パーキンソン病についての最近のニュースで、腸内フローラ(腸内細菌叢)との関係が話題になっていました。パーキンソン病は脳の黒質の異常とされていますが、大元の原因は腸内環境にあるのかもしれません。
また、最近の別のニュース、パーキンソン病の脳の異常や重症度を可視化する技術や、認知症との関係についても紹介しています。
腸内環境が発症に影響
オーフス大学エリザベス・スヴェンソン博士らによる大規模な臨床知見によると、パーキンソン病の発症は、このブログでもたびたび紹介してきた腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化が関わっているそうです。
パーキンソン病発症のリスクは「腸内」にあり:研究結果 « WIRED.jp
1970〜1995年までに、潰瘍治療で「迷走神経切離術」(脳と腸をつなぐ神経の切断)を受けた患者たちはパーキンソン病の発症率が半分になっていたそうです。
それで、ひとつの可能性として、迷走神経を通じて、腸の異常が脳に伝わり、パーキンソン病が発症している場合があることが示唆されています。
ほかにも、
■動物実験で脳と腸の関わりが示唆
■パーキンソン病患者の便は、食物繊維や炭水化物を分解するプレヴォテラ(Prevotella)属細菌が、健常者と比べて8割近く少ない
■パーキンソン病患者ば発症前から便秘がち
といったことから、脳の神経難病と考えられていたパーキンソン病の発症は腸内環境の異常と関係しているのではないか、とされています。
この点については、脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線という本でも指摘されていました。
PoNS[※ポータブル神経調節刺激装置のこと]による迷走神経の刺激は、パーキンソン病の症状の改善も説明する。パーキンソン病の理解における、神経科学者ハイコ・プラークの画期的な業績によれば、パーキンソン病は胃に起源を持つ可能性がある。
病原体が迷走神経につながる消化管の神経に入り、脳幹、そしてPoNSの刺激の対象になる神経核に至るのである。
この説は、パーキンソン病患者が、かくもさまざまな自律神経系や消化管の障害を引き起こす理由を説明する。これらは大脳基底核にこの疾病を局在化する現行の理論では説明し得ない。(p413)
要するに、パーキンソン病はこれまで脳の病気と考えられていましたが、実際には、胃腸(つまり身体)から始まり、胃腸と脳をつなぐ迷走神経を介して、徐々に脳に達するのではないか、ということです。
そのため、便秘などの胃腸症状が、パーキンソン病の本格的な発症よりも先行することになります。パーキンソン病と便秘についての関係は、こちらのニュースでも指摘されていました。
741593人もの膨大なデータを分析したところ、病前の便秘の有無とパーキンソン病の発症は関連しているという結果が得られ、リスクが2.27倍になっていました。でした。パーキンソン病の発症から10年以上前の便秘でも関連性が見られたとのこと。
やはり腸内環境とパーキンソン病には密接な関わりがある可能性がうかがえます。
腸内細菌がパーキンソン病の症状や薬の効果を調整
さらに2016年12月のカリフォルニア工科大学の研究報告によると、α-シヌクレインが蓄積しやすい腸内細菌(マイクロバイオーム)が、パーキンソン病発症のリスクになるかもしれないということが明らかになっています。
パーキンソン病に「腸内細菌」が関与か:研究結果 | ライフハッカー[日本版]
Parkinson's Disease Linked to Microbiome | Caltech
かねてから、パーキンソン病は迷走神経につながる消化管の神経にα-シヌクレインが入り込み、脳幹そして神経核へと上ってくるのではないか、というBrark仮説が唱えられています。
研究チームによると、末梢神経系のすべてのニューロンの70%は、脳や脊髄ではなく腸内にあります。特に腸の神経系は迷走神経を介して中枢神経系に直接つながっているようです。
研究では、まったく遺伝的に同一で研究者らはα-シヌクレイン(αSyn:パーキンソン病の発症に関わる物質)を過剰生産し、パーキンソン病の症状を示すマウスを用いて、腸内細菌が存在する場合と無菌状態の場合を比較したところ、明らかに腸内細菌がパーキンソン病の症状に影響していることがわかったそうです。
また、2017年2月の、米アラバマ大学バーミンガム校の研究では、パーキンソン病患者197名と健常者130名の腸内細菌を比べたところ、数や種類に違いがあり、さらに薬などの化学物質の代謝にも関係していることがわかりました。
パーキンソン病と腸内細菌とのつながりが明らかに | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
つまり、パーキンソン病患者の薬の効果には、腸内細菌の反応が何らかの形で関わっていると考えられます。
パーキンソン病の画像診断が一歩前進
別の記事では、東北大学と徳島大学の研究によって、マウスのレベルで、パーキンソン病の脳の異常が可視化されたことが発表されていました。
東北大・徳島大、パーキンソン病の重篤度を可視化する手法を開発:日刊工業新聞
パーキンソン重篤度をMRIで可視化 東北大-徳島大グループ、特定領野の神経活動と相関│m3.com
パーキンソン病を画像診断 マウスの脳観察、早期発見に道 :日本経済新聞
パーキンソン病の重篤度をMRIで可視化-東北大 - QLifePro 医療ニュース
この研究では、パーキンソン病のモデルマウスの脳内では、視覚や聴覚などの情報を大脳へ伝える「視床」や、運動を制御する「線条体」で神経活動が活発になっていることが、活動依存性マンガン造影MRI(AIM-MRI)という神経イメージング法によってわかりました。
この神経活動の変化は症状の重さと関係していて、重篤度を可視化できる技術になるとも期待されています。ドーパミンの減少などによる神経活動の異常と関係しているとされています。
今のところ、パーキンソン病を確定診断するための明確な検査方法はなく、症状を聞いたり、Lドーパが効くかどうかを試したりして診断されています。
パーキンソン病発症から20年以内に80%が認知症になる
別のニュースによると、パーキンソン病では認知症になる確率が高く、20年以内に80%が発症すると言われています。認知機能が低い場合には死亡率が高くなるそうですが、認知トレーニングによって改善することはできるようです。
パーキンソン病は「認知症」に注意を、20年以内に80%で起こる | Medエッジ
パーキンソン病の認知機能が認知トレーニングで改善した - MEDLEYニュース
脳脊髄液の検査によると、その後認知症を併発した患者では、三種類の物質の量が変化していて、ニューロフィラメント軽鎖タンパク質が高く、Aβ1-42が低く、心臓由来脂肪酸結合タンパク質が高くなっていたというニュースもありました。
パーキンソン病の人で、将来認知症が起こるかを脳脊髄液の検査で予測 - MEDLEYニュース
友人がパーキンソン病なので、その情報もちょくちょく調べていますが、少しずつ病態が解明されていて、iPS細胞を使った創薬なども行われているようなので、根治療法が見つかることに期待したいと思います。
iPSでパーキンソン病治療研究 大日本住友製薬、日立など :日本経済新聞
▼腸内環境と脳の病気
腸内環境の変化が脳の病気の発症とどう関係しているのか、という点はこちらの記事をご覧ください。