「あいまい性耐性」―逆境のもとで新しい価値観を見つけ自分の人生を歩み出す力

あんまり現実というものが苦しいので、絶えず瞑想のうちに逃れていたが、これはどうやら無駄なことではなかったらしい。

今、僕は以前思っても見なかった望みや希(ねが)いを持っています。(p255)

れは、生きるための哲学 (河出文庫)という本に引用されている、ロシアの文豪ドストエフスキーの言葉です。

前向きな言葉がつづられていますが、なんとこれは、10年にわたる極寒シベリアでの獄中生活を送っているさなか、流刑地オムスクから兄に送られた手紙の一節だそうです。

人間を人間とも扱わないような残酷で悲惨な日々の中で、ドストエフスキーはより深い人生観を身につけ、自由になってからは稀代の作家として大成していきました。

わたしたちのほとんどは、強制収容所で何年も過ごすような極限体験をしたことはないかもしれません。しかし、一見平和に見える社会でも、あたかも冷たい牢獄にとらわれるような悲惨な人生を、何年も、何十年も送っている人は決して少なくありません。

幼いころからの虐待、崩壊した家庭での心労、慢性的な病気などは、文字通りの強制収容所と同じほど、昼も夜も絶え間なく心身を痛めつけます。

いつ終わるとも知れない苦しみに圧倒され、生きる意味も喜びも感じられないようなとき、どうすれば、それを乗り越えることができるのでしょうか。

生きるための哲学 (河出文庫)ポジティブ心理学が1冊でわかる本などの本から、逆境を乗り越え、自分だけの人生を歩み出すのに、曖昧(あいまい)さに向き合う力がどのように役立つかを見てみましょう。

続きを読む

自閉スペクトラム症(ASD)の人は相手の「行動」で良し悪しを判断―先入観なくフェアという長所も

都大学の米田英嗣特定准教授らの研究によると、自閉スペクトラム症(ASD)の小中学生は、良い人か悪い人かを判断するとき、「人となり」よりも「行動」に注目する傾向があることがわかったそうです。

悪い子の良い行動から何を読み取るか?自閉スペクトラム症を持つ小学生・中学生の善悪判断│京都大学 研究成果

「人格」より「行動」で善悪判断 自閉スペクトラム症の子 : 京都新聞

自閉スペクトラム症を持つ小中学生の善悪判断は行動に基づくもの-京大 - QLifePro 医療ニュース

自閉スペクトラム症の子供:表面的な行動で「善人」と判断 「悪意の理解が難しい」 福井大などのチームが発表 /福井 - 毎日新聞

報道では、こうしたASDの人の考え方の特性は、見せかけの親切にだまされやすい、詐欺やいじめなどの被害に遭いやすいといった、リスクが強調されています。

しかし、このASDの特性が単に欠点やデメリットである、とするのは短絡的でしょう。これはASDの人と定型発達の人の着眼点の違いからくる問題です。

この記事では、研究内容を参考にしつつ、一歩踏み込んで考え、ASDであれ、定型発達であれ、生まれ持った特性は長所も短所も含まれたパッケージであり、短所のように見えるASDの特性も見方を変えれば長所として伸ばしていける、という点を考えます。

続きを読む

【1/21】柴山雅俊先生の新刊「解離の舞台 症状構造と治療」が発売予定

のブログの解離関係の記事で大いに参考にさせていただいている、解離性障害の専門家、柴山雅俊先生による解離の解説書の新刊解離の舞台―症状構造と治療が、来2017年1月21日に金剛出版から発売されるようです。

内容紹介は以下の通り。

解離の舞台 症状構造と治療/柴山 雅俊 - 紙の本:honto本の通販ストア はてなブックマーク - 解離の舞台 症状構造と治療/柴山 雅俊 - 紙の本:honto本の通販ストア

本書の前半・症状構造論では、「色」「夢」「眼差し」など解離に特徴的な表象を手がかりに、気配過敏、想像的没入、人格交代、空間的変容/時間的変容、幻覚・幻聴など解離の典型的症状を論じながら、当事者の主観的体験世界を触知する。

本書の後半・鑑別診断論では、境界例、自閉症スペクトラム障害、統合失調症との困難な鑑別方法を症候学的観点から解説していく。

そして終盤の治療論では、「救済者」「犠牲=身代わり」「場所」などのキーワードを足がかりとして、夢と現実の境界線上に「いま・ここ」を構築して交代人格と交流をはかり、安全な場所のなかで回復に至る軌跡を描いていく段階的治療論が語られる。

一見すると、6年前の著書解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論に近い内容なのかな、と感じられますが、さらに煮詰まった理解が含められているのではないかと思います。

前半部分の「色」「夢」「眼差し」はわたしも気になっているところなので興味を惹かれます。後半の自閉症スペクトラムとの鑑別や、具体的な治療論は、ぜひ知っておきたい知識ですね。

わたしは常々、解離を知らずして創造性は理解できないと思っています。うちのブログは多岐にわたる話題を取り上げていますが、一番思い入れのあるカテゴリーは何かというと、慢性疲労でも発達障害でもなく、間違いなく解離だろうな、と感じます。

柴山先生の本は、毎回、当事者の主観的体験に寄り添った生き生きとした洞察が魅力的で、読んでいて本当に興味深いです。

専門家向けの本らしく、値段は高めで、内容も難しめだと予想されますが、解離を深く知るにはうってつけの一冊ではないかと思います。わたしもぜひ読んでみようと思っています。

柴山先生の解離の本をまだ読んだことのない方には、もっと簡単で一般向けの解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病 (健康ライブラリーイラスト版)をお勧めしておきます。

HSPの人が持つ「差次感受性」―違いに目ざとく脳の可塑性を引き出す力

ある回で、こんな相談が来た。

「私の車のヘッドライトが2つとも同時に壊れたんだ。ディーラーの店に持っていったんだが、電球を2つ交換すればいいだけだって、整備士は言うんだよ。

そんな馬鹿なことがあるか? 電球が2つとも同時に壊れるなんて、偶然にしちゃできすぎだろ?」

それを聞いてトムは即答した。「ああ、そりゃ有名なウェーバー=フェヒナーの法則だ!」。

2つの電球は同時に切れたわけではない―これが答えだ。片方の電球が切れても、それに気づかないまま運転を続けることはよくある。

…電球が2つから1つになっても、差異に気づくとは限らない。しかし、1つからゼロになれば、絶対に気づく。(p60)

ょっとした違いに気づく。

これは多くの人にとってなかなか難しいことです。冒頭に紹介した行動経済学の逆襲のエピソードに出てくる車のヘッドライトの故障にしても、有名な茹でガエルの法則にしても、ちょっとずつ変化していくものは手遅れになるまで気づかないことがよくあります。

変化が小さいとなかなか気づけない現象は、心理学ではウェーバー=フェヒナーの法則として知られています。

しかし、そんな小さな変化を敏感に感じ取り、すぐさま反応したり、違いを深く考えたりできる目ざとい人たちがいます。

そうした人一倍敏感な人たちが持つ力は、ジェイ・ベルスキーとマイケル・ブルースによって「差次感受性」(differential susceptibility)と名づけられました。その名の通り、小さな差に対する感受性の強さを意味しています。

敏感な人たちは、しばしばストレスを抱えやすい、打たれ弱いといったマイナス面ばかりが注目されますが、本当にデメリットばかりなのでしょうか。

この記事では、おもにひといちばい敏感な子と、脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線という本から、敏感な人たちが持つ優れた能力について考えたいと思います。

続きを読む

時間知覚の問題としてのディスレクシア―脳のタイミング処理と読み書きの意外なつながり

次に取り上げる研究者たちは、識字障害(ディスレクシア)などの障害の根底に時間計測の能力の欠如があるのではないかという仮説を確かめようとしている。

それが確かめられれぱ、エリナーのような人が経験してる、時間との独特な関係を説明することができる。エリナーはいつも遅刻をしてくるのだが、それは彼女の時間経過についての感覚が正確ではなかったからだ。

私たちが正確に書いたり読んだりできるのは、ノートに書くとき、ペンを正確なタイミングで動かしたり、並んだ文字を正確なタイミングで読んだりできるからなのだろうか?(p77-78)

年、学校の勉強についていくのが難しい子どもが、学習障害(LD)や、その一種であるディスレクシア(読み書き困難)といった問題を抱えていることが知られるようになってきています。

LDやディスレクシアの子どもは、落ちこぼれになったり、不当にも怠けているとみなされたりしますが、本当は、脳の発達が他の子どもとは異なるためにうまくできないだけで、人一倍頑張っているのに結果が伴いません。

学習障害(LD)やディスレクシアという名前が示すとおり、そうした子どもたちの問題は読み書きなどの勉強がうまくいかないことだと思われがちです。

でも、冒頭で紹介した脳の中の時間旅行 : なぜ時間はワープするのかの説明が示すように、根底にはもっと大きなメカニズムがひそんでいるようです。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のBuonomano准教授などの研究者たちは、ディスレクシアの読み書きの難しさは、実は、「タイミング」、つまり時間の処理に関わる脳の問題による氷山の一角なのではないか、と考えています。

ディスレクシアを持つ人たちは、単に読み書きに困難を感じるだけでなく、時間の認識が難しかったり、運動がぎこちなかったり、生活全般において、タイミングやリズムの面で苦労してる、「ディスレクシア化された世界」に生きていることが多いのです。

この記事ではいくつかの本に基づいて、時間知覚の観点から、ディスレクシアの本質を考えてみたいと思います。

続きを読む