脳はどこから「もうひとつの世界」を創るのか―創造的な作家たちの内なる他者を探る

「もうひとつの世界に暮らす人の日記のように、小説を書いています」

…「私にとって、小説の登場人物はイマジナリーフレンド(空想上の友人)のようなもので、彼らと一緒に生きている感覚があります」

れは、先日ふと見つけたインタビュー記事、SUNDAY LIBRARY:著者インタビュー 雪舟えま 『パラダイスィー8』 - 毎日新聞に載せられていた、作家 雪舟えまさんの言葉です。

以前このブログでは、子ども時代のありありとした空想の友だち(イマジナリーフレンド)や、それを取り巻く空想の世界が、小説家や画家など、作家の創造性に影響しているらしい、という研究を紹介しました。

小説家の約5割はイマジナリーフレンドを覚えている―文学的創造性と空想世界のつながり
フィクションやファンタジーをを創作する小説家や劇作家の創造性には、子どものころの空想の友だち体験、イマジナリーフレンドが関わっている、という点を「哲学する赤ちゃん (亜紀書房翻訳ノ

雪舟えまさんの言葉は、まさにその一例と言えますが、興味深いのは、創作世界に対する向き合い方です。

創作する人は「作者」であり また「クリエイター」とも呼ばれます。クリエーターとは、言い換えれば「創造者」であり、いわば作品世界にとっての神の立場にいますが、インタビューの言葉は、それとはまったく違った印象を与えます。

たとえば、「もうひとつの世界に暮らす人の日記」という言葉から読み取れるのは、作家は、作品世界の外側にいて すべてを見渡しコントロールできる全知全能の神のような存在ではなく、作品世界の中で登場人物たちと一緒に住んでいる一介の隣人にすぎない、という認識です。

登場人物たちは、作られた存在というより、対等の友人であり、「彼らと一緒に生きている感覚」がある、と述べられています。あたかも登場人物たち一人ひとりが、自由意志を持って生きているかのようです。

じつは、こんなふうに感じている作家は、小説家のみならず、詩人や画家、はては科学者にいたるまで、クリエイティブな分野には大勢いて、古今東西、決して少なくないようです。

想像力豊かな作家が、作品世界やその登場人物を、自分で生み出した被造物というよりは、どこか別の次元にある「もうひとつの世界」であるかのように感じてしまうのはなぜでしょうか。

創造的な作家たちが感じる、ありありとした「内なる他者」の聴覚的イメージ、また「別世界」のような視覚的イメージはどこから来るのでしょうか。

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自閉症研究の暗黒時代に埋もれてしまった、知られざるアスペルガーの歴史

アスペルガーは、自分の診ていた人間の創造力が数十年先の科学の発展を先どりしていることに思い至った、おそらく最初の臨床医だったのだろう。

彼らの関心が現実の世界から「かけ離れている」わけではないことにも、すでに気がついていた。(p269)

なたは「アスペルガー」について知っていますか?

そう尋ねると、「聞いたことがある」とか、「わたしも当事者です」と答える方がいるかもしれません。

でも、冒頭に引用した文からわかるように、ここでいう「アスペルガー」とは、医学用語としての「アスペルガー症候群」のことではなく、その名称の由来となった人名、医師ハンス・アスペルガーのことです。

アスペルガー症候群のことはよく知っていても、その由来となったハンス・アスペルガーについは、ほとんど何も知らない、という方も多いのではないでしょうか。

わたしもこれまで、ハンス・アスペルガーの人となりや、彼が研究した事柄について、ほとんど知らなかったのですが、自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実 (ブルーバックス)という本を読んで、とても驚きました。

この本は、英国で最も権威あるノンフィクション賞を受賞し、故オリヴァー・サックスが序文を担当したことで話題になりましたが、自閉症の歴史に関わったさまざまな人物の生き生きとしたエピソードが含まれています。

そこで明らかにされていたのは、ハンス・アスペルガーという稀有な医師が、いかに鋭い先見の明を持って、この21世紀における自閉スペクトラム症の理解を先取りしていたか、そして、なぜ彼の発見が闇に埋もれて、自閉症研究の暗黒時代がもたらされてしまったのか、という知られざる歴史でした。

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光や音の「感覚過敏」を科学する時が来た―線維筋痛症や発達障害,トラウマなどに伴う見えない障害

 弱い光の下でも眼痛、頭痛をはじめ全身の症状が出現するので、二重にサングラスを装用し、帽子を深くかぶり、中には、光を通しにくい布地を顔に何重にも巻いたり、袋を 被 ったりと完全防御の状態でしか通院できない症例もあります。

こうした重度の症例は、私の外来には少なくとも10例は存在し、こうした病態は決して珍しいことではないことがわかったのです。

 その原因はさまざまでも、この状態を「眼球使用困難症」と呼びたいと考えています。

おそらく、大半の症例は、無理やり測れば視力などは正常に記録されるでしょうが、日常生活の上では目を当たり前に使用することは困難ですから、明確な視覚障害者です。

れは、今年2月9日付でヨミドクターに載せられた、井上眼科医院の若倉雅登先生による記事目がいいのに使えない「眼球使用困難症」の方、患者友の会に集合を! : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞) からの引用です。

井上先生は、このコラムの中で、極めて明るさに敏感で、まぶしさに耐えられず、ときに痛みも感じるような人たちの症状を、便宜上「眼球使用困難症候群」と名付けて、該当する人たちからの連絡を募っています。

その後、この9月に入って、歌手のレディー・ガガが線維筋痛症を公表したことをきっかけに、再度記事を挙げておられ、線維筋痛症や慢性疲労症候群、化学物質過敏症などの関係を示唆しておられました。

線維筋痛症と「眩しさ」 : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

感覚過敏は、検査に異常として出ないため、「心の問題」「気にしすぎ」「仮病」扱いされがちです。

しかし、このブログで取り上げている多種多様な病気や発達障害を理解するには、感覚過敏抜きに考えることはできません。この機会に、感覚過敏とは何なのか、どのように原因不明のさまざまな疾患とつながっているのか、という点を考察してみました。

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ネガティブなのに成功する「防衛的悲観主義」―不安に敏感なHSPの人に向いている?

「物事はポジティブに考えたほうがよい」。

読者の中にはそう思っている人が多いのではないだろうか。心理学の分野でも、「ポジティブ思考が美徳である」というのがこれまでの支配的な考え方であった。(p29)

近年、悲観主義者のなかにも、物事をネガティブに考えることで成功している適応的な悲観主義者(これを防衛的悲観主義者という)がいることがわかっている。

防衛的悲観主義とは、前にうまくいっているにもかかわらず、これから迎える状況に対して、最悪の事態を予想する認知的方略のことである。(p30)

年、何事もポジティブに考えればうまくいく、というアドバイスがよくみられます。いえ、近年というより、これは古くからさまざまな文化に根付いてきたおまじないのようなものかもしれません。

確かに、いつも前向き、積極的で、期待に満ちている人は生き生きとして見えます。時流に乗った有名人や起業家がポジティブな発言を繰り返しているのを見ると、ああやっぱり前向きな人が成功するのだ、と思えてしまうかもしれません。

しかし彼らは本当にポジティブだから成功してるのでしょうか。それとも、じつは因果関係が逆で、運良く成功しているからポジティブになっているだけなのでしょうか。

盲目的とさえ言える現代のポジティブ信仰に楔を打ち込むのは、冒頭に引用したような、「防衛的悲観主義」と呼ばれる人たちについての研究です。

心理学の研究によると、成功してるのは何もポジティブな人たちばかりではありません。その対極に位置しているように思われる、徹底して悲観的に予測する人たちもまた、楽観主義者と変わらないほどの成功を収めているといいます。

防衛的悲観主義とは、どんな考え方なのでしょうか。その人たちが成功する秘訣はどこにあるのでしょうか。

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愛着やトラウマをめぐる物語の主役は腸内細菌かもしれないという意外すぎる話

おそらくこの分野で最も驚くべき発見は、ひとりひとりの脳の構造が、その人の腸で最も優勢な微生物の種類と関係しているというものだろう。

これはメイヤーのグループが明らかにしており、頭部のMRIスキャンから、「その人の体内でどんな微生物の庭が育っているかを実際に予測できる」と彼は言う。(p148)

のブログでは、以前から、人体の微生物群(マイクロバイオータ)、もっと馴染み深い表現に言い換えれば腸内細菌が引き起こす諸問題を扱ってきました。

自己免疫疾患、自閉症、慢性疲労症候群など、現代社会に典型的な多くの疾患や脳の炎症が、腸内細菌の異常と密接に関係していることが近年明らかになっています。

腸内細菌は、しばしば食事やサプリによって簡単に変動するかのように誤解されていますが、実際にはあたかも指紋のように一人ひとり特有の多様性を有していて、そう簡単に変化しないようです。

慢性疲労症候群では腸内細菌の多様性が低下(コーネル大学の研究)―自己免疫性の脳の慢性炎症の原因?
コーネル大学の研究によって、慢性疲労症候群の患者の腸内細菌に異常があることがわかり、慢性的な炎症の原因となっている可能性が示唆されています。

このブログではまた、愛着やトラウマが引き起こす諸問題についても扱ってきました。こちらも、幼少期からの脳の発達に影響し、ときに生涯にわたる病気の土台となることがわかっています。

精神科医の書いた本が多かったせいで、当初は愛着やトラウマは心の問題かと思っていましたが、調べるうちにこれらはほとんど生物学的な現象だとわかってきました。

HSPの人が知っておきたい右脳の役割―無意識に影響している愛着,解離,失われた記憶
HSPの子は右脳が活発、という知見にもとづき、右脳と左脳の役割や二つの記憶システム、愛着、解離など、HSPの人が知っておくと役立つ話題をまとめました。

これまで幼少期のトラウマと、腸内細菌の異常が関与している現代病はかなり多いだろうと思っていましたが、あくまでこの二つは別個のものだと考えていました。

ところが、心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会までなどの腸内細菌に詳しい本を読んでいるうちに、どうやら別個のものどころか、愛着やトラウマは腸内細菌を土台として生じているのではないか、という極めて奇妙な考えに至りました。

自分で書いていて、突拍子もないことを言っている自覚はありますが、そう考えると納得のいく部分が多数あるのも事実なので、この記事で順を追って調べていきたいと思います。興味のある方は半信半疑くらいの気持ちでお付き合いください。

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