いタイプは「縁起強迫」と呼ばれます。(p24)
何か不吉な予感がすると、縁起をかつぐための儀式をしないと気が収まらず、自分で決めた手順通りに道を選んだり、縁起のいい時間を待ったり、縁起をかつぐ言葉を繰り返したりします。
縁起強迫の人は、縁起をかつがなければ、神や天といったものからバチがあたる、呪われると考えるので、他のタイプよりも突拍子もない悪い結果を想像しやすく、恐怖の度合いがより強いといわれています。
また、迷信とは関係なくても、ふだんの生活の中で、嫌な人や場所の顔が浮かぶと、それを不吉なこととみなして、打ち消しのために儀式に励む、といった、より日常に溶け込んだ形で表れることもあります。
6.収集癖
いつか使うかもしれない、捨てたらきっと後悔する、二度とめぐりあえないと考えて、すべてをとっておき、捨てられない「収集癖」もOCDの一つです。
物を集めるだけでなく、あらゆるファイルをダウンロードする、記憶のような形のないものも捨てられない。という症状を示すこともあります。(p26)
「機会」を捨てられない、見逃せないタイプの強迫観念もあり、何かを得損なうのでは、と心配するあまり、イベントや誘いにすべて参加しないと気が済まない人もいます。
7.不完全恐怖
数や位置がすべてそろっていないと嫌な感じがして完璧な整然さを求めてしまうタイプは「不完全恐怖」と呼ばれます。前述のデビッド・ベッカムもこの不完全恐怖にあたるでしょう。
完璧を求めて何度も同じことをやりなおしたり、いつまでも気になることにこだわり続けたりして、100%でないと満足できません。
インターネットを調べるとき、気になることや関連することを何から何まで調べないと気が済まない「Q&A強迫」もあります。
他のタイプに合併すると、儀式化した決められた手順の途中で邪魔が入ったと思ったら、最初からやり直すことにもつながります。(p20-21)
OCDの人はどのタイプでも、中途半端を嫌い、完璧を求める不完全恐怖を併せ持っている傾向があります。
8.強迫性緩慢
こうしたさまざまなタイプの不安や恐怖、心配でがんじがらめになり、いろいろ想像しすぎて、行動できない、もたもたして、何もできないまま疲れ果てる状態は「強迫性緩慢」と呼ばれます。(p25)
将来のさまざまな「万が一」のリスクが頭の中に激しく湧き上がってくるため、次の行動や決断に移るのに、ものすごい労力を要します。
決定や選択が遅いため見た目は動作がフリーズしているように見えますが、頭の中では、さまざまなリスクをシミュレーションしていて大混乱しています。
後悔することを恐れるあまり、完璧な結果を求めて、徹底的に様々な可能性を予測して悩みぬくため、非常に疲れて体力を消耗します。
強迫性障害の原因は?
OCDは突然発症する病気ではありません。最初はふと何かが気になった程度だったのが、じわじわと強迫行為が増え、さまざまな症状を連鎖的に抱え込み、重症化していくことが多いそうです。(p27,38-39)
脳は奇跡を起こすによると、脳科学的な原因として脳の3つの部位が関係しているとされています。
脳スキャンによって、強迫観念には脳の三つの部位が関係することがわかっている。
まちがいに気づくのは、前頭葉の一部である眼窩前頭皮質だ。…脳スキャンを見ると、強迫観念が強い人ほど、眼窩前頭皮質が活発なのがわかる。
ここが「まちがったという感情」を発火すると、つぎに帯状回に信号を送る。…「この過ちを正さないと、なにか悪いことが起こるぞ」という不安を生じさせ、心臓や内蔵に信号を送る。
…そして「自動的なギアチェンジ」は、尾状核で起こる。…尾状核が自動的にギアチェンジをしないために、眼窩前頭皮質と帯状回がずっと信号を発しつづけ、まちがったという感情と不安がどんどん強くなってしまう。(p200)
つまり、(1)眼窩(がんか)前頭皮質が「まちがった!」と感じる→(2)帯状回が「やばい!」と反応する→(3)本当はブレーキをかけるべき尾状核がギアチェンジをしてくれない。
という三段階で、強迫性障害(OCDの症状が起こるようです。特に尾状核がブレーキをかけず、スイッチをオフにしてくれない、という部分から、強迫性障害の専門家のジェフリー・シュウォーツは、これを「脳ロック状態」と呼んでいます。
それではなぜ、この回路がうまく働かず、ロックされるようになるのでしょうか。理由には遺伝と環境のさまざまな要素がからんでおり、犯人探しは得策ではないとされています。
強迫性障害の人は、自分の症状の原因が何なのか探すことがありますが、原因探しは、実は強迫性障害の症状を加速させていることが少なくありません。
「原因探し」が原因のことも
たとえば、不潔恐怖の人は、自分の不安の原因はばい菌にあると考えるあまり、より手洗いなどを長時間行うようになり、強迫性障害が悪化します。
はじめは、ちょっとした不安や心配だったのが、「原因探し」をして、それをやっきになって生活から取り除こうとした結果、強迫行為が発生し、負のスパイラルに陥って強迫性障害が完成します。
図解やさしくわかる強迫性障害にはこうあります。
本来、強迫観念、強迫行為には合理的な意図・理由はありません。「ない」から「OCD」と診断するのです。
理由探しや無理矢理なこじつけは病気を正当化することになり、悪化を招きます。
病気の原因を探るタイプのカウンセリングがOCDを悪化させるのはそのためです。(p86)
遺伝よりも環境
OCDには確かに遺伝も関係していて、強迫のタイプも遺伝するとされています。
OCDの人の脳の断層撮影では前頭葉や大脳基底核などの過剰な活動が報告されることもあり、その人が生まれもった、脳の神経伝達物質セロトニンのバランスが関係しているようです。
しかしOCDになりやすい特有の性格はなく、さまざまなストレスをきっかけに負のスパイラルが始まって強迫性障害になってしまうことが多いようです。(p56)
こうした負のスパイラルが生じるメカニズムは十分にわかっていませんが、中には自己免疫システムの過剰反応説を唱える研究者もいるそうです。
いずれにしても、遺伝要因だけで発症することはなく、環境要因の影響が大きいため、環境を変えることで治療することも可能です。
強迫性障害(OCD)に合併しやすい病気
OCDに合併しやすい病気としては、以下のようなものがあります。
■自閉スペクトラム症(ASD)
OCDの原因はおもに環境にあるとはいえ、遺伝的に、こだわりや身体感覚の過敏性を伴う、自閉スペクトラム症(ASD)[アスペルガー症候群]の傾向を持っている人はOCDになるリスクが高いと考えられています。
最近の診断基準であるDSM-5には、強迫性障害に属する溜め込み症(Hoarding Disorder)という疾患カテゴリが設けられていますが、杉山登志郎先生による臨床家のためのDSM-5 虎の巻では、こう解説されています。
かつてドイツ精神医学において、収集癖(Krankhafye Sammelsucht)という概念があった。つまらない物に価値を置き溜め込む習癖で、知的障害、認知症、躁病、妄想性障害、強迫性障害などに関連して生じると考えられていた。
溜め込み症はこの収集癖とは起源を異にする。要は大量消費社会の中で、物を捨てることができずに、不用な物が溜って生活を脅かすまでに深刻化した状態である。
…現在のところ、典型的な病理をAD/HD×虐待的育ち×強迫性と説明されているが、われわれの経験では圧倒的にAD/HD(片付けられない)より、ASD(捨てられない)のほうが目立つのであるが。
自閉症スペクトラムの親が、虐待の既往と強迫性を抱えているときにしばしば溜め込み症の併存があるのである。(p55-56)
自閉スペクトラム症(ASD)は「捨てられない」こだわりの強さと強く関係していることがわかります。
自閉スペクトラム症について詳しくはこちらをご覧ください。





