「からだの記憶」の治療法―解離と慢性疲労のための身体志向のトラウマセラピー


「ほとんどの人は」とラヴィーンが指摘するように、「トラウマを〈精神的な〉問題、さらには〈脳の病気〉だと考えている。しかし、トラウマはからだの中にも生じる何かなのである」。

実際に、トラウマが最初に、真っ先にからだに生じることをピーターは示している。トラウマに関連している精神状態は重要ではあるけれども、二次的なものである。からだから始まり、こころが後に続くのだ、と彼は言う。

したがって、知性や情動さえも関与させる「対話による療法」では十分に深いところまで到達しないのである。(p xii)

れは、身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアのまえがきに寄せられたカナダのサイコセラピスト ガボール・マテの言葉です。

ガボール・マテはわたしにとって重要な気づきをくれた医師でした。彼のことを知ったのは、慢性疲労症候群(CFS)の専門医である三浦一樹先生のおかげです。

外旭川サテライトクリニックの三浦先生は、こちらの記事の中で、慢性疲労の原因を知るための本として、ガボール・マテの身体が「ノー」と言うとき―抑圧された感情の代価を勧めていました。

当時、わたしは愛着と解離について学びはじめたばかりでしたが、ガボール・マテは、精神神経免疫学の知見を通して、これまで「こころ」の問題として知られていたものが、慢性疲労や慢性疼痛、自己免疫疾患などの「からだ」の症状として現れる理由を解き明かしてくれました。

この本の中で、ガボール・マテは、その原因を失感情症や解離と結びつけています。これまで愛着や解離を心理的な反応だと思いこんでいたわたしに、生物学的な観点を与えてくれたすばらしい本です。(p363)

そのガボール・マテが、解離と不動状態、そして慢性疲労が「からだの記憶」によってもたらされる生物学的現象であることを説明したピーター・ラヴィーンの身体に閉じ込められたトラウマのまえがきを書いていたことには、運命的な邂逅を感じます。

ガボール・マテは、「トラウマに関連している精神状態は重要ではあるけれども、二次的なものである。からだから始まり、こころが後に続くのだ」というラヴィーンの意見に賛同しています。

それゆえ、『知性や情動さえも関与させる「対話による療法」では十分に深いところまで到達しない』と言います。身体に刻まれたトラウマを治療するには、カウンセリングのような心理療法ではなく、「からだ」を対象とした身体志向の治療が必要なのです。

身体志向のトラウマ・セラピーは、あまり馴染みがないかもしれませんが、その分野に通じているセラピストは日本国内でも少数ながら見つけることができます。

たとえば、ラヴィーンが考案したソマティック・エクスペリエンス(SE)をはじめ、近年話題になっているマインドフルネス、ハコミ・メソッドボディマインド・センタリング(BMC)、アレクサンダー・テクニークなど、身体志向のトラウマセラビーにはさまざまなものがあります。

この記事では、一つずつ詳しく取り上げる代わりに、その根底に共通する考え方に焦点を当て、トラウマ障害に関わる「からだの記憶」とは何か、身体志向のセラピーで大事なポイントは何か、という点を見ていきたいと思います。

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これはどんな本?

この記事を書くきっかけになったのは、最近繰り返し紹介している本、神経生理学者ピーター・A・ラヴィーンによる身体に閉じ込められたトラウマ:ソマティック・エクスペリエンシングによる最新のトラウマ・ケアです。

冒頭でも書いたように、わたしが強く影響を受けたガボール・マテや、ヴァン・デア・コークといった専門家たちに支持されている、非常に内容の濃い一冊です。

正直言って、内容がかなり込み入っているので万人にはお勧めしませんが(前著心と身体をつなぐトラウマ・セラピーのほうが易しい内容です)、多くの本を読んできた上でこの本に出会ったわたしにとっては、あらゆる分野の知識がつながっていく「賢者の石」のように、書かれていることすべてが刺激的でした。

この記事は、わたしが探し求めていた宝の地図ともいえるこの本を参考にしつつ、このブログのひとつの区切りのつもりで書いてみました。

本文中でも繰り返し引き合いに出しますが、この記事を読むにあたり、以前のいくつかの記事に目を通していただけると、「からだの記憶」をめぐる科学的な根拠がより理解しやすくなると思います。

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スペリーとガザニガの分離脳研究はわたしたちには内なる複数の自己からなる社会があることを浮きらかにしました。「内的家族システム」(IFS)というキーワードから、そのことが愛着障害やさ