なぜアスペルガーの人は尊大で怒りやすく見えるのか―人格障害との違い

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スペルガー症候群の人が尊大に見えたり、突発的に激しく怒ったりする理由について、解離などに詳しい精神科医の岡野憲一郎先生がブログで解説しておられました。興味深かったので紹介します。

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天才の秘密 アスペルガー症候群と芸術的独創性のような本で、過去のアスペルガーの天才たちについて読むと、かなりの頻度で「自己愛傾向」や、「聞く耳を持たない頑固さ」、そして「意見されたときに激しく怒る」といった傾向について書かれています。

たとえばアスペルガーだったと思われる作曲家のエリック・サティは、最も質の高い生き方を目指す妥協のない人で、些細なことにもカッとなり、激怒したと言われています。(p222)

こうした特徴のため、アスペルガーの人たちは、ときに「尊大だ」「ナルシストだ」と言われますが、その理由について考察されています。

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1.独特の世界観

それ以来私が出会ったアスペルガー傾向のある人たちは、ある特徴を持っていた。

彼らはある種独特の世界観を有していて、そこから物事を見る。そこには一種の達観があり、「人はこのようなものだ」という開き直りがある。

でもそれが一方的であり、物事の一面しか見えていないという印象を与える。

周囲はそれを伝えようとするのだが、彼らは動じない。むしろ「どうしてこんなこともわからないのか?」という視線を一般人に向ける。

それが時にはひどく傲慢な、あるいは自己愛的な印象を与えるのである。

アスペルガーの人たちは、定型発達者とは違う視点から世界を見て育っていると言われます。それは彼らの認知特性が、定型発達者とは異なるせいです。情報の入力端子が異なるので、頭の中に構築される世界観もまた定型発達者とは違うのです。

自閉症スペクトラム(ASD)の人の見る世界が定型発達者と違う、ということについては、近年研究が進んでいて、その様子を定型発達者にも体験してもらおうという取り組みもあります。

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しかし、単に視覚だけが異なっているわけではなく、頭の使い方そのものが違うので、アスペルガーの人たちは、定型発達者がまったく思いもよらない角度から世の中を見ていることがよくあります。

スピノザやウィトゲンシュタインは、アスペルガーの哲学者と言われますが、彼らが独自の哲学世界を考えだしたのは、生まれつきのアスペルガー独特の世界観によると思います。

岡野先生は、アスペルガーの世界観について、一種の達観、または開き直りがあるとしています。そのあたりは、アスペルガーの人たちが頑固で、融通がきかないと言われる一因かもしれません。

わたしの友人のアスペルガーの人も、一種の信念みたいなものを持っていて、別の見方を論理的に説明しようとしても、聞く耳を持ってくれないことがよくあります。論理の組み立て方が異なるのかもしれません。

たとえば、定型発達者はトップダウンの思考で、周りの人の感情など、全体のバランスを見ながら臨機応変に論理を組み立てるのに対し、アスペルガーの人はボトムアップの思考で、情報の正確性を重視して一貫性のある論理を組み立てるようです。

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アスペルガー症候群の人の頑固さや一貫性は長所にもなり、たとえば自閉症とサヴァンな人たち -自閉症にみられるさまざまな現象に関する考察‐を読むと江戸時代などの文献では、自分を大切にしてくれた主君に篤い忠義を示したアスペルガー症候群らしき人の話が出てくるそうです。

2.秀でた特殊能力

アスペルガーの人たちは、実際に自己愛を満足させてもおかしくない事情がある場合がある。

それは彼らがしばしば知的なレベルが高く、学校で好成績を修めたり、趣味の世界で傑出していたり、芸術等で特異な才能を発揮したりするからである。

すでに考えたように、アスペルガーの人たちは、独特の世界観を持っていて、それを理解しようとしない人たちに「そんなこともわからないのか」という目を向けることがあのます。

しかしそれは決して間違っているというわけではなく、実際にアスペルガーの人のほうが先見性のある考えを持っていることもよくあります。

アスペルガーの人たちは、既存の概念を嫌い、独自のやり方で、新しい分野を開拓すると言われています。自分の編み出した方法で学習し、新しい道を切り開いてきたという自負心が、アスペルガーの人たちの自尊心を高めるのかもしれません。

しかし同時に、多くの人が実践してきた伝統的なやり方を理解できないために、ときに見下すような態度をとってしまうのかもしれません。そして、理解できないために脳の処理の限界を超えると、ときに突発的な怒りが生じることもあるでしょう。

天才と発達障害 映像思考のガウディと相貌失認のルイス・キャロル (こころライブラリー)によると、ガウディが怒りっぽかったことについて、思考の同時処理によって、人よりも頭の回転が早かったため、こんな簡単なこともわからないのか、といういらだちが背景にあったとされています。(p129)

3.空気が読めない

しかしよく言われるアスペルガー者たちの「空気が読めない」という現象とはいったいなんだろうか?

私の考えでは、「空気」とは結局弱肉強食のこの世界で生き延びるための一番大切な感覚、つまり自分はどの序列にいて、誰に対して取り入り、誰には高圧的に出ていいかという、基本中の基本の感覚に対する感度が低いということだ。

「空気が読めない」とは、とりもなおさず、「相手に取り入ることをしない」ということです。こうやったら相手に気に入られるだろう、と考えて行動することがありません。

そうすると、自己中心的で、自分大好き人間だと誤解されてしまうことになります。自分さえ良ければ、他人のことなどどうでもいい、という印象を与えてしまうからです。

実際には、アスペルガーの人に繊細さや思いやりが欠けている、ということはないのですが、それらを社会通念的に普通とみなされているようなやり方で示すことができないので、ナルシストの烙印を押されることになります。

すでに述べたガウディは、怒りやすかったものの、さりとて独裁的ではなく、助手や職人を信頼し、自由な活躍の場を与えたと言われています。

別の本では、「空気が読めない」というのは、全体ではなく細部に注目する視点の表れだとされていました。

多くの人は全体を見るので、さまざまな人の感情に配慮する、つまり言い方を変えれば「他人に取り入り」ますが、アスペルガーの人は場全体を見ることなく、細部だけに注目し、独自の路線をつき進むため、自己中心的に見えてしまいます。

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4.孤高の人

アスペルガー症候群を有する人の中には、特殊能力を有するわけではなく、特に傲慢に他人に接しているつもりもなく、自分なりに一生懸命生きていても、自己愛的に見えてしまう場合がある。

アスペルガーの人たちは、いわゆる「浮いている」ことがあります。集団の中にいても、周囲から明らかに違っていて、そのせいで、周りの人は近寄りがたく感じてしまいます。

アスペルガーの本人は至って普通に生活していて、何も気取ったり偉ぶったりもしていないのに、周りが離れていってしまうのです。

岡野先生は、有名大学の数学科のI くんの例を出していますが、I くんとしては普通に生活していたのに、もう少しで彼女から誤解されて振られるところでした。

ちなみにアスペルガーの人が孤立するからといって、いじめられっ子になるかと言えば、必ずしもそうではないようです。

前出の「ぼくはアスペルガー症候群」の著者Gさんは、小学生のときはいじめにあうこともなく、むしろクラスのリーダー的な存在であったという。

発達障害イコールいじめられっこ、という図式が成り立たないことは実は少なくないのである。

むしろ能力が優れていて、頭の回転も速いなら、周囲に迎合しない孤高のリーダーとして、カリスマ的存在になる場合も多いのではないでしょうか。

実際、世界的企業のトップには、そんなカリスマ的な発達でこぼこ系の人がよく見られます。

サイコパスとの違い

自己中心的で、他の人を顧みないというと、サイコパス(反社会性パーソナリティ障害とほぼ同義と言われるが、原因が違うという意見もある)を想像しがちです。

しかしサイコパスは、裏表という二面性があるのに対し、アスペルガーの人は基本的に純粋で、素をさらけ出しすぎているほどだと言われています。

またサイコパスは自分に対する愛情もないので、危険なことを平気でするのに対し、アスペルガーの人は、自己愛を持っています。

サイコパスについて詳しくはこちらをご覧ください。

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自己愛性パーソナリティ障害との違い

アスペルガーの自己愛は、尊大さを特徴とする自己愛性パーソナリティ障害とも比較されるかもしれません。

確かに自己愛が肥大すれば、自己愛性パーソナリティ障害のようになってしまう人もいそうですが、一般的には、アスペルガーと異なり、自己愛性パーソナリティ障害は子ども時代の親との関係(愛着障害)が原因だと言われています。

そして、自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の理想のイメージを保つためなら、周囲に平気で嘘をつきます。アスペルガーの人たちが自分を飾らないのとは正反対です。

天才の秘密 アスペルガー症候群と芸術的独創性によるとこうあります。

アスペルガー症候群の人は、自己愛性人格障害と誤診されることも珍しくないように思われる。(p62)

この言葉が示すように、それは「誤診」です。

自己愛性パーソナリティ障害代理症―人をモノ扱いする夫を持つ妻と子どもの苦痛
さまざまなパーソナリティ障害を説明している本、「パーソナリティ障害とは何か」から、自己愛性パーソナリティ障害の特徴や、その周りの人が抱え込む苦痛への対処法について解説しています。

もっとも、アスペルガー症候群の人が、子ども時代に不安定な愛着を抱え、よりいっそう誇大な自己を持つようになった場合、アスペルガー症候群と自己愛性パーソナリティ障害のどちらともみなせる傾向を示すかもしれません。

シゾイド(スキソイド)パーソナリティ障害との違い

また、孤立する人というと、シゾイド(スキゾイド)パーソナリティ障害/統合失調質パーソナリティ障害ともよく似ています。

実際、過去にシゾイドと診断されていた人の中には、アスペルガー症候群の人がかなりいて、たとえば難治性のシゾイドの摂食障害は、アスペルガー症候群が背景にあると杉山登志郎先生が発達障害のいま (講談社現代新書)で書いていました。

しかし岡野先生によると、アスペルガーの人は、孤立しつつも、だれかに愛されたい、友だちを作りたいという思いを抱いているのに対し、シゾイドの人は、そもそも孤独が苦にならないのではないか、と述べています。

もちろん彼らは苦しさを抱え、満たされない愛情欲求を持つことがある。

彼らだって人とわいわい騒いだり、友達や恋人と楽しい時を過ごしたい。しかし人といてどうしようもない壁を感じる。

自分を異質と感じ、それ以上に周囲が自分を異質に感じていると感じる。

岡野先生は別の記事で、アスペルガーの人についての文脈でこう述べます。

「世の中でもっとも人から理解しがたい考えを持っている人こそ、人から理解してもらえることを強く希求しているということになる」

そういえば、アスペルガー症候群のダニエル・タメットも、「アスペルガー症候群の人たちは友だちをつくりたいと心から思っているが、それがとても難しいとわかっている」と述べていましたね。

アスペルガーの人たちは、定型発達者に囲まれた学校や職場では孤立するものの、同好の士や、アスペルガー同士の交流では、とてもくつろげると言われています。

例えば、歴史上のアスペルガーの有名人たちの中にも、同時代の周囲の人たちとは相容れなかったものの、過去のアスペルガーの先人のことを、それと知らずに敬愛していた人が大勢います。

天才の秘密 アスペルガー症候群と芸術的独創性によると、たとえばエリック・サティとルイス・キャロルはアンデルセンの影響を受けていたようですし、ジョージ・オーウェルはウィリアム・バトラー・イェイツに憧れていました。アインシュタインはスピノザの神に親近感を持ちました。彼らはそれと知らずにアスペルガーの先人たちに惹かれていたのです。(p49,132,232)

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自閉症スペクトラム障害の人は、同じ特徴をもつ人に対して共感できることがわかったそうです。

しかし、アスペルガー症候群とシゾイドパーソナリティ障害が無関係な別物であるかというと、決してそうではないように思えます。

おそらくは、アスペルガー症候群の人が、感情に乏しい回避型の愛着スタイルを身に着けた場合、孤独を好む、シゾイドパーソナリティへと発展する可能性が高いのではないかと思います。

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アスペルガー症候群と愛着障害の重ね着という視点

ここまで考えてきたところによると、アスペルガーの人がナルシストに見られやすいのにはさまざまな独特の理由があり、パーソナリティ障害とは異なる、ということになります。

しかしながら、すでに少し触れたように、アスペルガー症候群と各種パーソナリティ障害は別物であると即断するのではなく、愛着障害との関わりを考慮する必要があると感じます。

定型発達者が幼少期の養育によるさまざまな愛着スタイルによって、さまざまな性質のパーソナリティ障害を抱えるように、アスペルガー症候群の人もまた、さまざまな愛着スタイルによって、異なる性格特性へと発達していきます。

個人的な意見としては、アスペルガー症候群の3つのタイプ「積極奇異型」「受動型」「孤立型」は愛着スタイルとある程度関係しているのではないかと思います。

まず「積極奇異型」はアスペルガー症候群と不安型愛着スタイルの重ね着であり、空気が読めない上に、多動性や衝動的な行動を特徴とする、とみなせます。このタイプの人は統合失調型(スキゾタイバル)パーソナリティとみなされることもあるかもしれません。

アスペルガーとADHDの併発と言われる人たちの多くは、アスペルガーと不安型愛着スタイルの合併ではないかと感じます。

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次に「受動型」は、アスペルガー症候群と、混乱型愛着スタイルの重ね着であり、人の気持ちがわからない中でも、人に合わせようとして、気持ちを過剰に読み取り、疲れ果てているのではないかと思います。

このタイプの人は、回避性パーソナリティとみなされることもあるでしょう。

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そして最後に「孤立型」はアスペルガー症候群と回避型愛着スタイルの重ね着であり、共感性が非常にとぼしく、人とのつながりに価値を見いだせない、シゾイドパーソナリティに発展するのではないかと思います。

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もちろん、異論もあるでしょうし、人の特性を分類することには限界があります。結局のところ、定型発達者も、アスペルガー症候群の人も、単純なステレオタイプに当てはめることはできず、育ちや環境によってさまざまな性格特性を身につけるからです。

とはいえ、この岡野先生の記事は、とても示唆に富む面白いものだったので、ぜひこの記事を読むだけでなく、冒頭にリンクを載せた、岡野先生のブログの元情報を参照してください。

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