万人に役立つライフハックや勉強法などない!―ADHDやアスペルガーに必要なのはオーダーメイド


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んな自己啓発・ライフハック・勉強本・ビジネス書などは世の中にあふれています。明らかに怪しいもあれば、7つの習慣―成功には原則があった! のように、世界中で信奉されているバイブルもあります。

特に、ベストセラーになり、広く褒めはやされ、Web上でも頻繁に取り上げられているライフハックは、万人に当てはまるアドバイスとして人気があります。

しかし、この「万人に当てはまる」ライフハックには、注意が必要かもしれない、そう喚起するのは、自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群・ADHDの翻訳家、ニキ・リンコさんによるスルーできない脳―自閉は情報の便秘ですという本です。

ライフハックの多くは、生活が向上する、自分を変えられる、という点を強調するものですが、中には、生まれ持った脳の性質に合わず、役立つどころか有害なものさえあるというのです。

この記事では、ライフハックを選ぶことには、単に「合う」「合わない」以上の問題が関係していること、そして発達障害の観点から、自分に役立つライフハックを見つけるにはどうすればいいか、ということを具体例を挙げて説明します。

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これはどんな本?

今回紹介する本は複数ありますが、話の中心として引用しているのはスルーできない脳―自閉は情報の便秘ですです。

この本は、ニキ・リンコさんが自閉スペクトラム症(ASD)の当事者として、発達障害者と定型発達者の脳の違いをさまざまな観点からわかりやすく、ときには面白おかしく解説した本です。

発達障害の当事者には理解し共感できる本ですが、そうでない人には暗号みたいで解読しにくい部分も多いかもしれません。

発達障害の脳に合わないライフハック

このブログは、もともといろいろなライフハック情報を紹介しようとして立ち上げたものでした。今でも、ライフハックカテゴリに、そのときの名残りが蓄積されています。

ライフハックの中には、とても役立つものもありましたが、良かれと思って実践したものがまったく役に立たなかったり、そもそも継続できなかったりするものもありました。

そのときは、単に合うものもあれば、合わないものもあるのだろう、という程度の認識でいたのですが、発達障害や自分の脳の特性について知った今では、もっと深い意味があると思っています。

その点が、スルーできない脳―自閉は情報の便秘ですにはこう書かれています。

ライフハック情報で空振り

脳ミソの部品がちがい、機能がちがう以上、脳ミソの使い方のマニュアルだって、一般むけのものが合わなくって当然だろう。

荷造りコスト、荷ほどきコストがみんなとちがっていることを自覚していないと、一般向けの勉強術や仕事術の本を真に受けて、次々と失敗をくり返し、ますます自信を失うことになりかねない。(p93)

自閉スペクトラム症(ASD)やADHDの人は、定型発達者と脳の構造が違います。特にASD、ADHDの傾向が強い人ほど、一般向けのライフハックは当てはまらなくなります。そしてASDとADHDでも、互いに脳の傾向はまったく異なります。

生まれ持った脳は変えられない

ここで大切なのは、自閉スペクトラム症やADHDといった脳の発達障害は、生まれつきのものものだということです。

もし、昔のわたしが考えていたように、あるライフハックを使いこなせないのは、単に合う、合わないの問題なのであれば、努力すれば、自分を変化させて、そのようなライフハックを身につけることだってできるのではないか、ということになります。

事実、多くのライフハックや勉強法についての本は、それが「習慣」の問題であり、努力すれば身につけられるので頑張るように、と励ましています。「合わない」と思っても、努力すれば自分は変えられるというのです。

そして実際、世の中の一般の人たちは、それほど脳の機能の偏りが大きくないので、アドバイスを実行しているうちに、それが馴染んできて、うまくいくようになる人も多いのです。

計画を立てるのが苦手な人がタスクで時間管理できるようになったり、整理整頓ができない人が、収納術で見違えるような家にできたりします。

しかし、脳の機能がもっと極端な人は、そう簡単にはいきません。自分をライフハックに合わせるのではなく、ライフハックを自分に合わせる必要があるのです。

既成品の服とオーダーメイドの服

わかりやすくするためにたとえで考えてみましょう。

標準的な体型の人は、店でたくさん売っている既成品の服を着こなすことができます。服のサイズがほんのちょっとくらい違っても、着ることはできます。きつめの服を着ていたら、体型が変化して痩せたという人だっています。

しかし、ものすごく背の高い人や、ものすごく恰幅のいい人は、そのあたりで売っているような服は、どうあがいても着れません。服に自分を合わせることはできません。場合によっては、自分に合った服をオーダーメイドする必要があるでしょう。

発達障害の人の脳というのは、まさしく「すごく背の高い人」や「すごく恰幅のいい人」のようなものなのです。

発達障害の人にとって大切なのは、生まれ持った脳を変えようとする努力ではなく、自分の脳に合ったオーダーメイドの方法を見つけることです。

ニキ・リンコさんはこう述べています。

私に言わせれば、合宿免許体質に生まれてしまった人が、〈放課後にマイクロバスで通う体質〉に生まれ変わるのはまず無理だと思う。

でも、〈自覚なき合宿免許体質〉から〈自覚ある合宿免許体質〉に移行することならできる。自分の体質を自覚して、最初から計算に入れて動きだせば、人に迷惑をかけずにすんだり、恥をかかずにすんだり、過去の自分の約束に縛られて飽きちゃった遊びを強制されずにすんだりする。(P114)

ここで「合宿免許体質」と言われているのは、自閉症・アスペルガー・ADHDに多い、過集中を中心とした生活スタイルのことです。逆に「放課後にマイクロバスで通う体質」というのは、定型発達者に多い、毎日コツコツと少しずつやる生活スタイルのことです。

ニキ・リンコさんは、そうした生活スタイルは、生まれ持った脳の特性に由来しているので、「生まれ変わる」ことはまず不可能だと述べています。

自分を変えようとするよりも、それぞれの体質を「自覚」することで、生活をコントロールすることのほうが実際的です。自分の脳の特性を「自覚」して、それに適したライフハックや勉強法を探し、オーダーメイドで組み立てるのです。

統計は定型発達者のもの

発達障害の人たちが特に注意しなければならないものに、「統計」があります。

科学的な研究では、統計という手法によって、正しいか否か、有用かどうかが判断されます。統計で有意に効果が高いという結果が出たものは、多くの人に役立つ情報として、広く流布されます。

インターネット上のライフハックのサイトや、書店に並んでいる自己啓発書のアドバイスは、基本的に「統計上役立つ人が多い」ものをおすすめしていることがほとんどです。

「統計的に多い」=「役立つ」とは限らない

しかしここには重大な落とし穴がひそんでいます。統計はあくまで、「ほとんどの人に効果があった」ということを示しているにすぎません。必ず、何%かは効果が見られなかったり、有害な副作用が出たりする例外があります。

それらのWeb記事や本がメインターゲットにしている一般の人々にとっては、自分は「ほとんどの場合」に含まれるので、「統計で効果の高いもの」=「正しい」「自分にも役立つ」と鵜呑みにしてもあまり問題はありません。

しかし、発達障害の人は、何%かの例外に含まれている可能性が高いので、広く一般に流布している情報やアドバイスに沿って行動するのは、役に立たなかったり有害でさえあったりする場合があるのです。

たとえば、ニキ・リンコさんは飛行機の客室乗務員のサービスが自分には合わなかったことについてこう述べています。

たぶん、彼女たちの声かけ頻度は、乗客の圧倒的大多数を占める健常さんの反応を元に割り出された適正頻度に沿って設定されているんだろう。

…そっちに設定を合わせて、万人むきの業務に励んでいるだけなんだろう。ただ実際には、「万人むき」じゃなくて、9871人むきだっただけなんだろう。(P90)

もしあなたが、アスペルガーやADHDの強い傾向を自覚しているなら、「万人向け」(実質は9871人向け)のアドバイスは当てはまらない可能性があります。

この社会は多数派のためにデザインされている

最近の研究によると、自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群などの発達障害は、脳の障害なのではなく、生物学的な少数派である、という解釈がなされています。

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