HSPの人が持つ「差次感受性」―違いに目ざとく脳の可塑性を引き出す力


ある回で、こんな相談が来た。

「私の車のヘッドライトが2つとも同時に壊れたんだ。ディーラーの店に持っていったんだが、電球を2つ交換すればいいだけだって、整備士は言うんだよ。

そんな馬鹿なことがあるか? 電球が2つとも同時に壊れるなんて、偶然にしちゃできすぎだろ?」

それを聞いてトムは即答した。「ああ、そりゃ有名なウェーバー=フェヒナーの法則だ!」。

2つの電球は同時に切れたわけではない―これが答えだ。片方の電球が切れても、それに気づかないまま運転を続けることはよくある。

…電球が2つから1つになっても、差異に気づくとは限らない。しかし、1つからゼロになれば、絶対に気づく。(p60)

ょっとした違いに気づく。

これは多くの人にとってなかなか難しいことです。冒頭に紹介した行動経済学の逆襲のエピソードに出てくる車のヘッドライトの故障にしても、有名な茹でガエルの法則にしても、ちょっとずつ変化していくものは手遅れになるまで気づかないことがよくあります。

変化が小さいとなかなか気づけない現象は、心理学ではウェーバー=フェヒナーの法則として知られています。

しかし、そんな小さな変化を敏感に感じ取り、すぐさま反応したり、違いを深く考えたりできる目ざとい人たちがいます。

そうした人一倍敏感な人たちが持つ力は、ジェイ・ベルスキーとマイケル・ブルースによって「差次感受性」(differential susceptibility)と名づけられました。その名の通り、小さな差に対する感受性の強さを意味しています。

敏感な人たちは、しばしばストレスを抱えやすい、打たれ弱いといったマイナス面ばかりが注目されますが、本当にデメリットばかりなのでしょうか。

この記事では、おもにひといちばい敏感な子と、脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線という本から、敏感な人たちが持つ優れた能力について考えたいと思います。

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これはどんな本?

ひといちばい敏感な子は、以前にも紹介したことのある、HSP(Highly Sensitive Person)、つまり人一倍敏感な人という概念を提唱したエレイン・アーロン先生による本です。

もう一冊の脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線は、最近の記事で何度か取り上げている精神科医ノーマン・ドイジによる、脳の可塑性(かそせい)、つまり粘土のように柔らかな適応力を引き出す方法を取り上げた本です。

この二つの本を読むと、HSPの人たちが持つ敏感さは、脳の柔軟さを引き出すカギであることがわかります。

「炭鉱のカナリア」 危険を知らせるアラーム

わずかな違いに目ざとくあり、変化をすばやく察知する。これはなかなか簡単なことではありません。変化の割合がごく小さい場合は特にそういえます。

たとえば、温室効果ガスによる気候変動は、地球全体という大きな規模から見れば、ほんの小さな変化の積み重ねなので、多くの人は変化を実感しにくく、危機感を欠いています。

これは、冒頭で紹介したウェーバー=フェヒナーの法則そのものです。行動経済学の逆襲には、その法則の意味するところがこう説明されていました。

ウェーバー=フェヒナーの法則とは、丁度可知差異(just-noticeable difference=あることが「変化した」と感じられる最小の差異)は、その変数の大きさに比例する、というものである。

私が1オンス(約28グラム)太ったとしても気がつかないが、フレッシュハーブを買っているときには、2オンスと3オンスの違いがはっきりわかる。(p59)

徐々に暗くなっていってある日突然切れてしまう電球にしても、徐々に温度が上がって、気づいたら逃げ出す間もなく茹で上がってしまうカエルにしても、徐々に起こる小さな変化は気づきにくいものです。

「変化した」と感じられる最小の差異(丁度可知差異)以下の変化がどれだけ起こっても、多くの人は手遅れになるまで気づきません。

そのことを知っていた昔の人たちは、自分たちが気づけない小さな異変による危険を察知できるよう、知恵を活用しました。その工夫の一つが、いわゆる「炭鉱のカナリア」です。

「敏感すぎる自分」を好きになれる本だは、炭鉱のカナリアについてこう説明されています。

ひと昔前、炭鉱においてカナリアは、有毒ガスの早期発見のための警報として使われていました。

炭鉱の中では有毒ガスが発生しやすく、ガスが充満すると爆発が起きます。

カナリアはその有毒ガスがわずかでも発生したら、はげしく反応する敏感な生き物なのです。

そこで、坑夫たちはカナリアを入れた鳥かごをぶら下げて坑内へ入っていき、そしてカナリアに異変があればすぐに外へ脱出していました。(p42)

この説明からわかるとおり、カナリアは、有毒ガスに対する、「変化した」と感じられる最小の差異(丁度可知差異)が、人間よりもはるかに小さな生き物です。ちょっとした変化に気づいて危険を察知できます。

今日においては、火災探知機や、ガス漏れ警報器が、同じような役割を果たしています。わずかな変化に鈍感な人間は、敏感なアラームを作り出すことによって、危険にあらかじめ備えてきました。

しかしながら、炭鉱のカナリアや探知機がない時代、人類はどうやって、危険をあらかじめ察知し、生き延びてきたのでしょうか。

わずかな変化に気づける「差次感受性」

興味深いことに、わたしたち人間の感覚の感受性の強さは一律ではありません。たいていの人は変化に鈍感ですが、中には、違いに目ざとく、丁度可知差異がきめ細やかな人たちがいます。

ちょっとした変化に敏感で、寒暖の差で体調を崩しやすかったり、化学物質や添加物に反応しやすかったり、ささいな言葉に傷つきやすかったりする、ストレスに敏感で不安定な人たちです。

これまで、そうした敏感な人たちは、打たれ弱くもろい性質を持っているとみなされてきました。過敏さは様々な精神疾患のリスク因子であるとしばしば言われています。

しかし、それはどうにも不思議な話です。もし敏感さが、弱さや欠陥であるのなら、いつの時代も、どこの文化にも敏感な人たちがいるのはどうしてでしょうか。

敏感さが人類にとって不都合なものなら、とっくの昔に遺伝的に淘汰されて、いまごろはごくまれな遺伝子の突然変異によってのみ生じるような病気になっていたはずでしょう。

しかし現実にはそうではなく、敏感な人たちは、どの文化でも一定の割合、約5人に1人もの割合で存在しているとされています。

そうなったのは、敏感な人たちが人類社会においていつの時代も必要とされ、ときには社会的な成功も収めて、敏感さをもたらす遺伝子が脈々と受け継がれてきたからにほかなりません。

近年、こうした敏感な人たちは、エレイン・アーロン先生によってHSP(Highly Sensitive Person)と名づけられ、 敏感さのマイナス面ではなく、プラス面、つまり敏感であることのメリットが研究されるようになってきました。

生まれつき敏感な子ども「HSP」とは? 繊細で疲れやすく創造性豊かな人たち
エレイン・N・アーロン博士が提唱した生まれつき「人一倍敏感な人」(HSP)の四つの特徴について説明しています。アスペルガー症候群やADHDと何が違うか、また慢性疲労症候群などの体調

そのメリットのひとつが「差次感受性」、つまり、丁度可知差異がきめ細やかで、わずかな変化にも目ざとく反応できることだといいます。

ひといちばい敏感な子では、エレイン・アーロン先生が、「差次感受性」についてこう説明しています。

しかしながら、本書を書いて以降、ジェイ・ベルスキーとマイケル・ブルースによって、敏感さのマイナス面ばかりに注目するのは間違いだと指摘され、「差次感受性(differential susceptibility)」というテーマが、子どもの成長に関する研究で注目を集めるようになりました。

HSCは周囲から、反応が強いとか、身体面でのストレスを受けやすい、内気、引込み思案、あるいは、抑うつや不安症に関係する遺伝子を持っていると評価されることが多いのですが、これらのいずれの面も、例えば良質の子育てを受けるなど、よい環境に置かれた場合には、他の子よりもプラスに作用します。(p434)

人一倍敏感なHSPの人たちは、単にストレスを受けやすかったり、精神的にもろかったりするわけではなく、良い影響にも、悪い影響にも、目ざとく反応する「差次感受性」を有していたのです。

そして、悪い環境に目ざとく反応してストレスを受けやすい、ということは、裏を返せば、鈍感な人たちよりも、潜在的な危険に気づきやすいということでもあります。

お気づきのとおり、この性質は、鉱夫たちが用意した「炭鉱のカナリア」とよく似ています。先ほどの「敏感すぎる自分」を好きになれる本は続けてこう説明しています。

HSPは炭鉱におけるカナリアのように、地球上で起きている異変や異常をいち早く感じ取り、そして体に変化をきたします。

…人口全体に対して20%ほどいるHSPのおかげで、これまでに人類は危険や異常をいち早く察知することができ、現在まで種を保存できたのかもしれません。(p42)

人類は、危険を察知するためにさまざまな警報装置を考案してきましたが、そうするまでもなく、もともとアラームが存在していたのです。

それこそ、人口の約20%を占めるHSPであり、彼らは高台に立つ見張り番のように、迫り来る危険を真っ先に感じ取り、警告を伝える役割を果たしていたのでした。

今日、HSPの人たちは、さまざまなストレスを抱えて体調を崩しがちです。理解に欠ける周りの人や、鈍感な医師は、それを単なるストレス耐性の弱さや、気の持ちようだとみなすかもしれません。

しかし実際には、HSPの人たちが体調を崩すとき、それは人類社会のひずみや潜在的リスクをいち早く察知して、反応しているということにほかなりません。

それはたとえば、睡眠を軽視して働き続ける24時間社会のひずみ、愛着が薄れて自然な家族の結びつきが消えつつある影響、抗生物質や化学物質を乱用して微生物の多様性が失われつつあるリスクなどかもしれません。

いずれにしても、敏感な人が体調を崩すとき、それは単なる気の持ちようではなく、「有毒ガスがわずかでも発生したら、はげしく反応する」カナリアと同じことが起こっていて、人類の8割を占める鈍感な人が気づいていない社会全体に漂う違和感を感じ取っているのでしょう。

脳の「神経可塑性」を引き出すカギ

では、HSPの人たちの持つメリットは、単に危険を早めに察知できることだけなのでしょうか。

もしそうなら、周りの社会全体には、警報探知機としての利点があるかもしれませんが、本人にとっては、人よりも体調を崩しやすいというデメリットしかないように思えます。

実のところ、「差次感受性」を持つHSPの人たちに備わる主なメリットは、炭鉱のカナリアのように危険をいち早く察知できることではありません。

少し前のところで、エレイン・アーロン先生が「差次感受性」について説明していたとき、どんな特徴があると述べていたか覚えているでしょうか。もう一度ひといちばい敏感な子から引用してみましょう。

HSCは周囲から、反応が強いとか、身体面でのストレスを受けやすい、内気、引込み思案、あるいは、抑うつや不安症に関係する遺伝子を持っていると評価されることが多いのですが、これらのいずれの面も、例えば良質の子育てを受けるなど、よい環境に置かれた場合には、他の子よりもプラスに作用します。(p434)

HSPが炭鉱のカナリアのように危険をいち早く察知するというのは、この説明の前半部分と関係している点です。「反応が強い」とか「身体面でのストレスを受けやすい」ということが、個人としてはデメリットに思えても、人類社会全体から見た場合にはメリットになることがある、という意味にすぎません。

それに対し、「差次感受性」の主なメリットは、後半の説明に関係しています。それは、「よい環境に置かれた場合には、他の子よりもプラスに作用 」するということです。

ひといちばい敏感な子によると「差次感受性」という概念を提唱したマイケル・ブルースは、その特徴について、こう説明しているといいます。

マイケル・ブルースは敏感な子どもに見られる、この「ポジティブな側面」に注目し、これを「敏感力(Vantage Sensitivity)」と名づけました。

…ブルースは「敏感力」を「回復力」と対比させ、回復力のある人は悪い出来事の影響を受けにくいが、おそらくよいことの影響も受けにくい可能性があると述べています。(p434-435)

「差次感受性」または「敏感力」を持つ人は、ストレスの悪い影響を受けやすい反面、良いことの影響もまた受けやすいのです。ストレスに打たれ強い普通の人は、逆にいえば、良い出来事から来る影響にも鈍感だといえます。

このような、悪い出来事の影響を受けやすく、良い出来事の影響もまた受けやすい、というのは、言い方を変えれば、よくも悪くも脳が変化しやすい、ということです。

水を含んだ粘土のように脳が柔軟なので、悪い環境によっても良い環境によっても、それ相応の形へと造り変えられてしまうということです。

このような、脳の柔軟さは、神経可塑性(しんけいかそせい)と呼ばれています。可塑とは、柔軟で変わりやすい柔らかさを意味する言葉です。

普通、わたしたちの脳は、幼少期に最も可塑性に富んでいます。三つ子の魂百までとはよく言われますが、 幼い時期には、良い経験も悪い経験も人一倍取り込んでしまうものです。しかし、大人になるにつれ、脳は変化しにくくなります。

しかし、「差次感受性」を持つ敏感な人たちは、この脳の柔軟さがひときわ強く、子ども時代だけでなく、成長してからも脳が可塑性に富んでいるため、良い出来事からも悪い出来事からも人一倍影響を受けやすく、強く反応してしまうというわけです。

以前の記事で詳しく説明したとおり、HSPの敏感さをもたらすセロトニンやドーパミン関係の遺伝子は、神経学者エレーヌ・フォックスによって「可塑的な遺伝子」とも呼ばれています。

敏感であるとはすなわち、粘土のように柔軟な脳をこねようとする、さまざまな感覚刺激という「指」に対する感受性が強く、他の人よりも脳の可塑性を引き出しやすい、ということなのです。

自分で脳を組み替える

しかしながら、HSPの人たちは、単に、良い環境にも悪い環境にも人一倍影響されやすい受動的な人たちなのでしょうか。

それではまるで、大海原を漂う船のようです。良い風が吹いていれば、順風満帆に航海できますが、ひとたび嵐がくると翻弄されて荒波にもまれます。天候が良いか悪いかは、自分で決めることはできず、ほとんど運任せで、常に波間に揺られて不安定です。

もしも敏感な人たちが、波間に漂うかのような浮き沈みの激しい人生を送るだけなのであれば、それではとても「敏感力」がメリットであるとは言えません。どちらに変化するか、自分では選べず、環境に依存しているからです。

大海原を漂う船に本当に必要なのは、良い天候に恵まれても、悪い環境に見舞われても、うまく船を乗りこなす技術です。環境にただもまれるだけでなく、環境に適応し、対応していく力がなければ、本当の意味で「敏感力」にメリットがあるとはいえません。

実を言えば、「差次感受性」を持つ人たちは、こうした適応力や対応力を育む才能を秘めています。単に、環境によって脳が可塑的に変化しやすいだけでなく、自分の意志で、脳を自ら変化させることもできるのが、優れたHSPの人の特徴なのです。

自分で自分の脳を変化させる、などというと、大言壮語に聞こえてしまいますが、それは「差次感受性」と深いつながりがあります。

脳の可塑性を引き出す最新の治療法の数々を研究したノーマン・ドイジは、脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線の中で、次のように述べています。

感覚刺激が音量を目一杯あげた音楽のように非常に強い場合、相応に変化の度合いが大きくなければ私たちはそのレベルが変わったことに気づかない。

しかし刺激がもともと小さければ、わずかな変化にも気づく。(生理学では、この現象はヴェーバー・ツェヒナーの法則と呼ばれる)

フェルデンクライスはATMのクラスで、ごく小さな動作によって感覚に刺激を与えるよう、生徒に教えていた。小さな刺激は感受性を劇的に向上させ、それはやがて身体の動きの変化へとつながる。(p269)

ここでは、先ほど触れたウェーバー=フェヒナーの法則が引き合いに出されていますが、ノーマン・ドイジが説明するように、小さな刺激に目ざとければ、感受性が劇的に向上します。

小さな刺激に目ざとい、というのは「差次感受性」を持つHSPの人たちの特徴でした。以前の記事で説明したとおり、HSPの人の過敏さとは、圧倒されるような大きな刺激に飲み込まれるわけではなく、ささいな刺激を増幅して感じてしまうということです。

生まれつき小さな刺激に敏感なせいで、わずかな変化にも気づく「差次感受性」が劇的に向上したのが、HSPと呼ばれる人たちなのです。

そして、今 引用した説明によると、そのもう一歩先があります。「小さな刺激は感受性を劇的に向上させ、それはやがて身体の動きの変化へとつながる」と書かれていなかったでしょうか。

感受性の強さは、自分の身体の動きを変化させることに役立ちます。どういうことなのか理解するために、引用文中で少し名前が出てきた、フェルデンクライスという人の説明に耳を傾けてみましょう。

フェルデンクライスは自著『フェルデンクライス身体訓練法―からだからこころをひらく』で、次のように述べている。

「鉄の棒を持っているときには、ハエがそこに止まったのか、そこから飛び立ったのかの違いを感じることはできない。しかし持っているのが羽なら、その違いを感じられるはずだ。

それと同じことは、聴覚、視覚、嗅覚、温度に対する感覚など、あらゆる感覚に当てはまる」(p269)

フェルデンクライスが述べるとおり、小さな刺激に気づく能力は、柔軟さによって成り立っています。「差次感受性に秀でた人は、鉄の棒ではなく羽のように柔らかな脳を持っています。

このモーシェ・フェルデンクライスという人は、一風変わった多彩な人で、ナチスの迫害を逃れた原子物理学者であり、黒帯柔道家であり、そして脳の可塑性を引き出す治療の専門家でした。

彼は科学者として、もともと学問の分野で目ざとい人でしたが、膝の怪我をきっかけに、自分の身体の機能も細かに分析するようになり、身体機能を改善するには、わずかな違いを感じ取る感受性が必要だと気づきました。

フェルデンクライスは、筋緊張に対する運動感覚性の気づきを用い、歩行を細かな動作に分割することによって、何週間ものあいだ、膝の問題にわずらわされずに歩くことができた。

「その動作がいかなるものかより、自分がそれをどのように実行しているのかを観察することに没頭していた」と書く彼は、動作に対する気づきを常に保ち、自分自身にフィードバックを与えて、そのとき実行している機能や脳の機能を変えることについて論じている。(p261)

フェルデンクライスは、自分の身体を客観的に観察し、ひとつの動作を細かなステップに分割して、いったい何が問題なのかを分析しました。そして、障害そのものは治せなくても、うまくいかない部分を特定すれば、そこを補って修正できることに気づきました。

これは、たとえるなら、時計の修理に似ています。何かが壊れた、というだけでは、対策しようがありませんが、どの部品が故障しているのか細かに分析できる人は、壊れた部分を差し替えて修理できます。

「差次感受性」を持つ人たちは、まわりの出来事の小さな違いに敏感なだけでなく、自分の身体や感情といった内面の感覚にも鋭く、細かに分析して問題点に気づくことができます。

そうすると、問題点を特定して組み替えて、故障した機能を補う方法を考案することができます。つまり、脳の機能や運動の機能が壊れたときにも、自分で解決策を見つけ出し、組み替えることができます。

これこそが、脳の可塑性を引き出す力です。

自分の脳を分析する「神経差異化」

感受性の強い人が、自分の心身の問題点を見つけ出し、脳の可塑性を引き出すとき、脳の中でどんなことが生じているのでしょうか。

わたしたちの行動は、身体的なものであれ、精神的なものであれ、脳のニューロンの発火によって生じています。

脳のニューロンには、際立った2つの特徴があります。

まず第一に、同時に発火したニューロンは結びつきを強めること。第二に、別々に発火したニューロンは結びつきを弱めることです。(p33-34)

一つ目の特徴について、ノーマン・ドイジは、こう説明しています。

    『脳は奇跡を起こす』で述べたように、マーゼニックは、脳内の差異化がいかに失われるかを解明し、二つの行為をあまりにも頻繁に同時に実行すると、「脳の罠」が生じると主張した。本来は差異化、すなわち区別されるべき二つの脳マップが融合してしまうのだ。

    彼は、サルの二本の指を縫合して同時に動かさなければならないようにすると、これら二本の指に対応する脳マップが融合することを示した。(p279)

説明の中では、二つの行為をあまりにも頻繁に同時に実行すると、区別されるべき二つの脳マップが融合してしまう、と書かれていました。

これはわたしたちの生活の中で、良くも悪くも頻繁に起こる現象です。

良い面を見れば、わたしたちがさまざまな習慣を身につけられるのはこの機能のおかげです。さまざまなことを同時にこなしているうちに、それがひとまとまりの脳の機能として融合し、ルーチンワークになります。

しかし、これには悪い面もあります。ギャンブルや過食などの悪い習慣が克服しにくいのは、それが日常的な活動と結びついてしまっているからです。

さきほどの引用文で紹介されていた、サルの指を同時に動かし続けると、脳マップが融合して、指を別々に動かせなくなるのも悪い結果の一つです。

これは人間においても、音楽家のフォーカルジストニアという症状に現れることがあります。フォーカルジストニアになると、無関係の指が別の動作につられて動いてしまい、正確な演奏ができなくなります。(p271)

【視聴メモ】リハビリケア新時代 脳からの挑戦2 ニューロリハビリ
NHKハートネットTV「リハビリケア新時代 脳からの挑戦」。第二回は、不治の病フォーカル・ジストニアに対するニューロリハビリについての特集でした。最後に感想を記します。