「こんなに学校に行きたいのにどうやっても行けない」理由―生物学から読み解く不登校のメカニズム

の記事は解離と慢性疲労について考えた以下の記事の5つ目の補足です。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

本文では、解離と不動状態というキーワードを考慮することによって、不登校や小児型慢性疲労症候群の奇妙なさまざまな症状を、筋道立てて説明できることを示しました。

たとえば、小児型慢性疲労症候群の子どもたちが、「不登校になった理由を説明できない」のは、それが心理的な問題ではなく、慢性的な拘束ストレスによって、からだに叩き込まれた手続き記憶による不動状態だから、と分析しました。

この補足5では、不登校・小児型慢性疲労症候群の子どもたちが経験する矛盾した葛藤について、掘り下げて考えたいと思います。

その矛盾した葛藤とは、三池輝久先生が、学校を捨ててみよう!―子どもの脳は疲れはてている (講談社プラスアルファ新書)の中で紹介している次のような状態です。

そのような女子学生が一人、私の外来を訪れた。友人もできて学校は面白い、勉強もしっかりとついていける。喜びに目を輝かせて私に報告してくれたのは一学期の終わり。

ところが二学期がはじまりなぜか学校から足が遠のきはじめる。本人はどうしても行きたいという気持ちが強い。学校は嫌いではない。

「なぜだろう、先生なぜ私は学校へ行けないのでしょうか。こんなに行きたいのに」と涙ながらに訴えるが私にもわからない。(p145)

「どうしても行きたいという気持ちが強い」「学校は嫌いではない」。

それなのに「なぜ私は学校へ行けないのでしょうか。こんなに行きたいのに」と涙ながらに訴える。

わたしも経験しましたが、これは不登校状態の最も悲痛な体験のひとつで、こころではどうしても学校に行きたいのに、なぜかからだがどうしても動いてくれない、という奇妙なからだとこころの解離状態になります。

本人はこれほど強い葛藤に悩まされているのに、「学校嫌い」「怠け」「行きたくないから仮病を使っている」などと残酷な言葉を浴びせられるのは耐えがたい苦痛です。

なぜそんな状態に陥るのか、本人はまったく理由を説明できず、わたしも当時はわけがわかりませんでした。しかし今では、はっきりした医学的理由を提示できるようになったので、この補足にまとめたいと思います。

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睡眠不足症候群とPTSD/解離の関係―眠育で不登校が予防できるのはなぜか

の記事は解離と慢性疲労について考えた以下の記事の4つ目の補足です。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

三池輝久先生は、不登校・小児型慢性疲労症候群の予防として、睡眠不足症候群(IIISS)を防ぐ眠育の効果が高いとして、近年、その分野に注力しています。

睡眠時間の確保が小児型慢性疲労症候群の発症を防ぐのは、本文で見たように、睡眠不足によってストレス反応の第二段階、つまり交感神経系の「闘争・逃走」が生じやすくなるのを食い止めるからでしょう。

しかし、小児型慢性疲労症候群を解離による不動系の反応として考えた場合、眠育によって不登校が予防される、さらなる納得のいく理由を見い出すことができます。

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解離をさまざまなレベルで生じるフラクタル構造として考える

の記事は解離と慢性疲労について考えた以下の記事の3つ目の補足です。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

記事でみたように解離という考え方は、さまざまな現象を説明するのに役立ちます。

統合されているものが「切り離される」ことで生じる病理は、医学的な概念を越えて世の中に広く当てはまるフラクタル的な現象です。

つまり、解離は狭い意味では精神医学的な概念ですが、世の中のさまざまなスケールに当てはまる汎用的な概念でもあります。

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解離は引き込み・共鳴現象と関わるリズム障害かもしれない

の記事は解離と慢性疲労について考えた以下の記事の2つ目の補足です。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

本文中で、サウンドセラピーがトラウマ障害などに効果があるのは、メロディやリズムが、トラウマ記憶と同じく手続き記憶であり、トラウマの手続き記憶によって乱れた脳のリズムを、音楽のリズムの手続き記憶が一時的に相殺するからではないかと書きました。

わたしの場合、一部のハイパーグラフィアと同じように、文章を書いているときは不動状態が解除されます。枯渇したはずのエネルギーが動員されます。

オリヴァー・サックスが言うように、書くことで考えが一つにまとまり、整理されます。サックスが書くことと音楽をこよなく愛していたのは偶然ではないでしょう。書くことも音楽も、ドーパミンによって脳の非同期な活動をひとつのリズムへとまとめる力を持っています。

独特すぎる個性で苦労してきた人の励みになる脳神経科医オリヴァー・サックスの物語
書くことを愛し、独創的で、友を大切にして、患者の心に寄り添う感受性を持った人。2015年に82歳で亡くなった脳神経科医のオリヴァー・サックスの意外な素顔を、「道程 オリヴァー・サッ

からだの不動化、そして歌のリズムやメロディがともに手続き記憶であることからすれば、からだは同時に2種類のリズムを刻むことはできませんから、別のリズムに没頭して同調しているうちは不動化の手続き記憶が解除されるのかもしれません。

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成人型の慢性疲労症候群の文化が抱える「バラムとロバ」現象

の記事は解離と慢性疲労について考えた以下の記事の1つ目の補足です。

だから君は慢性疲労に閉じ込められた―生きるエネルギーを枯渇させる解離そして不動状態
解離と慢性疲労は深く関係していて、不動系という生物学的メカニズムによって引き起こされているという点を、不登校や小児慢性疲労症候群の研究と比較しながら分析してみました。

本文では、小児型の慢性疲労症候群に焦点を当てて扱いました。では、成人型の慢性疲労症候群はどうなのでしょうか。

子どもであれ、大人であれ、同じ慢性疲労症候群だ、とみなす人もいますが、わたしはそうは思いません。

根拠のひとつは、今回扱った本が述べているように、たとえばトラウマ障害の場合、子ども時代に発症した場合と、大人になってから発症した場合とでは、表に出てくる症状が異なるからです。

発達性トラウマ障害(DTD)の10の特徴―難治性で多重診断される発達障害,睡眠障害,慢性疲労,双極II型などの正体
子ども時代のトラウマは従来の発達障害よりもさらに深刻な影響を生涯にわたってもたらす…。トラウマ研究の世界的権威ヴァン・デア・コーク博士が提唱した「発達性トラウマ障害」(DTD)とい

特に、本文で扱っている解離や不動状態は、生まれつきの感覚過敏性や、幼少期の愛着の安定性が大きく関わっています。

おそらく、若くして、まだ元気なはずの子ども時代、学生時代に慢性疲労状態になってしまう人は、発達障害であれ、HSPであれ、無秩序型愛着であれ、ある程度そうなってしかるべき要素を持っているのではないかと思います。

そうであれば、少なくとも学生時代には不登校に追い込まれるほどの体調不良を発症するに至らず、学校社会を乗り切って成人することができ、大人になってから別の要因で慢性疲労症候群になった人とは、生来の性質が違うのではないかと思います。

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