脳卒中から生還した科学者が語る「奇跡の脳」―右脳と左脳が織りなす不思議な世界

鏡の中に見える反転した自分の姿に向かって、わたしは嘆願しました。

(おぼえていてね、あなたが体験していることをぜんぶ、どうか、おぼえていてね!

こののうそっちゅうで、認知力がこわれていくことで、まったくあたらしい発見ができるように―) (p48)

しも、刻一刻と壊れていく自分をリアルタイムで体験することになったら、あなたはどう感じるでしょうか。

一分一秒と時経つうちに、ひとつ、またひとつと能力が失われていき、体を動かす力も、言葉を話す能力も、見たものを把握する理解力も、次々に削がれ失われていくのを、ただ見ているしかない状況に置かれたとしたら。

科学者のジル・ボルト・テイラー博士が置かれたのはまさにそのような状況でした。37歳のある朝、彼女は朝起きると脳卒中になっていて、わずか数時間のうちに自分の能力が失われていくのを見つめることになったのです。

普通の人ならば、わけもわからずただパニックになるような異常な事態ですが、冷静な科学者たる彼女は違いました。

これまでの知識を総動員して、自分に何が起きているのか把握しました。そして働かない体と思考を駆使してなんとか助けを求め、壊れゆく思考の中で、冒頭の言葉を思いに刻みました。

「こののうそっちゅうで、認知力がこわれていくことで、まったくあたらしい発見ができるように―」。

この記事では、博士の劇的な体験記奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)をもとに興味深く思った点をまとめ、右脳と左脳の機能の違いや、自閉スペクトラム症(ASD)における右脳の役割などを考察してみました。

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アンプリジェンが世界初のCFSの治療薬としてアルゼンチンで販売承認

ねてから何度も話題になっていた、RNA製剤アンプリジェン(Ampligen)が、アルゼンチンで筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の治療薬として承認されたというニュースがありました。

ヘミスフェリックス・バイオファーマが大きな進展を発表:重度の筋痛性脳脊髄炎(ME)および慢性疲労症候群(CFS)の治療薬Rintatolimod(米国商品名:Ampligen®)のアルゼンチンにおける販売承認を取得 NYSE:HEB

ヘミスフェリックス・バイオファーマ株式会社…は 重度の筋痛性脳脊髄炎(ME)および慢性疲労症候群(CFS)の治療薬として、Rintatolimod(米国商品名:Ampligen®)のアルゼンチン国内での販売承認を取得したと発表した。

販売承認にあたり、800例を超える慢性疲労症候群の患者を対象に、1年以上アンプリジェンを使用して臨床試験が行われたそうです。そのうち100例以上が重度のCFSだと説明されています。

時事通信や日経バイオテクによれば、この薬はME/CFSに正式に適応が承認された世界初の薬だそうです。

米ヘミスフェリックス、脳脊髄炎治療薬のアルゼンチン販売認可〔GNW〕:時事ドットコム

MEおよびCFSを適応として販売が承認された世界初の医薬品と考えられる。

米Hemispherx社、RNA医薬がアルゼンチンで承認取得:日経バイオテクONLINE

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)を適応とする治療薬では世界初であり、唯一である。

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見捨てられ不安にとらわれる「不安型愛着スタイル」―完璧主義,強迫行為,パニックなどの背後にあるもの

境界性パーソナリティ障害の場合、うつや不安障害、睡眠障害といった問題だけでなく、ADHD(注意欠如・多動性障害)や依存症、摂食障害、解離性障害といった診断がつくことも珍しくありません。

診断名ばかりが、ずらっと並ぶわけです。その治療を別々の医者から受けているというケースもあります。

…結局、大本で何が起きているのかということをトータルでみる視点が必要なのです。そして、それを可能にしたのが、先に述べた愛着障害という視点です。(p89)

しい気分の波があり、ささいな言動に傷つきパニックになり、いつも頑張りすぎてしまう。激しい嵐のさなかで荒れ狂う波に揺られる船のような日常生活を送っている人たち。

そのような人たちは、これまで、病院ごとにさまざまな診断名を下されることがありました。たとえば、ADHD、全般性不安障害、強迫性障害、パニック障害、うつ病、双極性障害などです。

しかし決してそれらの症状は別々のものではなく、複数の病気が一人の人に相次いで噴出しているわけでもありません。

冒頭で引用したのは、精神科医の岡田尊司先生の、絆の病: 境界性パーソナリティ障害の克服 (ポプラ新書) という本の説明です。

これまでの医療では「木を見て森を見ず」「症状を見て人を見ず」といった傾向のため、表面に表れるさまざまな症状に一つずつ名前をつけて、結局何なのかわからない、ということが少なくありませんでした。

しかし愛着障害という概念の登場によって、枝葉のような症状ではなく、おおもとの幹そのものという、たった一つの原因を理解し、本当に必要な治療を施すことが可能になってきたといいます。

完璧主義や、強迫行為、絶え間ない不安やパニック症状に悩まされている人に必要なのは、愛着障害、つまり「絆の病」というただ一つのキーワードから、表面的な症状ではなく、自分という一人の人間全体を見つめなおすことです。

「絆の病」とは何でしょうか。なぜ「絆の病」について知ると、さまざまな症状の原因が理解できるのでしょうか。治療に役立つ、どのようなアプローチがあるのでしょうか。

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どうすれば わかりやすい文章を書けるのか? 意味不明になる5つの原因とその解決策

かりやすく読みやすい文章を書く。

それは、もの書きにとって永遠の課題です。わたし自身、そのことでいつも悩んでいますし、まだまだ努力不足だと感じています。

特に、わたしたちは誰でも、扱う話題が専門的になるにつれ、意味がわからない文章を書いてしまいがちな傾向を持っています。

行動経済学者ダン・アリエリーの本、アリエリー教授の人生相談室──行動経済学で解決する100の不合理では、読者から寄せられたこんな質問が紹介されています。

親愛なるダンへ

この間ある有名な学者の講義を聞いたんですが、彼が専門分野のごく基本的な概念さえうまく伝えられないことに驚き、不思議に思いました。

あんなに高名な専門家が、あそこまで下手な説明しかできなくていいんですか?

それが学者の条件とでもいうんでしょうか?

レイチェルより

きっとだれでも、この女性と同じような経験をしたことがあるでしょう。

わたしはよく、心理学や精神医学関係のウェブサイトや本を読みますが、とても深い知識があることはわかるのに、正直いって意味が全然頭に入ってこない文章をしばしば見かけます。

そのたびに感じるのは、わたしが書いている文章も、読者にそのように思われているのだろうか、という危機感です。実際、読んだ人から、「わかりにくい」という感想を、じかに聞くことも時々あります。

わたしの場合もそうですが、できるかぎり わかりやすく書きたいと思っているものの、自分では わかりにくさに気づかない。それが、もの書きにとって最大の問題なのです。

この記事では、そうした自分への自戒の気持ちも込めて、わかりやすい文章を書くにはどうすればいいかを考えてみたいと思います。

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原因不明で診断がつかない難病を特定できる遺伝子解析プロジェクト「未診断疾患イニシアチブ」(IRUD)とは?

ても辛い多彩な症状に苦しめられるのに、従来の医学的検査で診断がつかず、「気のせい」「心の問題」「原因不明」などと言われてしまう。

このブログで扱っている慢性疲労症候群(CFS)などの病気の患者は、そうした理不尽な経験をしやすいものです。

しかし、そうした従来の医学検査では異常が見つからず、診断がつかない患者の病気を、網羅的な遺伝子解析によって特定しようとする試みが、慶応義塾大学医学部 臨床遺伝学センターによって、昨年開始されたそうです。

そのプロジェクトの名前は「未診断疾患イニシアチブ」IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)と呼ばれています。 IRUDは「アイラッド」と読むようです。

わたしも、これまでこの取り組みの存在を知らなかったのですが、今日の毎日新聞のニュースで、驚くべき成果が報道されていたので関心を持ちました。

それによると、幼いころから発達の遅れや低血糖、便秘など多くの症状に苦しめられてきた男性が、IRUDにより、デサント−シナウイ症候群という、世界で8人しか見つかっていない希少疾患だと特定できたとのことでした。

クローズアップ2016:原因不明の病、特定に道筋 - 毎日新聞 はてなブックマーク - クローズアップ2016:原因不明の病、特定に道筋 - 毎日新聞 

診断つかない疾患 原因遺伝子特定へ16機関タッグ  :日本経済新聞

診断つかない病気の専門外来を新設 慶應大病院│NHKニュース (インターネット・アーカイブによる履歴)

病名判明、「安心」の声、拠点の慶応大病院 子どもの原因不明の病気で遺伝子解析│朝日新聞 (インターネット・・アーカイブによる履歴)

IRUDとは具体的にいって、どのような取り組みで、どのような成果を挙げているのでしょうか。過去の関連ニュースの内容をまとめてみました。

また、このブログの視点として、しばしば原因不明の症状を持つ患者が行きつく、慢性疲労症候群(CFS)という診断名の役割と問題点を指摘したいと思います。

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