光や音の「感覚過敏」を科学する時が来た―線維筋痛症や発達障害,トラウマなどに伴う見えない障害


 弱い光の下でも眼痛、頭痛をはじめ全身の症状が出現するので、二重にサングラスを装用し、帽子を深くかぶり、中には、光を通しにくい布地を顔に何重にも巻いたり、袋を 被 ったりと完全防御の状態でしか通院できない症例もあります。

こうした重度の症例は、私の外来には少なくとも10例は存在し、こうした病態は決して珍しいことではないことがわかったのです。

 その原因はさまざまでも、この状態を「眼球使用困難症」と呼びたいと考えています。

おそらく、大半の症例は、無理やり測れば視力などは正常に記録されるでしょうが、日常生活の上では目を当たり前に使用することは困難ですから、明確な視覚障害者です。

れは、今年2月9日付でヨミドクターに載せられた、井上眼科医院の若倉雅登先生による記事目がいいのに使えない「眼球使用困難症」の方、患者友の会に集合を! : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞) からの引用です。

井上先生は、このコラムの中で、極めて明るさに敏感で、まぶしさに耐えられず、ときに痛みも感じるような人たちの症状を、便宜上「眼球使用困難症候群」と名付けて、該当する人たちからの連絡を募っています。

その後、この9月に入って、歌手のレディー・ガガが線維筋痛症を公表したことをきっかけに、再度記事を挙げておられ、線維筋痛症や慢性疲労症候群、化学物質過敏症などの関係を示唆しておられました。

線維筋痛症と「眩しさ」 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

感覚過敏は、検査に異常として出ないため、「心の問題」「気にしすぎ」「仮病」扱いされがちです。

しかし、このブログで取り上げている多種多様な病気や発達障害を理解するには、感覚過敏抜きに考えることはできません。この機会に、感覚過敏とは何なのか、どのように原因不明のさまざまな疾患とつながっているのか、という点を考察してみました。

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これはどんな本?

この記事では若倉先生の記事をはじめ、さまざまな資料を参考にしていますが、とりわけ精神科医ノーマン・ドイジによる脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線を参照しています。

この本は、これまで難治性とされていた慢性疼痛や多発性硬化症、外傷性脳損傷、パーキンソン病、自閉症といったさまざまな脳の機能異常に対して、脳の可塑性(柔軟に変化する力)を引き出す最先端の治療法を用いた取り組みが紹介されています。

従来の医学の枠にとらわれない最新の脳科学の発見が盛り込まれており、検査に異常が出ない感覚過敏の実態を理解し、どんな治療法でアプローチできるか知るのにとても役立つ一冊です。

検査で異常が出なくても「心の問題」ではない

冒頭で若倉先生が記事で書いておられたのは、感覚過敏のうち、光過敏、明るさ過敏といった視覚系と関係しているものです。こうした過度の明るさ過敏症状は、一般には「羞明」(しゅうめい)と呼ばれています。

決して少ない症状ではないはずですが、今のところ様々な病気に現れる不定愁訴のひとつとして扱われているだけで、独立したひとつの病態としてカテゴライズされてはいません。

その理由について、若倉先生は、眼科的検査をしても異常がみられないこともあり、心因性や気の持ちようとみなされてきたのだろうと書いています。

従来、そんな状態は人間の身体(目)には起こりえないと医師たちは考え、そのような症例に出合っても、詐病(病気として偽る)や心因性などとして無視してきたのです。

多分、私も20年前は、その仲間であったかと思います。

検査で異常が出ないのに過度のまぶしさを訴える「羞明」症状はさまざまな病気に出現しますが、この記事で先生は、線維筋痛症や慢性疲労症候群、化学物質過敏症などとのつながりを指摘しています。

私がこの病気に注目しているのは、眼球そのものに問題はなくても、 眩 しさや目の痛みのために目を開けて見ることができない 眼球使用困難症候群 の重症例に、しばしば体の痛みが起き、線維筋痛症と診断されている例があるからです。

…また、線維筋痛症は、慢性疲労症候群や化学物質過敏症などと臨床症状に類似点が多いようで、これも、そういう解釈ができるということなのかもしれません。

確かに、わたし自身の経験に照らしてみても、周囲にいるこうした病気の患者たちのうち、全員が全員ではないものの、過度のまぶしさや音過敏などの感覚過敏を抱えている人たちが数名思い浮かびます。

これらの病気も、やはり、一般的な検査で異常が出ることが少なく、長らく心因性、詐病、気に持ちようなどと言われ、患者たちが苦しめられてきた歴史を持っており、検査に出ない眼球使用困難症候群との類似性があります。

たとえば最近の記事で、小学校のころに線維筋痛症を発症した男性の経験談が取り上げられていました。

ガガさんと同じ「線維筋痛症」 一宮の闘病男性が歌自作 | 1面 | 朝夕刊 | 中日新聞プラス

 小学四年のころ、体に異変が現れた。慢性的な頭痛や肩こりに悩まされるようになり、痛みが出てきた。だが、病院では「心の問題」とだけ指摘された。

 中学になると痛みは広がり、学校も休みがちに。病気をうまく説明できず、同級生に仮病扱いされた。小児科などに通い、漢方薬の治療やカウンセリングを受けた。「痛みだけでなく、痛みを理解してもらえないことがつらかった」

線維筋痛症に限らず、検査に出ない異常を抱える人は、みなこのような苦悩を経験してきたことでしょう。

先ほどの記事で、若倉先生は、検査に異常が出ない明るさ過敏、線維筋痛症、慢性疲労症候群、化学物質過敏症などの共通項として、次のような特徴を指摘しています。

 いずれも感覚系が過敏な状態にあり、感覚をコントロールする神経機構に不調が存在するという共通項があります。

言ってみれば、明るさ、まぶしさといった光刺激に過敏なのが今回取り上げている眼球使用困難症候群であるのに対し、慢性疲労症候群では「疲労」に、線維筋痛症は「痛み」に、化学物質過敏症は「におい」に過敏であるといえます。

こうした病気は、いずれも中枢性過敏症候群(中枢感作症候群:CSS)という感覚過敏の症候群の概念に含められています。

CSSに含まれる病気は、いずれも刺激そのものが過剰なわけではありません。

たとえば、眼球使用困難症候群の患者は、日中、他の人が普通に出歩いているような明るさの場所でも外出が困難です。

慢性疲労症候群では、疲労因子FFの測定をしても、実際には身体は休まっているという結果が出るようです。人並み外れた過労状態にあるわけではないのに、疲労を敏感に感じ取ります。

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