発達性トラウマ障害(DTD)の10の特徴―難治性で多重診断される発達障害,睡眠障害,慢性疲労,双極II型などの正体


ストレスは身体的トラウマ(フィジカル・アビュース)・心理的トラウマ(ネグレクトや心理的虐待)・性的トラウマ(セクシャル・アビュース)の形をとることもあれば、戦争や飢餓、自然災害がストレスとなることもある。

…このときにホルモンの量がごくわずかに変化し、子どもの脳神経の配線を“適応”という形で永久に変えてしまう。(p127)

較的若い10代の時期までにさまざまな精神疾患や心身症を発症する、それも一つだけでなく複数の症状が出て、さまざまな病名で多重診断される、年齢とともに診断名が変わっていく、そして治療がうまくいかず、難治性で延々と苦しむ…。

このような複雑な闘病生活を送っている人たちの存在は、これまで多くの医師を悩ませてきました。ある病気のようでありながら別の病気のような症状も示し、ありとあらゆる身体症状も訴えるという不可解な患者たちです。

診断名をつけようとすれば、うつ病、双極性障害、統合失調症をはじめ、境界性パーソナリティ障害、解離性障害、摂食障害、依存症、慢性疲労、慢性疼痛などさまざまで、近年ではADHDや自閉スペクトラム症などの発達障害も加わって、診る医師ごとに診断名が変わることさえあります。

これまで主流とされていた薬物療法に抵抗性があって、やたらと副作用が出たり、逆にほとんど反応しなかったりして効果がありません。そうなると、医師もお手上げ状態で、患者は、若い時期から何十年も複雑な症状に苦しめられ続けます。

近年、そのような不可思議な病気の原因がようやく明らかになりつつあります。2005年、ボストン大学医学部のベッセル・A・ヴァン・デア・コーク教授が、発達性トラウマ障害(DTD)という新たな疾患概念を発表したのです。

DTDとは、子ども時代のさまざまな逆境による強いストレス(トラウマ体験)が、子どもの脳の正常な発達を妨げ、これまで知られていた発達障害よりもさらに強烈な傷を脳に刻みつけてしまうという衝撃的な概念です。

この記事では冒頭に引用した友田明美先生のいやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳および、子どものPTSD 診断と治療や、ヴァン・デア・コーク先生の身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法などの本を参考に、発達性トラウマ障害がなぜADHDや自閉スペクトラム症、双極性障害2型などと似ているのか、どのような身体症状を伴うのか、どう対処していくことができるか、といったことをまとめてみました。

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これはどんな本?

今回主に参考にした本は、友田明美先生によるいやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳、また友田先生と杉山登志郎先生、谷池雅子先生らによる 子どものPTSD 診断と治療です。

この三人の先生方は、今ではみなトラウマ障害の分野に関わっていますが、もともとの研究り領域は異なっていました。友田先生は不登校、杉山先生は発達障害、谷池先生は睡眠障害などを専門としてこられた方です。

しかしそうした様々な心身症状の背後に、子ども時代のトラウマ経験が潜んでいる場合があり、難治性になったり、症状が複雑化したりしていることがわかってきました。

この本は、この三人の先生方の編纂のもと、子どものトラウマについて研究している多くの先生方による多方面からの研究がまとめられていて、タイトルの子どものPTSDのみならず、生涯にわたって影響を及ぼしかねない「発達性トラウマ障害」(DTD)の実態を把握するのに役立ちます。

またこの記事執筆後に発売された、発達性トラウマ障害の提唱者、ヴァン・デア・コーク博士による最新の本、身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法の情報も追加していっています。

原著The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Traumaは、米国のAmazonストアで、2016年末時点でおよそ1000件ものレビューがつき、しかも90%のレビュアーが五つ星をつけ、平均して☆4.8という、信じられないほど高い評価を得ています。

この本の内容のうち、ベッセル・ヴァン・デア・コークが発達性トラウマ障害を提唱するに至った経緯については別の記事でまとめていますので、あわせてご覧ください。

身体に刻まれた「発達性トラウマ」―幾多の診断名に覆い隠された真実を暴く
世界的なトラウマ研究の第一人者ベッセル・ヴァン・デア・コークによる「身体はトラウマを記録する」から、著者の人柄にも思いを馳せつつ、いかにして「発達性トラウマ」が発見されたのかという

発達性トラウマ障害(DTD)とは?

今回取り上げる、発達性トラウマ障害(DTD)とはどんなものなのでしょうか。

これは、ボストン大学医学部のベッセル・A・ヴァン・デア・コーク教授が提唱した概念ですが、友田先生による若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会第7回ヒアリング及び意見交換では、次のように簡潔に要約されています。

発達性トラウマ障害
(Developmental trauma disorder,van drr Kolk 2005)

■幼児期に普遍的な愛着障害を呈する
■学童期にADHD様の多動と破壊的行動障害が前面に表れる
■思春期にPTSDと解離症状の明確化
■青年期には解離性障害および素行障害へ展開
■成人期に一部は複雑性PTSDに進展

この要約からわかるとおり、発達性トラウマ障害は「発達性」、つまり成長に伴い、症状が次々に変化して発展していくという特徴を持っています。

提唱者のヴァン・デア・コーク博士とロバート・S.パイヌース博士は、2009年2月、国立子供トラウマティックストレス・ネットワークの作業グループによる「発達性トラウマ障害のための、合意に基づいて提案された基準」を作成しました。

その詳しい診断基準についてはいやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法に載せられていました。それぞれ同じ内容ですが、翻訳によって若干ニュアンスの違いが感じられます。

一般的な概念ではないので、医療機関でこの病名で診断されることはまずないと思いますが、参考までに以下に折りたたんで載せておきます。

発達性トラウマ障害の診断規準 (「いやされない傷」より)
表2 発達性トラウマ障害

A.暴露
小児期もしくは思春期早期に始まり一年以上続く複数回または持続的な有害体験

1.対人暴力をくり返し経験、目撃

2.保護的養育の破綻(反復的な養育者の交代、分離、情緒的虐待)

B.情動制御の困難、生理的制御の困難
発達相応の覚醒制御能力がなく、以下の2つ以上に該当

1.極端な情動(恐怖、怒り、恥など)の調整や、堪えることの困難

2.身体機能の制御困難(睡眠、接触、排泄面における問題 ; 接触や音への過敏、鈍感 ; 日常における切り替え困難)

3.感覚、感情、体調への気づきの低下、解離

4.感情や体調についての表現力低下

C.注意および行動制御の困難
発達相応の注意持続、学習、ストレス対処の能力がなく、以下の3つ以上該当

1.脅威へのとらわれ、認識能力低下(安全や危険のサインを誤認するなど)

2.自己防衛能力低下(自暴自棄、スリル探求)

3.自己慰撫を目的とした不適応な企図(身体を揺する等の律動的動き、強迫的自慰)

4.習慣性(故意または無意識)あるいは反射的自傷

5.目的をもって行動を開始、持続することの困難

D.自己および関係性の制御困難
発達相応の自意識や対人的関わりの能力がなく、以下の3つ以上該当

1.養育者その他の大切な人の安全について拘泥(早熟な世話焼きなど)したり、それらの人物と分離した後の再会が我慢できない

2.自責感、無力感、無価値観、無能感、欠陥があるという感覚など、否定的自己が継続

3.大人や仲間との親しい関係のなかで、極端な不信感や反抗が続く、あるいは相互交流を欠く

4.仲間、養育者、その他の大人への反射的な身体的暴力、言葉の暴力

5.親密な接触(性的あるいは肉体的親密さに限定しない)を持とうとする不適切な(過剰、あるいは見境のない)意図。または安全や保証を求めて仲間や大人に頼りすぎ

6.共感の気遣いを制御する能力のないことが以下で証拠づけられる。他者の苦痛の表現に対して共感しなかっったり、耐えられなかったり、過剰反応を起こす

E トラウマ後症状スペクトラム
PTSDの3症状群(B,C,D)のうち少なくとも2つ以上の各群において、一つ以上の項目に該当する症状を呈する

F 障害の期間
上記基準のB~Eが6ヶ月以上持続

G 機能的障害
上記は臨床的な有意な苦痛、あるいは以下の領域(学習、家族関係、仲間関係、身体的健康面、就労面)の2つ以上にわたる機能的な支障の原因となっている

van der Kolk,Pynoos RS,et al. Proposal to include a Developmental Trauma Disorder diagnosis for chirlren and adolescents in DSM-V.2009.より 和訳:紀平省悟先生

(いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳p139に基づく)

※注 Eの項目のPTSDの3症状群とは
B トラウマのフラッシュバックや悪夢などによる再体験
C.トラウマとなった状況や、それを連想させる刺激を回避する行動パターン
D.トラウマ後の生じた過覚醒による不眠やキレやすさ、過剰な警戒心など

発達性トラウマ障害の診断規準 (「身体はトラウマを記録する」より)

発達性トラウマ障害のための、合意に基づいて提案された規準

A.曝露。児童または少年が児童期または少年期以降、最低一年にわたって、以下のような逆境的出来事を、複数または長期間、経験または目撃した場合。

A.1.対人的な暴力の反復的で過酷な出来事の直接の体験または目撃、及び、

A.2.主要な養育者の再三の変更、主要な養育者からの再三の分離、あるいは、過酷で執拗な情緒的虐待への曝露の結果としての、保護的養育の重大な妨害

B.感情的・生理的調節不全。以下のうち最低二つを含む、覚醒調節に関連した標準的発達能力障害を児童が示す場合。

B.1.極端な感情状態(恐れ、怒り、羞恥など)を調節したり、それに耐えたり、それから立ち直ったりする能力の欠如。持続的で極端な癇癪、または身動きがとれない状態を含む。

B.2.身体的機能の調節の障害(睡眠、摂食、排泄における継続的障害、接触や音に対する過大または過小な反応性、日常生活で一つの活動から別の活動に移るときの混乱など)

B.3.感覚と情動と身体的状態の自覚の減少/解離

B.4.情動または身体的状態を説明する能力の障害

C.注意と行動の調節不全――以下のうち最低三つを含む、注意の持続または学習またはストレスへの対処に関連した標準的発達能力障害を児童が示す場合。

C.1.脅威に心を奪われること、または、安全の手掛かりや危険の手掛かりの誤解を含む、脅威を知覚する能力の障害

C.2.極端な危険行為またはスリル追求を含む、自己防衛能力の障害

C.3.適応性のない自己慰撫の試み(体を揺り動かすこと(ロッキング)などのリズミカルな動き、衝動的自慰など)

C.4.(意図的または無意識的で)常習的な、または反応性の、自傷行為

C.5.目的志向の行動を開始したり継続したりする能力の欠如

D.自己の調節不全と対人関係の調節不全。以下のうち最低三つを含む、個人的自己同一性感覚と対人関係への参加における標準的発達能力障害を児童が示す場合。

D.1.養育者またはその他の親密な人の安全(時期尚早の養育を含む)について極度に関心を抱くこと、あるいは、別離のあとの彼らとの再会を許容するのが難しいこと

D.2.自己嫌悪、無力感、自分は無価値だという感覚、自分は無能だという感覚、自分は不完全であるという感覚を含む、継続的な否定的自己感覚

D.3.成人や同輩との緊密な人間関係における、極端で継続的な不信、反抗、互恵的行動の欠如

D.4.同輩または養育者またはその他の成人に対する、反応性の身体的攻撃または言葉による攻撃

D.5.親密な接触(性的または身体的親密さを含むがそれに限らない)を得るためのま不適切な(過剰なまたは不品行な)試み、あるいは安全と安心材料を確保するための、同輩または成人への過剰な依存

D.6.他者による苦悩の表現への共感または寛容性の欠如、あるいは他者の苦悩に対する過剰な反応性によって裏づけられる、共感的覚醒調節能力の障害

E.心的外傷後スペクトラム症状。三つのPTSD症状クラスターB、C、およびDの少なくとも二つで最低一つの症状を児童が示す場合。

F.障害(発達性トラウマ障害規準B、C、DおよびEの症状)の持続期間が最低でも六ヶ月。

G.機能障害。この障害は、以下の機能領域のうち最低二つで臨床的に重大な困難または障害を引き起こす。
・学業
・家庭
・同輩集団
・法律
・健康
・職業(雇用またはボランティア作業または職業訓練に参加している、あるいはそれを求めている、あるいはそのために紹介されている若者にとって)

(身体はトラウマを記録する――脳・心・体のつながりと回復のための手法p616-617に基づく)

発達精神病理学から生まれた概念

さきほどの要約に挙げられていた愛着障害、ADHD様多動症状、PTSD、解離性障害などの病気は、これまで伝統的なカテゴリー診断によって別々に診断されていました。

しかし、それによって、一人の子どもの診断名がどんどん増えていって多重診断に陥るという問題が生じていました。

発達障害の薬物療法-ASD・ADHD・複雑性PTSDへの少量処方では、その点が杉山登志郎先生によってこう説明されています。

子どもにカテゴリー診断学を当てはめたときに、しばしば生じるのが異型連続性(heterotypic continuity)と呼ばれる現象である。

一人の子どもが、診断カテゴリーを渡り歩く、あるいはいくつもの診断基準を満たすという現象である。(p27)

この「異型連続性」の中でも特に有名なのは、齊藤万比古先生が提唱した「DBDマーチ」です。

「DBDマーチ」は、ADHDと診断された子どもが、その後反抗挑戦性障害、つまり非行に発展し、行為障害や反社会性パーソナリティ障害に進展していくという概念です。

杉山登志郎先生自身も、子ども虐待の結果、ADHDに似た症状を伴う反応性愛着障害を発症し、年齢とともに解離性障害や複雑性PTSDへと発展していく子どもたちがいることに気づき、長らく「第四の発達障害」を提唱していました。

本当に脳を変えてしまう「子ども虐待という第四の発達障害」
杉山登志郎先生の本「子ども虐待という第四の発達障害」のまとめです。虐待の影響は発達障害とどう似ているのか、また独特な問題である解離とは何なのかをまとめています。