鏡が怖い,映っているのが自分とは思えない―解離性障害は「脳の地図」の喪失だった

が怖い…。

あなたは日常生活の中で、そのように感じることがありますか?

「鏡が怖い」というのは、ある程度、一般の人たちに普遍的にみられる感情です。鏡の中を覗き込めば、本当はいないはずの何かが映っている、といったシーンはホラー映画の定番ですし、ファンタジーな物語では鏡が異世界への扉になることがよくあります。

しかし、それとはまた違った形で、より根源的な恐怖を鏡に対して抱く人たちがいます。解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理 (ちくま新書)という本はこう述べています。

解離の患者が「鏡を見るのが怖い」と報告するとき、おおかたその理由は二つに分けられる

一つは、「鏡を見てもそこに映っているのが自分の姿であるという実感がない」ことである。

さらに一つは、「鏡に自分以外の何か、普通は映らないものが映っているような気がする」とか「自分の背後に何かがいるのが映っていそうでとても怖い」という報告である。(p56-57)

解離性障害の人は、単に、一般の人たちが「鏡が怖い」と思う以上に、鏡に恐怖を覚えることがあります。

トラウマ研究の専門家ベッセル・ヴァン・デア・コークも、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の中で、幼少期にトラウマを負った子供たちに、やはり鏡に関係した不可解な症状が見られることを語っています。

彼らは反抗的であるにせよ、しがみついてきて離れないにせよ、一人として同年代の典型的な子供たちのようには、周りの世界を探検することも、楽しく遊ぶこともできないらしい。

自己感覚をほとんど発達させていない子供もいて、そんな子は、鏡に映った自分の姿を見て自分だと気づくこともできなかった。(p175)

こうした感覚はなぜ生じるのでしょうか。いくつかの本から、解離性障害における「鏡が怖い」という感覚が、単なる気持ちの問題ではなく、もっと深い脳のメカニズムに基づいていることを見てみましょう。

そしてこの不可思議な現象が、幻肢痛や体外離脱体験、さらには拒食症や慢性疼痛といった、別のさまざまな病気の仕組みとも関係していて、「身体イメージ障害」という最新の医学的概念と結びついている、ということを考えてみたいと思います。

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「解離型自閉症スペクトラム障害」の7つの特徴―究極の少数派としての居場所のなさ

精神科臨床では、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)と診断される患者のなかに解離症状を併せ持つ一群がいることは知られている。

ここではそういった病態を、「解離型自閉症スペクトラム障害(解離型ASD)と呼んでおく」。(p192)

れは、先週 発売された解離の舞台―症状構造と治療の中で、解離性障害の専門家である、柴山雅俊先生が述べている言葉です。

解離性障害は、一般に、トラウマ的な経験をきっかけに記憶が失われたり、現実感を喪失したり、人格交代が生じたりする、さまざまな困難な症状を伴うものです。

近年の研究によると、こうした解離症状を示す人たちの中に、自閉スペクトラム症(ASD)つまり、アスペルガー症候群などの発達障害の人たちが含まれていることが明らかになってきました。

たとえば、つい昨日発売されたASD当事者の天咲心良さんによる自伝的小説COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校編 では、子どものころの辛い経験がきっかけとなって解離性同一性障害(DID)などの解離症状に苦しめられたことが綴られています。

ASDの人たちの解離症状は、一見、一般的な解離性障害の人たちと似ているようにも見えますが、実際には同じ「解離」と言っても、定型発達者とASDの人とでは、異なった傾向があるそうです。

それゆえに、柴山雅俊先生の本では、そうした解離症状を示すASDの人たちを、通常の解離型障害とは異なる、「解離型自閉症スペクトラム障害」(解離型ASD)として区別し、別個に考察されているのです。

この記事では、この本解離の舞台―症状構造と治療を紹介するとともに、解離型ASDの人たちの7つの特徴を、ASDの人たちの具体的なエピソードも交えながら調べてみましょう。

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【1/27】自閉症スペクトラム(ASD)の女性による自伝的小説が発売。2/9まで第一巻無料配信

閉症スペクトラム障害(ASD)[アスペルガー症候群]の天咲心良さんによる、これまでの経験を振り返って綴った自伝風小説、COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇COCORA 自閉症を生きた少女 2 思春期 篇が、今日1/27に出版されました。

自閉症スペクトラム~発達障害の当事者による「壮絶な告白」(天咲 心良) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)

自閉症を生きた少女の「奇跡の自伝」──集団侮蔑、人格混乱の果て|今日のおすすめ|講談社BOOK倶楽部

中村うさぎ氏、杉山登志郎氏も絶賛! 発達障害の当事者が自らの壮絶な体験を克明に描いた衝撃の「奇跡の物語」 : ニュースリリース : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

『見えない障害』に理解のない教師による虐待、PTSDや解離性同一性障害の発症などに苦しみながらも、思いやりのある理解者との出会いによって成長してきた経験がASDならではの正確な記憶力によって回想されています。

このブログでも著書を参考にさせていただいている、子どもの発達障害やトラウマ研究の専門家の杉山登志郎先生は、この作品について次のように述べて推薦しておられました。

発達障害と精神的虐待がもたらす多重で複雑な内奥を世界で初めて開示した作品

今日発売されたのは二巻までですが、全三部作の予定で、「青年期 篇」はのちに発売とのこと。心良さんご自身による内容の紹介によると、それぞれ次のような内容だそうです。

私の本は巻が進むごとに読者対象が移行していくようなものになるのではないかと思っています。

1巻はもちろん自閉症スペクトラムに関わる人たちに特に読んでもらいたいのですが、2巻はアイデンティティの喪失感や人との関係、すれ違いなどに苦悩する人に読んでもらうと、何か感じてもらえるのではと思います。

3巻目は恐らく、自我の確立とか、自分の中にある影との戦いとか、より人間の根本を考えるような、『人間』らしく生きていく方法を考えるものになると感じています。

第1巻COCORA 自閉症を生きた少女 1 小学校 篇は、2/9(木)までの期間限定で電子版が無料配信されるそうです。

発達障害を持たない人がにとっては、ASDの子どもが成長のさなかで経験する当人視点の世界を理解するために、また同じASDの人にとっては自分と同様の辛さを乗り越えてきた人がいることを知るために、この機会に読んでみるといいかもしれません。

身体に刻まれた「発達性トラウマ」―幾多の診断名に覆い隠された真実を暴く

こうした患者たちは、精神医療を受けている間に、互いに関連のない診断を五つか六つ受けるのが普通だ。

医師が気分変動に焦点を絞れば双極性障害とみなされ…医師が彼らの絶望感にいちばん強い印象を受ければ、大うつ病を患っていると言われて…医師が落ち着きのなさと注意力の欠乏に注目したら、注意欠如・多動性障害(ADHD)に分類され…たまたまトラウマ歴を聴取し、患者が関連情報を自ら提供するようなことがあれば、PTSDという診断を受けるかもしれない。

これらの診断のどれ一つとして、完全に的外れではないが、どれもみな、これらの患者が何者か、何を患っているのかを有意義なかたちで説明する端緒さえつかめていない。(p226-227)

ラウマ研究の権威、ベッセル・ヴァン・デア・コーク医師は、まだPTSDという概念が知られていない時代にベトナム戦争の退役軍人の強烈な症状を目の当たりにし、彼らの苦悩の原因を突き止めるべく、トラウマ研究の道へと進みました。

トラウマがもたらす破壊的な影響について理解を深めるうち、彼は不可解な患者たちの一群に気づきます。

20歳にならないうちから、うつ病、躁うつ病、発達障害、パーソナリティ障害などの診断名を複数つけられ、さらには慢性疲労や慢性疼痛、偏頭痛、自己免疫疾患など、多種多様な身体症状まで抱えています。

彼らの行動は成人のPTSD患者と似ていますが、そのほとんどはPTSDの診断基準を満たしません。なぜなら、彼らは具体的なトラウマの記憶を持ち合わせておらず、ときには幸せな子供時代だったと回想することさえあるからです。

いったいこの異常な症状は何を意味しているのでしょうか。

身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法から、おのが人生の経験と、幅広い専門知識、そして本物の教科書は患者だけである、という信念を駆使して、「発達性トラウマ」という真実を探り出した情熱の医師の物語を見てみましょう。

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頭痛で学校に行けない子どもの脳脊髄液減少症―よく似た起立性調節障害(OD)と区別するポイントとは?

元気であったわが子が、ある日を境として頭痛を訴えるようになった。次第に、めまいや疲れなども訴えるようになった。朝が起きづらく、無気力に見える。微熱があることもあり、家の中でダラダラ横になってばかりで学校を休みがちとなった。

複数の病院、診療科で診察・検査を受けたが、「異常なし」、あるいは「風邪」「片頭痛」「頚部捻挫」「自律神経失調症」「起立性調節障害」「うつ病」「身体表現性障害」等の診断を受けた。

しかし、病院の治療・薬は効かない。比較的体調の良い時期もあるが長続きしない。病気にかかりやすくて虚弱体質になってしまった。(p91)

れは、小児・若年者の起立性頭痛と脳脊髄液減少症に載せられている、子どもの「脳脊髄液減少症」の特徴です。

子どもの不登校の原因として、最近よく知られるようになった病気に、「起立性調節障害」(OD)という思春期特有の自律神経の異常があります。

起立性調節障害(OD)の主訴は立ち上がったときの血圧異常による頭痛や疲れですが、それと似たような症状を示す重篤な病気として、「脳脊髄液減少症」が関与しているケースがあることがわかってきました。

脳脊髄液減少症は、脳脊髄液が漏れ出したり、減少したりして、頭痛やたちくらみ、疲労感、めまいなどが生じる病気です。子どもの脳脊髄液減少症は、大人の場合と違った特徴もあります。

この記事では幾つかの専門家による解説資料を参考に、子どもの脳脊髄液減少症の特徴や、起立性調節障害など、よく似た病気と区別するポイントについてまとめました。

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