ADHDの「片付けられない」とアスペルガーの「捨てられない」の違い―脳の発達は視覚によって導かれる


溜め込み障害は強迫関連障害に属し、DSM-5で新たに登場した項目である。

これは子どもにないではないが、一般的には成人の問題である。それをあえてなぜ取り上げるのかというと、われわれ児童精神科医が遭遇することが稀ではないからである。

…われわれの経験では圧倒的にAD/HD(片付けられない)よりASD(捨てられない)のほうが目立つのであるが。(p55-56)

れは、臨床家のためのDSM-5 虎の巻という本で、児童精神科医の杉山登志郎が書いておられる「溜め込み障害」(Hoarding Disorder)についての一文です。

発達障害かどうかにかかわらず、部屋が散らかって片付けられないことに悩んでいる人は多いでしょう。本人よりも家族が頭を抱えることが多いかもしれません。

片付けられないことそれ自体は、病気や障害というほどではありませんが、ときどきメディアで報道されるゴミ屋敷のような、明らかに健康に支障を来たし、近隣の迷惑にもなるような状態は、医療の対象になるれっきとした病気です。

冒頭の説明が示すとおり、部屋が散らかるといっても、その原因には大きく分けて、どうやら2通りのタイプがあるようです。

きれい好きな人から見れば、概して同じに思えるかもしれませんが、かたやADHD(注意欠如多動症)に多い「片付けられない」と、かたやアスペルガー(自閉スペクトラム症:ASD)に多い「捨てられない」は、じつは別物なのです。

このエントリでは、「片付けられない」と「捨てられない」はどう違うのか。なぜそうなってしまうのか、という点を考えましょう。

そして、さらに視覚はよみがえる 三次元のクオリア (筑摩選書)などの本を参考に、両眼視機能視覚性ワーキングメモリといった見る力が、発達障害のさまざまな個性が形作られていく上で、意外なほど大きな役割を果たしているということを分析してみたいと思います。

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これはどんな本?

今回の記事では、脳の発達と視覚に関する様々な本を参考にしていますが、その中でも特に拠り所としたのは、視覚はよみがえる 三次元のクオリア (筑摩選書)という一冊です。

この本は斜視のために立体視ができなかった神経生物学者スーザン・バリーが、自分に立体視の能力が欠けていることに気づき、50代になってからの視能療法を通して、生まれてはじめて立体視を経験するまでの道のりをつづった自伝的な物語です。

斜視のせいで臨界期までに立体視を獲得できなかった人は、大人になってから立体視を獲得するのは不可能である、という通説に反して、少しでも両眼性ニューロンが存在していれば、脳の可塑性を引き出すことで立体視を獲得できる、ということが数々の論拠や実体験によって論証されています。

彼女の感動的な体験談は、脳神経科医オリヴァー・サックスの心の視力―脳神経科医と失われた知覚の世界や、精神科医ノーマン・ドイジの脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線、さらには国内の両眼視の専門家藤田一郎の脳がつくる3D世界:立体視のなぞとしくみ (DOJIN選書)の中でも紹介されていて、脳と視覚のつながりを知りたい人にとっては必読の本となっています。

「片付けられない」と「捨てられない」

「散らかってるから片付けなさい!」

片付けるのが苦手な人たちは、子どものときから、親や先生にさんざんそう言われて育ってきたことでしょう。

近年、その原因として、よく聞かれるようになったのは、もちろん発達障害です。発達障害のうち、特によく知られているのはADHDとアスペルガーですが、それらは両方とも、物があふれて雑然とする問題を抱えることがあります。

まず、ADHD(注意欠如多動症)という発達障害が知られるようになったきっかけには、サリ・ソルデンの片づけられない女たちという本の存在がありました。

マスメディアで汚部屋やゴミ屋敷の問題が知られるようになるとともに、片付けられない=ADHDという認識は、強く印象づけられたのではないかと思います。

一方で、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症:ASD)は、ひたすらマニアックに特定の分野のものを集めるオタクと呼ばれる人たちの代名詞として知られるようになりました。

普通の人は興味を持たず捨ててしまうような こまごまとしたものまで、山のように収集しているといったイメージです。

もちろん、こうしたステレオタイプが、ADHDやASDの人すべてに当てはまるわけではありませんが、どちらも一般の人たち(定型発達者)から見て、散らかった部屋に住んでいるように思われやすいのは確かでしょう。

ADHDやASDは、同じ「発達障害」、同じ「片付けられない」として一緒くたにされがちですが、冒頭で杉山登志郎先生が述べていたように、散らかる原因は別のものです。

ADHDの人の部屋が散らかってしまうのは「片付けられない」ためであり、持ち前の新しい物好きや衝動性によって買い込んでしまった大量の物を管理できなくなって、どこからどう手を付けたら片付けられるのかわからず、途方に暮れてしまいます。

一念発起して片付けようとしても、段取り力がなく、押入れを掘り返しただけで余計に散らかってしまったり、集中力が続かずに、いつのまにか別のことをしていたりして、お手上げ状態になってしまいます。

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他方、ASDの人の場合、「片付けられない」と言われるのは心外かもしれません。集めに集めたコレクションの良さがわからない人からすれば散らかっているように見えるのかもしれませんが、本人からすれば、それぞれがあるべきところへ収まっていて片付いてはいるのです。

どちらかというと、きちんと整理整頓して片付けることについては、ASDの人たちは杓子定規なほど厳格で、だれかが勝手に持ち物の位置を動かしたり、秩序を乱したりするのに我慢ならないこともあります。

ASDの人たちの場合、問題はものを捨てられず際限なくマニアックに溜め込んでしまうこと、つまり、こだわりが強すぎて「捨てられない」ことにあるのであって、決して「片付けられない」わけではないのです。

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